「秀吉さん・・・・・・!? いつからいたの?」
秀吉「ついさっきな。一緒に帰るぞ」
「う、うん・・・・・・!ありがとうございました、ご主人」
店主「いやいや、こちらこそ。いいものを見られたよ」
「いいもの?」
店主「あんたの顔、花が咲いたみたいに嬉しそうだ。もう淋しくはないねえ」
(そ、そんなにわかりやすいんだ、私って)
照れながらお別れを告げて、秀吉さんを追いかけた。
「秀吉さん、仕事は終わったの・・・・・・?」
秀吉「おう、思ったより早く話がついたんで、信長様に急ぎ帰るよう命じられた」
当然のように私の荷物を持ってくれながら、秀吉さんが私を見つめる。
秀吉「わかれ際、信長様が『ゆうに敵視されてはかなわをからな』と仰ってたんだけど・・・」
(え!?)
敵・・・・・・笑笑
秀吉「お前、あの方と何があったのか?」
「ううん、何もないよ・・・っ?」
(信長様、私がライバル視してること、気付いてるのかな・・・・・・。やっぱり底知れない)
内心冷や汗をかきながら、ふと、ある疑問が私の頭に浮かびあがった。
「・・・・・・ねえ、秀吉さん。もし、信長様と私がケンカになったら、どっちの味方する?」
嫁姑問題に挟まれた息子のような、辛い立場の秀吉さん😰
秀吉「んー?なんだ、妙な質問だな。もしそんなことになったら、俺は両方の言い分聞いて、仲裁役になる」
(冷静で公平で、真っ当な答えだなぁ・・・・・・)
秀吉さんらしくて、そういうところも好きだけれど、恋をしている私には、ちょっとだけつまらない答えだ。
だね。「勿論お前の味方!」と言ってもらいたいお年頃よね・・・
(いやいや・・・・・・自分で質問しといて、拗ねるなんて子供っぽいな、私。秀吉さんに見合う良い女になるには、心の広さと落ち着きが必要だよね)
話題を変えようと口を開きかけるけど・・・
秀吉「------だけど」
「え?」
秀吉「ケンカを仲裁したあとは、お前を連れ帰って甘やかすよ。お前が正しくても間違ってても、俺はいつも、お前の味方だ」
きゃー!この言葉欲しかった言葉じゃないー?
💯❗百点よ秀吉さん〜♡
(秀吉さん・・・・・・)
とろけるように甘い笑顔で、秀吉さんが私を見つめる。胸がさんざめいて、恥ずかしいほど嬉しくなった。
「ほんとに、過保護だね・・・・・・」
秀吉「しょうがないだろ?俺はお前のことが、可愛くて可愛くて可愛くて堪らないんだ。構い倒して甘やかして喜ばせて、いつも笑ってて欲しい」
ちょっとちょっと聞いたー?秀吉さんいいな。。
(っ・・・・・・)
堂々と言い切られて、顔がいっそう火照った。秀吉さんは私を見下ろし、こつん、と額を小突いて笑った。
秀吉「なんだ、ゆう。この程度で照れてるのか?」
「照れないでいる方が無理だよ・・・・・・っ」
秀吉「そうかそうか」
おかしそうにまた笑い、秀吉さんが身体を傾ける。
秀吉「可愛いからよく見せろ」
(わ・・・・・・っ)
「ち、近いよ・・・っ」
秀吉「俺としてはまだ遠いぞ」
次は唇を指でつつかれ、鼓動が大きく跳ね上がる。
「っ・・・・・・からかい過ぎだよ、もう」
恥ずかしくてたまらず、顔を背けて先に歩き出そうとすると・・・
秀吉「こーら、勝手に離れるんじゃない」
(あ・・・・・・)
長い腕が伸びてきて、私の手首を捕まえ、引き寄せる。
秀吉「そばにいろよ。・・・・・・ずっと、な」
(え・・・・・・?)
「急に、どうしたの・・・・・・?」
秀吉「急じゃ、ないよ」
秀吉さんは微笑んでいるけれど、目がとても真剣で、思わず足が止まった。
秀吉「ゆうは昨日、俺と別れたあとはいつも『早く逢いたい』と思うって、言ってただろ?」
「うん・・・・・・」
秀吉「俺はな、ゆうの顔を見た瞬間に、いつも思ってる。このまま二度と離したくないって」
(秀吉さん・・・・・・)
繋がれた手が、秀吉さんの口元へと運ばれる。熱い唇が、私の手の甲に優しく押しつけられた。
秀吉「で、別れる時はいつも・・・・・・次にまたゆうに逢えるまで、必ず生きようと思う」
「え・・・・・・」
秀吉「ま、我ながら大げさだと思うけどな」
苦笑いして、秀吉さんは私の手を引き再び歩き出した。はっとしながら、私も足を踏み出し、秀吉さんに告げる。
「っ・・・・・・大げさじゃないよ。秀吉さんが言ってること、私もわかる気がする」
秀吉「そうか」
(この時代で生きてれば、いつ戦が起きるかわからないし・・・------ううん、この時代じゃなくても同じだ。明日何が起きるかなんて、誰にもわからない。だから、私達は・・・・・・)
こうして巡りあった幸福を、一秒ごとに噛みしめる。こうして触れ合える奇跡を、全身全霊をかけて味わう。甘く痺れるような昂り(たかぶり)が、足元から頭のてっぺんへと突き上げてきた。
(今の、この感じ・・・・・・なんて言えば、いいんだろう。なんて言えば、私が感じてる幸せの凄さを、秀吉さんに伝えられるんだろう)
寸分の狂いなく正確に伝えたいのに、ちょうどいい言葉が見つからない。家路をたどる人達が、私達のそばを賑やかに通り過ぎていく。もどかしさに駆られたその時・・・
秀吉「・・・・・・なあ、ゆう」
「え・・・・・・?」
繋いだ手に、秀吉さんが優しく力を込める。
秀吉「もう少し、こうして散歩してようか。今日はよく腫れてて夕焼けが凄いから、終わるまで見ていこう。うまく言えないんだけど・・・・・・見逃すのはもったいない気がする」
「・・・・・・うん」
見上げると、安土の空はどこまでも高く広がり、あかあかと燃えている。
(本当だ。すごい、真っ赤・・・・・・)
暮れゆく夕空を見上げながら、繋いだ手を強く握り返す。秀吉さんの大きな手のひらに、私のてのひらはすっぽりと収まっている。まるで、元々そうするために作られていたみたいに、肌と肌は馴染んだ。
秀吉「・・・・・・綺麗だな」
「------・・・綺麗だね」
同時に呟き、横目で見つめ合う。秀吉さんの瞳も、そこに映る私の瞳も、宝石のようにきらきら輝いている。
秀吉「ゆう、俺、今な・・・・・・」
「何・・・・・・?」
秀吉「足りないものが、なんにもないって感じがする」
「うん・・・・・・!私も、同じ気持ち」
(秀吉さんも、私と同じ気持ちでいるのかもしれない。この気持ちは、うまく言葉にできないけど、ただこうして、二人一緒に感じるだけで、いいのかもしれない。あなたがいれば何にもいらない)
夕空を背景に、私の大好きな笑顔が深まっていく。この世界のすべてが、いつまでも見つめていたいくらい、楽しかった。