----------
数日後------
秀吉「あー・・・・・・やっとお前を連れ出せた」
「ほんと、大変だったね」
夜、秀吉さんの部屋でくつろぎながら、私達は小さく息をついた。城での宴のあと、秀吉さんは仕事に追いまくられて休みがなくなり、私も針子の仕事が沢山舞い込んで、城を一歩も出られなかった。
(こうしてゆっくり逢うのも、宴会以来だ)
あぐらをかいた秀吉さんの膝に、私は背中から抱かれるようにして乗せられていた。
いいな、、、😅
お腹の上で組まれた両手が、温かい。その上に手のひらを重ねて、私は秀吉さんを振り向いた。
(ここ数日、ずっと気になってたけど・・・・・・)
「秀吉さんって、やっぱり格好良いなぁ・・・・・・」
シャープな頬のラインを見つめながら、悩みが深まってため息がでた。
秀吉「っ・・・・・・なに言い出すんだ、急に」
「秀吉さんと恋仲になったことを知った針子仲間の子達に、すごく羨ましがられたの。町で知り合った女の子にも。光秀さんの言うとおり、安土中が恋敵だらけだよ」
秀吉「馬鹿言うな。考え過ぎだ」
(もう、秀吉さんはわかってないよ)
秀吉さんの膝の上から下り、向かい合って正座する。
秀吉「どうした?」
「もうちょっと自覚を持ってください。自分がどれだけ人たらしか」
秀吉「え・・・」
「秀吉さんの気持ちが変わるなんて、少しも疑ってないけど・・・それでも不安になるくらい、秀吉さんが素敵だから困ってるの。私は秀吉さんが格好良すぎて、心配なの」
秀吉「っ・・・・・・ばかなこと言ってないで、乗る支度するぞ」
(あ、照れてる・・・・・・)
秀吉さんの口が、への字に曲がっている。
(照れてる顔も格好良いなんて、なんて困った人だろう)
幸せな、けれど真剣な悩みは、ずっと尽きそうにない。立ち上がりかけた秀吉さんの袖を私はぎゅっと引っ張った。
「・・・・・・ねえ、秀吉さん」
秀吉「ん?」
「私、なるべく早く、秀吉さんにふさわしいような良い女になるから、待っててね」
秀吉「あーのーなー・・・・・・」
深くため息をつくと、秀吉さんは私の頬を両手で挟んだ。
(な、何・・・・・・?)
秀吉「とっくにお前は、なってるだろ」
「え?」
秀吉「前にも言ったはずだぞ。お前より良い女なんて、いない」
「そ、それは、褒めすぎだよ・・・・・・」
秀吉「そんなことない。俺が言うんだから間違いない」
「でも、」
秀吉「でも、じゃないだろ?」
(あ・・・・・・っ)
次の瞬間、私はやんわりと畳の上に押し倒されていた。
(秀吉さん・・・・・・?)
秀吉「聞き分けのない子は、お仕置きするけどいいのか?」
「冗談、だよね・・・・・・っ?」
秀吉「さあ、どうだろうな?」
まるで戯れるように、手首を優しく押さえられる。けれど、秀吉さんの瞳は怒っているみたいに真剣だ。
秀吉「本音を言うと------気が気じゃないのは俺の方だ。お前がどんどん綺麗になるから」
(そ、そんなこと考えてたの・・・・・・っ?)
見下ろす瞳が燃えていて、心臓の音が身体じゅうに響き渡る。鼓動がうるさくて、返す言葉が浮かばない。
秀吉「こら。黙ってないで何とか言え」
「っ・・・・・・ごめん、どきどきして、ちょっと待って」
秀吉「そんなもん、俺だって同じだ」
「嘘・・・・・・っ」
秀吉「嘘じゃない。前からずっと、そうだった。お前の世話をいくら焼いても、兄貴でいる間、もどかしくてたまらなかった。だからこれからは------お前をめちゃくちゃに甘やかす。兄貴分としてじゃなく、男として」
いいな。。。私も甘やかされたいー♡
(秀吉さん・・・・・・)
余裕のない眼差しが、秀吉さんの気持が言葉通りだと私に伝えた。初めは、お互い警戒し合ってた。打ち解けてからは、兄妹みたいな関係になった。たくさんたくさん遠回りして、恋になった。長い道のりを超えて手に入れた今の絆が、愛おしくて堪らない。自分から手を伸ばし、秀吉さんの癖を真似して頭をそっと撫でてみる。
秀吉「・・・・・・なんだ?」
「いつもの、お返し」
秀吉「・・・・・・ったく」
目元を赤く染め、秀吉さんが苦笑いする。
秀吉「俺は、お前が可愛い過ぎて、心配だよ」
(それ、私の台詞・・・・・・)
言い返そうとしたけれど遅かった。
「ん・・・・・・っ」
唇を奪われて、すぐに何を言おうとしていたか忘れてしまった。
(甘い、味がする。何度でも、欲しくなる・・・・・・)
全身で愛しい人を感じながら、私は、こんな夜がこれから、何度も続いていくのだと、はっきりと予感した。