「政宗、あれ・・・・・・!

政宗「!」

丘の下に、駕籠(かご)を抱えた一行を見つけた。集団が止まり、駕籠から豪華な着物をまとった女性が出てくる。女性は、忙しなく辺りを見回していた。
(もしかして、あの人が・・・・・・)

慌てて政宗の顔を見上げると、澄んだ瞳で、静かに女性の姿を見下ろしていて----・・・

政宗「----・・・変わんねえな

政宗は、どこかほっとしたように呟いた。
(やっぱり、会いたかったんだな)

和らいだ政宗の表情を見ていると、私まで笑みがこぼれてくる。
(あ----・・・)

政宗「・・・・・・」

その時----・・・視線をさまよわせていた義姫様が、丘の上を見上げた。政宗と義姫様の視線が絡み、流れる時間が、止まったような気がした----・・・

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丘を下った私と政宗は、森の中で、義姫様と対面していた。義姫様の取り計らいで、三人だけで話せるようになったのだけれど----・・・

政宗「・・・・・・」

(さっきからずっと、この状態なんだよね・・・・・・)
二人とも何かを言葉にしようと口を開いては、閉じてしまう。

(何年も会ってなかったんだから、仕方ないのかな)
そわそわしながら見守っていると・・・・・・

義姫「そちらの方は?」

「あ・・・・・・ゆうと申します

義姫「なぜ、ここへ?」

「それは----・・・」

(どうしよう、何て言えば・・・・・・)
どこから説明すれば良いかわからず思考を巡らせていると、政宗が私の手をぎゅっと握った。

政宗「ゆうは----・・・俺の、大切な人です」

あー、この言い方。。。「大切な人」か。なんかジーンとくるな。

(え・・・・・・)
政宗は、真剣な瞳で義姫様を見つめている。

政宗「母親にに紹介したいと思って、連れて来ました」

義姫「----・・・そう。あなたにも、そういう人が出来たのね」

義姫様の表情が緩み、優しい笑顔がこぼれた。
(わ・・・・・・笑った顔が、政宗にそっくりだな)

政宗「母上は、お元気でしたか」

↑↑↑これらのボイスが聞きたいー!

義姫「ええ?あなたは?」

政宗「----・・・問題ありません」

二人は、ぎこちなさはあるものの、懸命に相手を知ろうとしていた。視線を私に移した義姫様は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

義姫「ゆう、と言いましたね」

「はい」

義姫「あなたから見た政宗は、どんな人間ですか」

(私から見た、政宗・・・・・・)
次々と浮かんでくる要素を必死にかき集めて、言葉にする。

「誰よりも強くて、優しくて・・・・・・志の高い人です

(政宗は、この時代に残って、そばに居ようと思えるくらい、眩しくて・・・大好きな人だ。それを、政宗の大切な人にも、知ってほしい)

「政宗以上に好きになれる人は、一生現れません。それくらい、素敵な人です」

義姫様から視線を逸らさず、真っ直ぐに伝えると----・・・

義姫「そうですか----・・・立派になりましたね、政宗」

義姫様が、泣きそうな顔で微笑んだ。

政宗「っ・・・・・・ありがとうございます

義姫「会えて良かったです」

手短に話を終わらせると、義姫様は従者たちのもとへ戻っていった。

(今はこうやって、人の目を避けるような形でしか会えない二人だけど・・・・・・いつか周りの事を気にせずに、ゆっくりと話せる日が来たらいいな)

政宗とそっくりの、優しい笑顔を思い出しながら、義姫様の乗った駕籠が遠のいていく様子を、政宗と一緒に見送った。

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夕焼け色に染まる帰り道を、政宗と二人で歩きながら、言葉を交わす。

「ねえ、政宗」

政宗「なんだ?」

「ほんとはね、私・・・政宗にお母様のこと、言おうか迷ってたんだ。でも----・・・言って良かったって、今なら思えるよ。お母様と会ったときの政宗、すごく・・・・・・幸せそうだった」

そう言って微笑みかけると、ふっと息を吐いた政宗が足を止める。

政宗「俺ひとりなら、会おうとは思わなかった」

(え・・・・・・?)

