この私が結婚した。


出会ってから付き合うまで一ヶ月。

付き合って婚約まで一ヶ月。

婚約から結納まで二ヶ月。

それからすぐに入籍。

そして結婚式。


何年付き合っても結婚に踏み切れなかった私が超スピード婚。

彼、トシキに魅かれたのは事実。

長く一緒にいれそうと思ったのも事実。

だけど運命を感じたわけではない。

価値観も恋愛経験値も趣味も生活レベルも全く違う二人。


手もつながないのに私に何不自由ない生活を与え大切にしてくれる元彼。

恵まれているけど、この人を失ったら私はどうすればいいのだろう。

そんな不安を持ち続ける生活にも、一人でいる生活にも、ちょうど疲れていた。

結婚はタイミング、まさにこのことなのだろう。


黒い家族カードを元彼に返し、普通の会社員の妻となって数ヶ月。

優しくて真面目なのが取柄のトシキ。

喜ばせたり楽しませたりすることもなく地味で無口。

物足りない、何かが物足りない。

心が満たされない。

親戚どころか親とも距離のある付き合いかたの私と

一人っ子で溺愛され親子べったり、しきたりも残るトシキの家とのつきあいも苦痛。


新婚という甘い響きとは裏腹に私の心は渇いている。

きっとこれは私の問題。

孤独を嫌い孤独を好む私は誰かと幸せにはなれないんだろう。

今度は友人の紹介で知り合った一回り年上の男性とデート。

興味もなかったがちょうど暇だったのでランチなら、と行ってみた。

ヨットに不動産に高級スポーツカーを持っている割にはぎらついてはいない。

だけど生理的に苦手なタイプ。

にこにこした表情の奥に垣間見える傲慢さ。

外国人作家や有名な投資家の話をだして私を試している。

たまたま得意分野だったこともあり、彼以上の知識をさりげなく披露すると顔が曇った。

ふっ。

心の中で笑う。

ランチの支払いは彼のステイタスでもあろう灰色のカードで。

次のお茶は彼から伝票を奪って私が黒いカードで。

彼の表情が固まる。

ふっ。

にっこり笑ってその場を去った。

私もつくづく嫌な女だ。




食事に行く友達もいる。

旅行に行く友達もいる。

「カナちゃんはほんと元気だね。いつも楽しそう。」

そんな言葉はしょっちゅう。

一人の時、毎日のように涙を流してるなんて、きっと誰も信じない。

こんなにも愛に飢え、未来に怯え、心が一人ぼっちだってことに。

旅先で訪れた神社は七五三詣で賑わっていた。

子供の手を引く親は同じ年か年下くらい。

家庭を築き歩いて行く。

孫を見る幸せそうな祖父母に自分の両親を重ねる。

きっとこんな親孝行はしてあげられない。


笑顔あふれるその場所でうまく呼吸ができなかった。

まったく眼中にないが
最近、頻繁にデートに誘ってくる彼は11歳も年下のエリート商社マン。
初めて会ったのはお酒の席。
気心知れた男友達が連れてきた。
「わっか~!下すぎて弟にも思えない」
そんな言葉をぶつけても、関西人のノリでうまく返してくる。
真っ白でピカピカなお肌、整った顔、華奢な体。
見た目とは違って、意外と押しが強い。
今日の夜会えない?
今週飲みに行かない?
大学生の彼女を連れてるような歳なのに
こんな年上を誘ってくるのは、若さ故の挑戦なのだろうか?

「いい女はさ、男をずっと選んできてるんだよ。

だけどさ、そういう女たちも、男に選ばれる立場になるんだよね。ある時期から」


バーで飲んでいる時に隣の客がこんなことを言っていた。

説得力がある。

30代からは厳しいってことか。

昨日はごめんなさい。

安静にしてたら随分回復したよ。

今会社に向かってます。


今朝届いたメール。

土曜日に、明日遊ぶのは体調しだいと言うなら

何故、昨日一言メールしないのだろうか?

理解ができない。

大人でしょ?社会人でしょ?


私の気持ちは冷めまくりだけど

何事もなかったかのように、

よかった、心配してた、ぶり返さないようにね

丁寧に返信する。


これからは私からメールしたり、次いつ会うか聞いたりしないと思う。


心はもう move on モード。

明日遊ぶのは体調しだいになるけど

そんな言葉を昨夜のメールに残すなら、

今日の状況を午前中に連絡してくるべきだと思う。

昨日の時点で今日会うのはないと予想している。

なんの連絡もしないのは非常識。

好きという気持ちが面白いくらいに目減りしていく。

まめで優しすぎるほど優しい真面目な人。

この人を好きになれば、幸せになれるんだろうなと思う

そんな人とのドライブデートを断ってまでサトシのために空けた今週末。

掃除をして花を飾り明日の朝食のメニューも考えた。

それが風邪でドタキャン。

久々に声をあげて泣いた。

サトシに会えなかったことがツライんじゃない。

そんな男しか選ばない自分が情けない。

付きあってはないが、恋は始まったのか。


同じ年のサトシ。

奥さんに彼氏ができ、ある日突然、離婚を言い渡されたのが去年の話。

一時的な浮気なら、と目をつぶってでもやり直したかったくらい

奥さんのことが好きだったらしい。

結局奥さんの心は戻らず離婚したのが今年のはじめ。

心に大きな傷を持った、そんな彼にこの夏出会った。

優しい笑顔と大きな体が印象的。

大らかだけど芯は強くプライドは高い。

そして次の恋に慎重であり臆病。


デートを重ねても、なんの言葉も行動もなく、

よく分からない関係にそろそろ疲れてきたと思っていた時

「カナちゃんのことが好き」

そう言われ、一歩進んだ私たち。

口数も少なく口下手な彼なりに頑張ったんだろう。


しかし付き合ってはないようだ。

若くして結婚したサトシ。

約10年ぶりの恋愛に戸惑っている。

10年前と言えば考え方も勢いも今と違って当然だ。

「前の自分なら付き合ってくれとすぐに言っていたのに」

辛そうにつぶやく。

好きになることはできた。

しかし付き合うというのはまだ踏み込めない。

次は失敗したくない、彼が何度も言う。


好きだ。他の人とデートしてほしくない。

好きという気持ちを聞いても、体を重ねても、

結局よくわからない関係に変化はない。

それどころか、ますますよくわからなくなっている。

悩んだし心も痛めた。

だけど、考えても全ては彼の都合、私にはわからない。

今はまだ彼のことが好き。

だから一緒にいる。

だけどいつまでも彼の都合に振り回される気もないし、

私はそんなに気長じゃないことは自分が一番知っている。

今を楽しもう。