「わかった。・・・・・・いってらっしゃい」
背を向けて足早に去っていくゆうの姿に、政宗は小さく息をこぼした。政宗「小春。家臣をつけるから、先に庭園に向かえ。俺は少し用がある」
小春「え・・・・・・。政宗様と、行きたいです」
政宗「後で追う」
近くの家臣を呼び、小春を任せた政宗は、さっさとゆうの背を追っていく。
大名「小春? 政宗殿と一緒では?」
小春「お父様!」
廊下の奥から歩いてきた大名に、小春は政宗とゆうのことを説明した。
大名「信長様ゆかりの姫君だと・・・・・・そこの者、何か知っているか?」
家臣「はい、政宗とゆう様は、大変仲がよろしいのです」
大名「政宗殿が・・・・・・なるほど」
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政宗「ゆう、止まれ」
(政宗・・・・・・さっきは後にしろって言ったのに)
呼び止められても、素直に足を止めることが出来ず、先を急ぐ。すると、後ろから手を引かれて・・・・・・
(わ・・・・・・!)
私を壁際へ追い詰めた政宗が、壁に片腕をついた。
↑↑↑ このスチル欲しいのは、私だけ?
政宗「待てって、言ってるだろ?何を怒ってる」
至近距離から私を覗き込む政宗に、鼓動が跳ねる。
(わざわざ追いかけてきてくれた。でも・・・・・・)
小春さんと一緒にいる姿を思い出すと、もどかしい気持ちになってしまう。
「別に、怒ってないよ・・・・・・」
政宗「嘘をつくな。怒ってるだろ」
この普通っぽいやりとりのケンカが、なんだか新鮮〜!
俯いた私の顎を指先で持ちあげて、政宗が強引に目線を合わせる。
政宗「ほら、言ってみろ」
「・・・・・・」
政宗「いいから早く言え」
優しい声で促す政宗に、私は小さく息を吐いて、口を開いた。
(きっと呆れられると思うけど・・・・・・)
「政宗が、他の女の人と腕を組んで歩いてる姿なんて、見たくなかったの」
わかる。見たくないよね。
政宗「そんなことで怒ってるのか?」
だめ、政宗。。。「そんなこと」は禁止用語よ!
それに、そんなことではない。
「そんなことじゃ、ないよ・・・・・・」
(小春さんを案内するのは、お仕事だってわかってる。それでも私にとって、政宗が誰かと腕を組むことは、『そんなこと』じゃ済ませられない・・・・・・)
案内は仕方ないけど、なんで腕組む必要があるのよねー!!!
ぐっと唇を噛むと、政宗が私へ身体を寄せた。
政宗「俺はお前だけを愛してる。他の女に目移りしたりしない」
そういうことじゃないんだな。政宗。
政宗「信じて待ってろ。いいな」
(『うん』って、言わなきゃいけないのに・・・・・・)
素直に返事ができなくて、切ないまま沈黙が流れる。
政宗「ゆう・・・」
俯く私に、政宗が顔を近づけた瞬間・・・・・・
???「政宗殿」
知らない男性の声が響くと、政宗は何事もなかったように私から身体を離した。
政宗「何か?」
男性「娘の小春が、政宗殿に城を案内していただきたいと申しておりましてな」
(小春さんの父親ってことは、この人が視察に来てる大名なんだ)
大名「姫君とお取り込み中でしたか?」
「え・・・・・・」
大名から向けられた眼差しは、身体が強張るほどに鋭い。
(どうしてそんな目で・・・・・・)
思わず一歩下がると、政宗が庇うように私の前に立って視線をさえぎってくれた。
政宗「いや、大したことじゃない。ゆうを部屋に送り届けてから向かうと、小春には伝えてくれ」
大名「------・・・わかりました」
政宗「来い、ゆう」
少し足早の政宗に手を引かれて、部屋へと戻ってきた。
政宗「ゆう、今日は一日城から出るな」
(え・・・・・・)
突然の言葉に私は急いで首を振った。
「無理だよ、午後に仕立てた着物を届ける用事があるから」
政宗「だめだ」
(っ・・・・・・)
ふわりと身体が浮いたかと思うと、政宗にその場へ押し倒された。
政宗「俺の言うことを聞け。着物は後で俺が届けてやるから、今日は絶対に城を出るな。・・・いいな」
少し怖いくらい、政宗の瞳は真剣な色をしている。
(どうしてそんなことを言うの?意図はわからないけど・・・・・・政宗がこんなに念を押すなんて・・・・・・何か理由があるのかな)
「・・・・・・わかった」
迷いながらも頷くと、政宗がふっと表情を和らげた。
政宗「いい子だ。ちゃんと待てたらお前が音(ね)をあげるまで愛してやるから。こんな風にな」
私の額や目元に、政宗が優しくキスをする。
ずるい。。。こんなの!