つられて足を止めると、政宗が静かに私を見つめた。

政宗「俺ひとりの意思で、母上と会うことが、許される立場じゃない。それでも、俺が・・・母上と会うことを選んだのは----・・・俺が一生添い遂げようと思っている女を、俺を産んでくれた母上に、見せたいと思ったからだ。お前がいる。だからこそ、会おうと思えた」

(政宗・・・・・・)

・・・・・・私も、政宗のお母様に会えてよかった。こんなに素敵な人を、この世に生んでくれた人だから」

政宗「ゆう・・・・・・お前に言われなきゃ、後悔するところだったかもしれないな----・・・ありがとう」

少しだけ照れくさそうに私の頭を撫でた政宗に、きゅうっと胸が締め付けられる。

「これから政宗とお母様の距離が縮まっていくといいな」

政宗「先のことはわからないが----・・・また母上に会うときがきたら、お前も連れてってやる」

「うん!今度お母様に会ったら、政宗の好きなところ、たくさん伝えたいな」

政宗「なあに言ってる。それを伝えるなら、俺に言え」

おかしそうに笑った政宗が、私の腕を引いて、顔を寄せる。顔を傾けた政宗を見て目を閉じると、そっと唇が合わさった。
(次に義姫様に会ったら、私も・・・・・・政宗は私の大切な人ですって、ちゃんと伝えたい)

夕風に揺れる花々の中で、しばらくの間、私と政宗は口づけを交わし合った----・・・

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数日後----・・・

奥州に帰るという宗時さんを見送ったあと、私と政宗は部屋で二人きりの時間を過ごしていた。

「寂しくなるね、宗時さんがいなきなると・・・・・・

政宗「そうか? またいつでも会えるだろ」

「うん・・・・・・

隣で朗らかに笑う政宗の肩に頭を傾けながら、口を開く。

「そういえば、政宗が筆まめになった理由、聞いたよ」

政宗「あいつ、余計なことを・・・・・・

かすかに顔をしかめた政宗の顔を見上げて、微笑みかける。

「余計なことじゃないよ。政宗はあんまり過去の話をしてくれないけど、私は知りたいから」

政宗「なんでそんな話、聞きたがるんだ?」

「政宗のこと、大好きだから。好きな人の事は、なんだって知りたいよ」

政宗「・・・・・・

小さく目を見開いた政宗にそっと手を伸ばして、瞳を隠す眼帯にふれた。

「宗時さんに、政宗が失明した当時の事聞いたの・・・・・・政宗が苦しんでたときに、そばに居てあげたかったな」

(何も出来ないかもしれないけど、ずっと側にいて----・・・抱きしめてあげることは出来たはずだから)
考えても仕方ないのかもしれないけれど、好きな人が苦しんでいるのは辛い。私がぎゅっと拳を握ると。そっと政宗の手が重なった。

政宗「過去のことはどうにもならねえが----・・・今、お前がそばにいるだろ。それだけで十分だ」

・・・・・・うん

甘やかに微笑んだ政宗が顔を寄せて、唇が重なる。甘い熱が私の体を駆け抜けるのと同時に、優しく押し倒された。

「ん、政宗・・・・・・

政宗「じっとしてろ。お前を、感じたい」

(私も、政宗を感じたい)
どちらからともなく口づけて、熱い想いを伝えあう。ふと目を開けると、政宗の眼帯が見えた。

(この目のせいで、政宗が失ったものがあるなら。空いた隙間を埋めるくらい、政宗の全てを愛したい・・・・・・)

「政宗、今日は眼帯、外して欲しい」

政宗「なんでだ?」

「駄目、かな・・・・・・?

理由は伝えず、政宗を見つめて悲願すると、小さく息を吐いた政宗が、しゅるりと紐を解いて、眼帯を外した。

政宗「お前、変わってるな。見てて気持ちいいもんじゃねえだろ?」

「そんなことないよ」

暴け出された政宗の右目の傷跡に、そっと触れる。

「私、政宗の全部が好き。・・・・・・この傷跡も、怖くないよ。この傷ごと、政宗を愛したいの。だから、今日は隠さないで欲しいんだ。昔の政宗には、寄り添えないけど・・・・・・今の政宗には、寄り添えるから」

政宗「っ・・・・・・

私の言葉に息を詰めた政宗が、何かに堪えるように、下を向いた。

政宗「まったき、お前は本当に、手に負えねえ」

顔をあげた政宗は、私の手をとって、指先に口づけた。

政宗「----・・・お前になら、丸腰の心を愛されるのも、悪くない」

私の手を胸の上に宛てて、目線を合わせた政宗の表情は、笑っているようにも、泣いてるようにも見えた。私は政宗に顔を寄せて、右目にそっと口づけを落とした、

政宗「っ、そういうこと、いきなりするの、やめろ」

(ふふ、政宗、可愛いな)

くすぐったそうに身をよじる政宗が、愛おしくて仕方ない。

「今政宗を可愛がってるんだから、もう少しじっとしてて」

政宗「・・・・・・お前だけ、ってのは不公平だろ

政宗「俺にも愛させろよ。----・・・ちゃんと、可愛がってやるから」

「ぁ・・・・・・」

肌の上を滑る政宗の指先に身体を震わせながら、全ての想いを曝け出す甘い夜が、幕を開けた----・・・