中学時代。いじめにあった。
負けた。悔しかった。
もう、二度と同じ思いはしたくなかった。
だから、力が欲しいと思った。
誰もオレに逆らえない。そんな世界観にあこがれを抱いた。
オレは他人とは違うんだ。誰にも負けないんだ。そんな空想をよく描いた。
社会に出た。
失敗ばかりだ。ここでも悔しい思いばかりだった。
周りがみんな敵に見えた。
そして、本当の自分はこんなもんじゃない。そう言い聞かせた。そう思って過ごした。
彼女が出来たこともない。
空想では、相手が自分に夢中になるシチュエーションをイメージした。
そして、実際には、好きな子がいてもただ空想するだけだ。
何もアクションは起こさない。相手が来るのをただ待ち、自分が優位に立つ空想をするだけだ。
本当はアクションを起こさないんじゃない。起こせないんだ。
しゃべったら、相手のことを何も思いやることのできない自分に気づいているから。
どうせ失敗するに決まっていると心の底で分かっていた。
力が欲しいと思った。
学歴があれば自分が他人より秀でている人間になれると思った。
医学部に行けば、地位も権力も金も学歴も全部手に入る。
そう思った。
でも、実際は何も行動しない。
会社に行って、仕事もコミュニケーションもままならない自分を自分で認めることが出来ずに、ただ、今の自分は本当の自分じゃないと、医学部へ行ける人間なんだと、そう考えることでつらい現実をやり過ごしてきた。
もう、40も後半だ。
後がない。
この歳でようやく予備校の門をたたいた。
生まれた初めて、自分の意志でこうしたい!医学部に行きたい!と意思を伝えた。
少しずつ、変わっていった。
コンプレックスの塊だけれども、そこからスタートするしかなかった。
いつか見てろ、と意気込んだ。
毎日自習室に通った。
授業はなにを言っているのかさっぱり分からない。
問題とにらめっこしながら参考書を何冊も買って調べる。
周りからどう思われるかなんて考えなかった。
必死だった。
いつか見てろと、悔しさを勉強にぶつけた。
少しずつ仕事も出来るようになってきた。
仕事でうまくいかないときは、なおさら、勉強に悔しさをぶつけた。
ぶつける場所が必要だった。
偏差値30台というのは、いくらやっても点数に跳ね返ってこない。
少しずつ分かるようにはなってきているのは、自分でもわかる。
でも数字に全く跳ね返ってこない。
巷にあふれている偏差値40から医学部合格。そんな話はあり得なかった。
俺の強みは怒りをぶつける先が勉強だったこと。
いくら数字に跳ね返ってこなくても、ぶつける気持ちの方が強かったから、その停滞期も苦痛ではなかった。
むしろ、少しずつ分かっていく感覚が自信になっていった。
そんな時、彼女が出来た。
20代でモデルのような子だった。
なぜか、あまり惹かれてはいなかった。
それ以上に、勉強の邪魔になるかどうかが気になった。
キスをして、今度のデートでHさせてって言った。
それから、少し俺の態度は横柄になっていった。
向こうから告白してきたし、強気だった。
そんな態度が露呈して、別れ話を切り出された。セックスはまだしていなかった。
そんなに好きでもなかったから、じゃあいいよって言ってすぐ別れた。
それから、彼女は会社のほかの男と仲良くなった。
我慢できなかった。
優勢な状況が逆転した。
俺は彼女のことは何もわかっていなかった。好きだったのかもわからないが、ほかの男とイチャイチャされたら、嫉妬にかられた。
復縁を迫った。
ないです。と断られたが、無理やり迫った。
会社の社長に告げ口された。
それから、お互いシカトしながら、訳の分からない関係が続いた。
彼女の妹が俺の部署にいる。余計にややこしい。俺の彼女に対する態度と妹の態度が連携している。
彼女に冷たく当たると妹がオレに突っかかってくる。
勉強が本当に手につかなくなりそうになった。
それでも毎日自習室に通った。
忘れるために勉強した。
いらだちを抑えるために勉強にぶつけた。
女の子と付き合ったことなどなかった。
勉強も仕事も順調になりかけていたのに。
出会わなければよかった。と後悔した。
セックスの手前で別れるというシチュエーションが尚更、未練を増長させた。
また、いつものようになんで自分ばっかりこんなに苦しむのだろう?そう思った。
ただ、勉強だけが希望だった。光だった。
いつか見てろよってまた、ひとりでもがいた。
未練がましいが、そのあとも何度かアプローチした。
返事はない。
声をかけても何も起きない。
むなしいだけだった。
でも、精一杯自分の気持ちは伝えた。
ひどい言葉も投げかけた。それ程間違っていないと思ったし、向こうの態度も悪いと思っていたけど、やっぱり好きだった。
だから、悪かったと謝った。
それがオレに出来る最後の精一杯だった。
しつこいとか、セクハラとかそういうのはあまり考えなかった。
精一杯、自分の思いを不器用に伝えた。
それしかできなかった。
そして、また、勉強にどうにもならない思いをぶつけた。
つらかった。
友達がいる。
あまりオレはその友達のことを理解してあげることが出来なかった。
体調のあまりよくない友達で、俺の方がその友達に付き合ってあげてる。って思いもどこかにあった。
対等ではなかった。