唇に落とされた口づけは少し余裕がなくて、隙間をこじ開けた舌に、深くまで求められた。
「ん・・・・・・っ・・・政宗・・・・・・」
政宗「・・・・・・城を出たら仕置をする。俺に酷いことをされたくなかったら、大人しくしてろ」
政宗は濡れた唇を指先で拭うと、私に念を押して部屋を出て行った。
政宗を見送って少し経った頃・・・・・・私は廊下で夕暮れの空を眺めていた。
(部屋にひとりでいると、いろいろ考えちゃうから出てきたけど・・・・・・)
どうしても政宗が小春さんと一緒にいた光景や、大名の鋭い視線が脳裏に浮かんで、もやもやしてしまう。
(せれに・・・・・・政宗には、あんなキスされるし、城を出たらお仕置きだって言われるし。せめて理由を教えてくれたら・・・・・・)
大名「これはこれは、姫君」
「え・・・!」
ふいに声をかけられて振り返ると、あの大名が私の近くに立っていた。びくりと肩を震わせ、一歩後ろへ下がる。
大名「お待ちください。あなたに一つ忠告がございます」
「忠告?」
大名「私の娘は、政宗殿との婚姻を望んでおります。ずいぶんあなたは、政宗殿と仲の良いご様子だが、身を引いてもらいたい」
(政宗から離れるなんて、そんなこと・・・・・・考えられない)
どう反論しようか迷っていると、大名が庭の方角へ視線を向けた。
大名「ご覧なさい、あちらを」
「え・・・・・・?」
言われるままに視線を向けると・・・・・・
(あれは・・・・・・)
庭では政宗と小春さんが、草木を眺め楽しげに笑いあっていた。
大名「お似合いでしょう、あのふたりは。小春こそ政宗殿にふさわしい」
(私は・・・・・・政宗を信じてる。だけど・・・・・・)
胸の痛みが広がって、息が苦しい。
(ふたりが一緒にいるところを、これ以上見ていたくない)
私は政宗たちに背を向けて、走り出した。
政宗「------・・・ゆう?」
廊下を走り去っていくゆうの姿に、政宗が眉根を寄せて呟く。
政宗「あの、馬鹿・・・・・・」
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(結局、お城から出てきちゃったな)
城を出たついでに、仕立てた着物を届けた後、私は橋の上から川の水面を眺めていた。
(約束したのに・・・・・・帰ったら政宗に怒られるだろうな。でもあそこには、いたくない・・・・・・)
わかる、わかる。とにかく見たくないよね。何か理由あるなら、前もって説明して欲しいよね。説明なしで、これだと、見たくないもの見せられて苦しいだけじゃん!わかるよ。女心。。。
城に帰る気になれず、橋の欄干(らんかん)にもたれていると・・・
???「この女か。好きにしていいって話だ」
「え・・・・・・」
嫌な気配がして振り返ると、いつのまにか浪人風の男たちに囲まれていた。にやにやと下品な笑みを浮かべて男たちが近付いて来る。
浪人1「せいぜい楽しませてもらうか」
浪人2「さっさと路地裏に引きずり込むぞ」
(この人たち、私を狙ってるの・・・!?っ、どうしよう・・・・・・)
「こ、来ないで・・・・・・」
橋の上という逃げ場のない状況に、冷たい汗が背中を伝った瞬間・・・・・・
???「おい、待て」
ひゅっと風を切って、誰かが私と浪人たちの間に立ちふさがった。
政宗「ゆうに指一本、触れるんじゃねえ」