幸村「で?誰と決闘すんだよ」

佐助「気になる対戦相手は------」

「六郎さんだよ」

幸村「やっぱりか」

六郎「恨みっこなしの一本勝負だ。文句ないな」

幸村「ああ。久々の手合わせだからって加減しねーぞ」

(幸村、嬉しそう)

六郎「その意気で来いよ。なんたって、勝者にはゆうが贈られるんだからな」

幸村「はあ!?」

予想通りな反応に、つい苦笑をこぼしてしまう。

幸村「ちょっと待て、誰がそんなこと決めやがった?」

「ええっと・・・・・・六郎さんです」

六郎「適任だろ」

幸村「っ、なんでだよ、わけわかんねー」

佐助「昨日、六郎さんが幸村にリサーチした結果だ」

幸村「『りさーち』ってなんだ?いや、それよりどうしてゆうなんだよ」

六郎「お前とじっくり話して、幸村が誕生日にもらって一番喜ぶのは、ゆうだってわかったからだ。俺の推測は間違ってないだる?」

幸村「・・・・・・っ。ったく、お前らの祝い方は可愛くねーんだよ」

六郎「いいだろ? 盛り上がるし、なにより幸村の剣が鈍ってないか確かめられる」

幸村「そっちこそ、鈍ってねえか確かめさせろ」

六郎「期待に応えてみせるよ」

(六郎さんもきっと強いと思うけど、幸村が勝つって信じてる)
幸村は竹刀を構え、六郎さんと一定の距離を取って向かい合う。

佐助「それでは------用意、始め!」

幸村「覚悟っ!」

お互いに眼差しが鋭くなった次の瞬間、竹刀が激しく交わり乾いた音が響く。

「すごい迫力・・・・・・」

佐助「幸村はもちろん、六郎さんもさすがだ」

瞬時に間合いを詰める六郎さんから振り下ろされた竹刀を、ぎりぎりで幸村が振り払った。

幸村「くっ」

(っ、今のは危なかった!)

六郎「残念、筋をよく見極めるようになったな」

幸村「分かりにくい攻撃しかけやがって」

六郎「!」

幸村から突き出された切っ先に、六郎さんがバランスを崩す。さらに踏み込んだ幸村が、容赦なく六郎さんの竹刀を弾き飛ばした。

佐助「勝負あり。勝者、幸村」

(やった!)
飛ばされた竹刀が床に転がり落ち、幸村は盛大な息を吐き出す。

幸村「くそ、ぎりぎりかよ」

六郎「幸、もっと頑張らないとゆうにかっこいいとこ見せられないぞ」

幸村「うるせー」

口は悪いけれど、汗をぬぐっているふたりは笑顔だ。

「おめでとう、幸村!六郎さんもお疲れ様です」

健闘をたたえて拍手を送っていると・・・・・・

佐助「早速だけどゆうさん、重要任務だ」

「え?」

佐助くんに手を引かれ、幸村の前まで連れていかれる。

佐助「ただいまより、勝者へご褒美の贈呈式執り行いたいと思います」

「ご、ご褒美って」

六郎「最高の誕生日の贈りものだろ、幸」

幸「おー」

「おー!じゃないよ!もう!」

六郎「贈呈式は以上で終了だな。俺たちは邪魔者らしい」


佐助「確かに。それじゃあ、これにてドロン」

六郎「幸。言っておくが、場はわきまえろよ。ここ、道場だからな」

幸村「バカなこと言ってんじゃねーよ!」

赤くなる私たちを置いて、佐助くんと六郎さんは楽しげに去っていく。ふたりきりで残されて気恥しさに俯くと、ぐっと顔を幸村のほうに戻されて・・・・・・

幸村「で、どうやって俺のものになんだ?」

「どうやってって・・・・・・考えてなかった」

すっと目を細めた幸村が、指先で私の唇をなぞる。

幸村「じゃあ、今すぐ考えろ」

(っ・・・・・・ここで!?)
身体が一気に火照って、返事に困っていると、おかしそうに笑った幸村が、私から手を離した。

幸村「お前、慌てすぎだろ」

「え・・・・・・もしかして冗談!?」

幸村「まあな」

「もう! 無駄にドキドキしちゃった分、返して!」

幸村「は? んなもん、返せるわけねー」

(うー・・・・・・悔しいけど、幸村が楽しそうだからこれ以上怒れない)
すると幸村は、意地悪だった瞳をふっと柔らかいものに変えた。

幸村「今日は仏頂面もしてねーみてえだし」

「えっ」

力強い幸村の瞳に、昨夜のことが頭に浮かぶ。
(そういえば、廊下で同じことをされたっけ。あの時はごまかされたけれど、もしかして・・・・・・心配してくれてたのかな)