対等な友達を作ることは今までできなかった。
自分が劣っているのがばれるのが恐かった。
その友達もオレは切ろうとした。
もうあらゆる人間関係から逃げたかった。
仕事も表面上だけ合わせる関係でいい。
後は自分一人の方が楽だった。
誰かに心を開いて傷ついたり、何かを指摘されるのも怖かった。
やっぱり周りがみんな敵だった。
でも、その友達は、ラインをブロックしてもオレと関わろうとしてくれた。
うっとしい。また、その友達に合わせるのがうっとうしい。
だから、最後に本音をぶつけた。
無理ならもう、これで終わりにしようと思った。
今まで本音で話せなかったこと。
本当はこんなところが嫌だった。本当は病気だと思ったからかわいそうだと思って付き合ってきたということ。
言ってしまった。
こんなの友達じゃないよね。
でも、今、なぜ、その相手を友達と呼べているかというと、その友達は俺を励ましてくれたから。
俺がその友達を傷つけているときに、友達は俺を救うことを考えてくれていたんだ。
いじめられた過去も話した。
47年間、生きていれば、人に話したくない過去の一つや二つはある。恥じるな。と言ってくれた。
そんな言葉をかけてくれる相手は今までの人生でいなかった。
今まで力んでいた体の力が少し抜ける感覚がした。
うれしかった。
それからも、俺がつまずきそうなとき、そっと優しい言葉をかけてくれる。
俺は今まで何をしてきたのだろう。
何と戦ってきたのだろう。
力が欲しいと思った。
そう思ってきた。
でも、本当の強さは俺が思ってきたものとは違うかもしれないと、今、思える。
友達は稲穂のようにという。
オレは力ずくだった。力でねじ伏せたかった。圧倒的優位に立ちたかった。
なんて弱いんだろう。
金や権力があれば、幸せが手に入ると思ってきた。
幸せは環境が作ると思ってきた。
いい環境に居れば、いい人格になるし、そうすれば、人生がうまく回ると思ってきた。
でも、今はそう言い切れない自分がいる。
今まで生きてきて、どれだけの人に迷惑をかけ、どれだけの人に救われてきたのだろう。
今、こうして当たり前のように日常を生活することが出来て、親からも心配され、自分のやりたいように勉強させてもらっている。
俺は何と戦っているんだ?
母親が癌になって、手術はしたが、今も抗がん剤治療を続けている。
髪の毛が抜けたり、味覚障害があったり、副作用に悩まされている。
かける言葉が見当たらない。
力が欲しいと思った。
今、母親に言葉一つ探してもなかなか出てこない。
何が力だ?俺は何を学んできた?何もわかっていない。
病気で苦しんでいる友達になんという言葉を投げかけてきたのだろう。
自分があまりにも小さくて、情けなくて、そして、とても弱い。
今ある日常のささいな優しさや喜びに気づくべきなんじゃないか。
そんな日常を愛せることが本当の強さなんじゃないか。
友達の些細な一言が、いじめの苦しみから俺を解放してくれた。
人は一人では生きられない。
意地悪な人ばかりじゃないんだ。そう思えるだけで、自分は少しでも成長できたのかな?
苦しかった。
友達も含め、他人を傷つけてきた。
自分のことばかりだった。
オレは強くなる!強くなる!と言って、弱くないんだ!弱くなんかないんだ!ってずっと叫んできたような気がしている。
本当は、誰よりも弱くて脆かった。
友達と呼べる相手は、彼しかいない。
たった一人の友達だ。
勉強は続ける。
生まれた初めて、偏差値60を超えた科目も出た。
結果はどうあれ、ここまでやってきたのだから、自分の出来るところまで挑戦してみる。
愛を持って生きるとか、優しくいきるとか、そういう模範解答は今はしっくりこない。
ただ、今は、その友達のことは大切にしていきたいと思っている。
色々、友達の気持ちを考えない言葉を乱暴に投げつけてきてしまった。
償えるとは思わない。自分の中で十字架として刻む。
その友達のことは大切にしたい。
見捨てないでほしい、というような感覚にも似ているが、これからは、お互いが輝ける未来を目指せるように、希望をもって生きていきたい。
家族、同僚、友達。そこに相手がいる。
何ができるだろうか。
これからは、自分のことばかりではなく、相手のことも考えようと思う。
つらいことが沢山あるけれども、彼女のことも忘れられそうだ。
人は一人で生きているわけではない。一人では生きられない。
自分の弱さを伝えることの方が、本当の勇気が要ることなのかもしれない。
自分の中の強さの定義が変わろうとしている。
力が欲しいと思った。
出発点はどうしようもない理由だったかもしれない。
それでも前に進もうと、実際に動いたら、色々起こった。
最初のころ見ていた世界の景色と今見ている世界の景色が違うんだ。
上ばっかり見ててもしょうがない。
横のつながりが大切だと思える。
人も捨てたもんじゃないと思える。
今、その友人に出会えてよかった。
オレには友だちがいる。
たったひとり。
そのひとりのおかげで、変われるんた。
出だしの頃に、思っていた、力が欲しいと思った。と今、思う、力が欲しいは明らかに違う。
これを読んだら何と言うだろうか?
なげーよ、とか、また、気持ちを軽くしてくれるのかな?
いつもサンキュー^_^