政宗「次は、俺の番だな」

「え・・・・・・!?」

聞き返す間もなく政宗に、ぐいっと手を引かれて----------

政宗「いくそ、ゆう。俺流のパレンタインで愉しませてやる」

「ま、待って。政宗流ってどういうこと?」

勢いで立ち上がってみたけれど、政宗が何をしようとしているのかさっぱり見当がつかない。一方、政宗はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。

政宗「どうもこうもない。俺もばれんたいんの準備をしたってだけだ」

「うそ・・・・・・

政宗「そう思うなら、一緒に来い」

その後、夕日が差す中、政宗と御殿に戻った私は、誘われるまま部屋に向かい・・・・・・

政宗「これが、俺の準備したものだ」

・・・・・・!

中に足を踏み入れた途端、信じられない光景が広がっていた。政宗の部屋には、畳の上や衣紋(えもん)かけだけでなく、文机や箪笥の上など、至るところに色とりどりの反物が広げられている。
(明るい色味も、落ち着いた色味も、素敵なものばかり・・・・・・って、見惚れてる場合じゃない!)

「この部屋、出かける前はいつも通りだったよね?」

(政宗はずっと私と一緒にいたし、どうやって飾り付けたんだろう)

政宗「御殿の女中に、俺たちがでかけてすぐ反物を広げるよう言ってあったんだよ。飾り方は、あらかじめ話し合ってたからな」

「いつの間に・・・・・・

政宗「今朝、御殿にいない時間があっただろ。お前」

「あ・・・・・・!

(食事処に大福を預けに行った時だ)
政宗の鮮やかな準備に、驚きを通り越して感心してしまう。そんな私の手を引いた政宗は、近くの布を寄せて座るように促した。

政宗「これでわかったか?俺が嘘をついてないってことが」

「う、うん」

ふたり分だけ開いたスペースに腰を下ろしつつ、まだ解消されない疑問を口にする。

「でもバレンタインの話をした時は、興味なさそうだったのに、どうして準備してくれたの?」

(元々、ピンと来ないって言ってたし、今日開けてくれたのも、私に付き合ってくれるためだと思ったのに)

政宗「たしかに、最初に聞いた時は性に合わないと思った。だが、住む場所によって風習が変わるなら、この乱世のやり方で、ばれんたいんをしてもいいだろ?」

(住む場所って・・・・・・あっ)


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政宗「へえ。住む場所によって風習がかわるのか」

政宗」・・・・・・

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(あの時、急に黙り込んでたけど.バレンタインデーに何をするのか考えてたのかも。それで、反物をたくさん用意してくれたなんて・・・・・・こんなサプライズ、ずるすぎるよ!)

何も言葉を発せないでいると、ふいに政宗に顔を覗きこまれて・・・・・・

政宗「その顔、反物にして正解だったな」

そう言って、低く笑った。

「正解?」

政宗「ただの花より、お前はこっちのほうがいいだろ」

「花って・・・・・・

(わ・・・・・・ここにある反物、全部花柄だ)
どの布にも、繊細に染め上げられた花々が咲き乱れていた。

「でも、どうして花柄ばかり?」

政宗「ばれんたいんに、男が花を贈るって言ったのはお前だろ」

(それって・・・・・・!)


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「そういえば、異国のバレンタインデーでは男性から女性にお花を贈ったりするらしいよ」

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「ふふ。政宗も些細なこと、ちゃんと覚えていてくれたんだね」

政宗「当たり前だ。愛してるからな」

頬を緩ませたまま、私は改めて反物を見つめる。

「これ、どれもすごく可愛い・・・!

政宗「ああ。お前がそう言いそうなものばかり選んであるからな」

(私のことを考えて、政宗が一つずつ選んでくれたんだ)

「ありがとう」

すると、政宗はどこか試すような眼差しを向けて・・・・・・

政宗「で、お前はどうなんだ?」

「えっ」

政宗「ばれんたいんは、想いを告げる日だったよな。まだお前から聞いてない」

「っ・・・・・・さっきは、言わなくてもわかるって言ったのに

政宗「ああ。でも気が変わった」

・・・・・・そんな軽く変えないでほしい

じっと政宗を睨むと、楽しげな笑い声が返された。

政宗「俺は、軽く変えたつもりはない」

「え?」

政宗「お前が、今日のために色々手を尽くしてるのを見たら、初めに聞いたばれんたいんの風習通り、女が仕掛けるのを待つのもいいと思ったんだよ」

(あ・・・・・・異国流でも、乱世流でもなく、私が一番馴染みのある、女性からアプローチする形を尊重してくれたんだ)



政宗「ほら、言ってみろ。お前が俺をどう思っているのか」

「うん・・・・・・

(500年後の日本流で、素直に気持ちを伝えよう。政宗が、私のやろうとしたことを大切にしてくれたから)

「恋仲になっても、どんどん好きな気持ちが大きくなっていく。そんな人は・・・政宗だけ・・・・・・愛してるよ」

政宗は、ふっと優しげな笑みを見せて・・・・・・

政宗「上出来だ」

その言葉と共に、ぎゅっと抱きしめられた。

政宗「いいもんだな。ばれんたいんも」

「本当?」

政宗「俺がお前を愛していて、お前も俺を愛してる。それが目に見えてわかっていい」

「楽しんでもらえてよかった」

(同じものを、同じように楽しいって思えるのは、こんな幸せなんだ)
緩む頬をおさえることなく、政宗の広い背中へ腕を回すと・・・・・・

(わっ・・・・・・)
そっと力をかけられ、反物の敷きつめられた畳に押し倒されてしまった。

政宗「お前も愉しませてやらないとな」

「えっ? でも、もう十分すぎるほど楽しいバレンタインだったけど・・・・・・」

政宗「お前が一番喜ぶのはこれだろ?」

「んっ・・・・・・

柔らかく唇が重ねられ、隙間から舌が潜り込んでくる。滲み始めた視界で、覆いかぶさる政宗を見上げると、その瞳の青さがいっそう色濃く見えて、肌がぞくりとざわめいた。

政宗「まだ音をあげるなよ。朝まで愉しませてやる」

私は、返事の代わりに小さく頷く。それを合図に、どんなお菓子よりも甘い口づけに溶かされていった----------