幸村の優しさに気づいた途端、胸の奥に熱が広がった。

「心配してくれてありがとう。もう大丈夫」

幸村「おー。昨日は、たまたま腹が痛かっただけか?」

(っ、相変わらずデリカシーがなさすぎる)

「そんなわけないでしょ? もう!こっちは真剣に悩んでたのに・・・・・・」

幸村「悩み?」

(あっ、言うつもりなかったのに)
つい声を張り上げてしまい、焦って目を伏せる。

幸村「何のことだよ」

・・・・・・お祝いの日に、言いたくない」

幸村「話さねーなら、六郎が去り際に言ったことするぞ」

私の頬を挟む幸村の手に力がこもり、触れそうな唇が近づいた。

「ず、ずるい!」

幸村「言うのか、言わねーのか」

(言わないことを許してくれないパターンだ、これ)

「わ、わかったから、ちょっと離れて」

幸村「なんでだよ」

「こんなに近くからみつめられると、頭の中が幸村でいっぱいになっちゃうからだよ」

幸村「・・・・・・! 仕方ねーな」

幸村は目元を赤らめ、少し不服そうに一歩後ろへ下がる。けれど、私から目を逸らさない。

幸村「で?何を悩んでたのか言えよ」

「ええっと・・・実は・・・・・・幸村の右腕になりたかったの」

幸村「は?」

「待つばかりじゃなくて、六郎さんや佐助くんのように、戦でも幸村の力になりたくて・・・ごめん。無理だってわかってるけど、つい考えちゃって・・・・・・」

わずかな沈黙の後、幸村が小さく吹き出した。

幸村「・・・・・・ばーか」

「な、なによ、笑うことないじゃない」

幸村「笑うなってほうが無理だな。お前が俺の右腕なわけねーだろ。右腕ってのは、部下のことだ。でもお前は・・・・・・いつか俺の妻になるんじゃねーのかよ

・・・・・・!」

照れくささを隠すように幸村が私を睨んだ。

幸村「だから一生、右腕にするつもりはねえからな」

(・・・・・・どうしよう。すごく嬉しい!)
手を伸ばし、目の前の幸村に抱きつく。

「うん。右腕は諦める。・・・・・・幸村の奥さんになりたいから」

幸村「あっそ」

「ん・・・っ」

満足げに笑った幸村が身体を屈めて私の唇に短いキスを落とした。

「ゆ、幸村ここ道場・・・・・・っ」

私の反論なんて聞こえないように、もう一度、柔らかな唇が私の唇に触れて・・・・・・

幸村「すげー心配させたんだから、これくらい許せ」

にやりと幸村が微笑んだ。
(こんなにドキドキさせられて・・・・・・悔しいけど、嬉しい。好き。大好き・・・・・・)

優しい笑顔に見惚れながら、私はそっと幸村の胸に頬を寄せた。
(右腕になる夢は叶わないけど、これからは・・・・・・恋人として、私にできる形で幸村を支えよう)

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日が暮れたその夜。

広間で開かれた幸村の誕生日パーティーは、大勢の家臣たちが集まり大盛り上がりだった。

六郎「うう・・・・・・っ、本当に良かった。ゆう、これからも幸のことをよろしくな」

(六郎さん、号泣!?)

佐助「端的に言うと、頭脳明晰、文武両道の六郎さんだけど酒には弱いんだ」

「そうなんだ、意外だね。佐助くんも頭が左右に揺れてるけど大丈夫?」

佐助「ああ、さっき謙信様につかまってかなり呑まされたから。でもここは海の上だから揺れても問題ない」

幸村「海じゃねえだろ、この酔っ払い!お前は顔に出さなさすぎだ。水飲んで少し休め」

六郎「幸・・・・・・っ、人を気遣うなんて成長したな! 俺は嬉しいぞ」

幸村「やめろ、本気で頭を撫でるな!」

(ふふ。文句を言いながらも楽しそう)
幸村は六郎さんと佐助くんを見据え、ため息をもらす。

幸村「あー、今年の誕生日は散々だ。こいつらがふたりで組むと、ろくなことにならねー」

「でも、顔が嬉しそうだよ」

幸村「・・・・・・うるせー」

(あ、図星だ)
はにかむように笑った幸村に、私も笑みを返す。

(私も嬉しい。幸村と過ごす時間はどうしてこんなに幸せなんだろう)

幸村「ゆう」

幸村がそっと私の手を取って、指を絡める。じわりと伝わる幸村の温もりを感じながら、広間に響く賑やかで弾んだ声とともに、幸福な時間が過ぎていった。