陽を受けた果実が熟されてゆくやうに
心のなかで人生が熟されてくれるといい。
さうして街かどをゆく人達の
花のやうな姿が
それぞれの屋根の下に折り込まれる
人生のからくりと祝福とが
一つ残らず正しく読み取れてくれるといい。
さうして今まで微かだつたものの形が
教会の塔のやうに
空を切ってはつきり見えてくれるといい。
さうして淀んでいた繰り言が
歌のやうに明るく
金のやうに重たくなつてくれるといい。
心のなかの石段を一段一段昇ってゆかう。
丁度、あの中世の偉大な石工達が
築き上げた美しい聖堂を
一段一段、塔高く昇ってゆくやうに、
私達の心のなかの石段を
一段一段、空高く昇ってゆかう
さうしてもう一度だけその頂から
廣野の果ての荘厳な落日に
僧院の庭に音立てる秋の落葉に
人々の群がった街かどに
また愛するものの佇む窓辺に
別離のまなざしを向けよう。
さうしていつか私たちの生涯が
このやうに荘厳に終えてくれるといい。