ちょうど一年たったその夜。
もし、あのわき道で傘をたたまなければ。
もし、傘を取りに戻っていなければ。
もし、今夜彼がうちに来てあたしは外出の必要もなくなってたとしたら。
もっともっと、 もし がいっぱいあって。
あたしはその奇跡みたいな偶然で頭が真っ白になって、
買っていくねと言ってた鰻も買い忘れて彼のうちまで来てしまった。
土用の丑の日の終わった頃。
物音に気づいて、
チャイムを鳴らすより前に彼はドアを開けてくれた。
焦点も定まらず、
霧雨に打たれて濡れたあたしをみて異変に気づく。
「大丈夫?・・何があった??」
絶対に言うまいと、それだけは決めてこの家にたどり着いた。
きっともうどうしたってテンションはあげきれず、
むしろ顔を見たらきっと泣き出してしまうだろうな、と思いながら、
でも、せめて笑っていたくて
「・・ごめん、鰻買い忘れてきちった;」
と言ってみた。
無理があるのは百も承知で。
それでもこの件で彼に泣きつくことだけはしたくなかった。
実際眠れないほど課題におわれていた彼が、
突然、「テイスティングをしよう@」と言う。
あたしは何も感づくことなく、
彼の思惑通りにテイスティングをしながらおしゃべりをした。
ポロっとあたしの口から出た言葉に、
あたしが一番びっくりしたかもしれない。
「真っ黒な箱を、やっとひとつ開けるのに、四時間か。
や、むしろ四時間で開けた俺はよく頑張ったなぁ。」
なんていいながらコーヒープレスを片し始めて。
「もともとそのつもりでテイスティングなんて言い出したの?!
バカじゃないの?!!課題終わんなくて寝る時間すら無いのにっ!」
「だって、今を逃したら美雪は二度と口を開かないだろうから。
聞いてやれるの今しかねーじゃん。」
それを聞いたとき。
なんか、もう大丈夫なんだって 思えたんだよ。
きっと自分から話せることなんてこの先もずっと少ないと思うけど。
なんか、色んな恐かったことが、大丈夫なんだって思えた。
いつも、カッコつけたがりぃで。
見かけによらず、ロマンチストで。
平気でくさいコトゆーし。すげーめんどくさいときもいっぱいだけど。
こうやってあたしは、めいっぱい今惚気られるん。
きっと、大事にされてる実感があるからだろうなぁ。
あたらしいものに 生まれかわれる
ひどく心地悪かったいくつもの偶然から、
そんな希望が生まれた夜だった。
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