そう。

 今までの人生は、特に自分の事しか考えてなかった。

 仲間が無事ならそれでいいと思った。

 誰かが自分の事を心配するなんて、これっぽっちも考えなかった。


 「………」


 ゾロに対して、罪悪感がこみ上げる。

 いつもは、知らないところでケガばかりしてきて、自分を心配させてばかりいるゾロ。

 自分の心配なんて気にしてないと、むかついたり腹を立てたりしていた。

 なのに、ゾロの真剣な眼差しを捉えてしまった。この熱い男も、誰かに対して(この場合は自分だけど)そう腹を立てる事があるのかと、気付く。

 腕を解き、向き合う格好になった。ゾロの顔を見つめると、変わらない真剣な瞳。

 

 「ゾ…」





 予想出来なかった優しい眼差しに、口篭る。顔が赤くなるのが解った。



 「何か言う事があるだろう」
 


 正面から真っ直ぐ聞いてくるゾロに、サンジは一呼吸置いて、答えた。

 「…ごめん」
 

 サンジは、自分が子供だと実感した。

 ゾロはいつも何も言わないし、必要な事以外聞いたりしてこないから、なかなか真意が掴めない。

 だから、時々こうやって宥められて言い聞かせられると、コイツには本当に敵わないと思い知る。
 力でも、精神面でも。
 だからこんな時だけは、素直に謝れる。ゾロは、微笑っていた。



 「サンキュ…」

 心配してくれた事と、想いの深さを知りきゅっと抱きつく。ゾロはそれに答える様に優しくサンジの身体に唇を落とし始めた。



<続く>




 次に与えられるはずの快感がなかなか訪れなかった。


 「……?」
 

 サンジが閉じていた瞼を持ち上げ、ゾロを見た。すると、足の間から自分を睨みつけるゾロと目があって、どきりとする。

 ゾロはただ、サンジを見ていた。

 「な…に見てんだよ!」


 「………」


 内腿にくちづけを落としていた唇が、少しだけ動いた。

 抵抗しようとした足は軽く掴まれて、ゾロはサンジに顔を寄せて言った。


 「…テメーは解っちゃいねぇんだな」


 真剣なゾロの顔に、サンジはどきりとしたが、盛り上がった気分を削がれた事にムッとしてゾロの腕から擦り抜ける。


 「何言ってんだ…ヤらねぇなら足開かせんな」

 

 体を翻したサンジは、煙草に手を伸ばすが、それは遮られた。


 「あっ?」


 組み敷かれる形で、後ろに回された両腕は力一杯握られ、やわらかいベッドがぎしりと軋んだ。


 「オイオイ…乱暴プレイか?」


 サンジは動揺を隠して余裕ぶったが、ゾロの口づけにぎくりとした。


 「…触るなよ」

 怪我した背中。傷跡は生々しく、多分痕は残る。

 数センチの縫い跡に、荒々しい目をした男は優しくキスを施す。サンジがやめろと言ってもそれは続けられた。



 「ゾロ…も、う…」

 サンジの最後の静止を遮る様に、ゾロが低い声で言った。


 「お前…自分は死んでもいいと思ったんだろう」

 「っ!」


 「そうなんだろう?」


 「………」


 サンジは反論出来なかった。

 あの時。

 自分は死んでもいいと本気で思ったのは事実だった。仲間を助けたという自己満足なんかではなかった。
 初めて誰かの為に何か出来たと思ったのだ。
 結果的にはお荷物になっただけだったが、あの時もし死んでいても、多分後悔はしなかっただろう。
 それなのに。


 「だったら…何だってんだよ!」

 その思いに気付かれたことに、サンジは動揺し、そしてなぜか苛々した。

 

 「………」

 ゾロは黙っていた。

 拷問のような重い沈黙が続いたが、サンジの腕はするりと解放された。

 その行為に、サンジは再び息を呑む。ゾロはこれまでにない優しい腕で、サンジを抱きしめた。



 「心配させたとか…思わねぇのかよ」

 「ゾロ…」
 

 自分勝手な想いの裏に、ゾロの想いがあった。

 搾り出されたゾロの本音。

 その一言で、どれだけ大事に想われていたか、サンジは知る事が出来た。




<続く>