政宗「次は、俺の番だな」
「え・・・・・・!?」
聞き返す間もなく政宗に、ぐいっと手を引かれて----------
政宗「行くぞ、ゆう。俺流のばれんたいんで愉しませてやる」
「政宗流のバレンタイン・・・・・・?」
政宗「着いてくればわかる。このまま視察に出るぞ」
(視察!?)
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その後、ちゃんとした説明のないまま馬に乗り、私たちは本当に視察へ向かった。
後ろから抱えてくれる政宗に、もう何度目かわからない質問を投げかける。
「やっぱり、どこに向かってるか教えてもらえないの?」
政宗「お前も、あの食事処に着くまで行き先を明かさなかっただろ?おあいこだ」
「そうだけど・・・・・・!」
(政宗がバレンタインの準備をしてたことにもびっくりしてるのに、急に視察なんて言われたら、色々と頭が追いつかない)
「せめてヒント・・・・・・じゃなくて、てがかりだけでも」
政宗「・・・・・・そうだな。この森の近くに、小さい村があるんだが、そこが最近、織田家の傘下に入ったってことなら、教えてやる」
「それだけ!?」
からかうように笑った政宗は、ふと前方に視線を向ける。
政宗「もう着いたから手がかりは要らないだろ」
「えっ」
視界が開け、森を抜けた先にあったのは・・・・・・
(わ・・・綺麗な花畑・・・・・・)
「視察って・・・花畑を?」
政宗「ああ。見ておいたほうがいいだろ。全部、お前のものになるんだからな」
「・・・・・・!?一体どういうこと?」
ただ驚くしかできない私を馬から下ろし、隣に立った政宗が説明してくれる。
政宗「この近くにある村は元々、稲作に不向きな土地で石高が多くないんだよ。だが、織田家の傘下に入ったことで状況が一変した」
「もしかして・・・・・・何か問題が起きたの?」
政宗「ああ。前にこの地を治めていた大名が、今まで以上の石高をあげて信長様に目をかけてもらうために、この花畑を切り開こうとしたらしい」
夕焼け色に染まっている花々が刈り取られていたかもしれないと思うと、胸が痛みで軋んだ。
(村人のためを思っての行動なら、仕方ないかもしれないけど、自分の見栄だけのために、こんなに綺麗な場所を・・・・・・)
政宗「村の奴らはそれに反対して、ちょっとした小競り合いにまで発展した」
「そうなんだね・・・・・・」
つい沈んだ声で答えてしまうと、私の心を察したように政宗が頭をくしゃっと撫でてくれた。
政宗「そんな顔するな。どちらも大きな被害は出てないし、見ての通り花畑も無事だ」
「うん、ごめんね。ちゃんと収まってよかった」
政宗「当然だろ。俺が出向いたんだしな」
「あっこの前、遠征に出ていたのは、この村?」
政宗「ああ。内乱を鎮めた褒賞で、ここは俺が預かった」
「・・・・・・! そうだったんだ。でも、どうして花畑が私のものに・・・?」
政宗は、どこか得意げに笑うと顔をぐっと近づけて・・・・・・
政宗「異国の男は、ばれんたいんに女へ花を贈るんだろ。どうせなら、まるごと贈ったほうが年中愉しめていいからな」
(じゃあ、つまり・・・・・・)
「これってバレンタインの贈り物!?」
まは私の反応を楽しんでいるようで、その青い瞳を意地悪っぽく細める。
政宗「だから言っただろ?次は俺の番だってな。ここなら、安土からそう遠くないからいつでも来られるぞ」
(たしかに男性が女性にお花を贈るって言ったけど、まさか花畑ごともらうことになりなんて・・・・・・)
政宗「驚くのは結構だが、何の感想もなしか?」
「ええっと・・・・・・」
政宗と目の前の花畑を交互に見つめると、様々な想いが湧いてくる。けれど、だんだんその大胆さに笑いがこみ上げてきた。
政宗「なに笑ってんだ?」
「っ・・・ふふ・・・だって・・・・・・豪快すぎるから」
政宗「悪くないだろ」
「うん、ありがとう」
この花畑と同じくらい大きな政宗の愛が、じんわりと胸の中に沈んでいく。
(でも・・・・・・私はまだ言えてない)
私は、昼間の食事処でのやりとりを思い出した。
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政宗「そんな些細なことを逐一覚えているとは、本当に俺のこと好きだな。お前」
「そ、それは・・・・・・」
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(あのお店では、思ったことの半分もつたえられなかったけど・・・・・・ちゃんと想いを伝えたい。だって今日は、バレンタインデーなんだから)
緊張で、一気に鼓動が音を立てる中、私は真っ直ぐ政宗を見つめて想いを紡いだ。
「政宗、あのね・・・・・・昼間、お店で『俺のこと好きだな』って言っていたでしょう?」
政宗「ああ。答えは『否定できない』だったよな」
「うん。政宗の言う通り、曖昧な答え方だったと思う。あの時は、照れてきちんと言えなかったんだけど・・・・・・今言わせて。誰よりも、政宗のことを愛してるよ」
政宗は、私の想いを受け止めてくれた様子で柔らかく目を細めた。
政宗「可愛いやつだな」
優しい言葉と共に、ふわりと抱き寄せられて・・・・・・
「ん・・・・・・」
触れるだけの口づけが落ちた。そっと顔を離され目を開けると、視界いっぱいに政宗の笑顔が広がった。
政宗「想像以上に面白い日になったな」
「うん。花畑を贈られるなんて、全然想像してなかった。だから、ちょと政宗に負けた気分」
政宗「負ける?」
「バレンタインは、政宗に喜んでもらえるように、とっておきのものを贈ろうと思っていたの。でも結局、私のほうが嬉しいものを貰っちゃったから」
苦笑いをこぼす私に、政宗はおかしそうに笑った。
政宗「馬鹿。何言ってんだ。お前の『愛してる』って言葉以上のもの、あるわけないだろ」
その時、政宗に顎をすくわれて・・・・・・
政宗「仕方ない。俺が喜んでるってちゃんとわからせてやる」
もう一度、唇が重なった。
「ぁ・・・・・・愛してるよ・・・政宗」
政宗「まだ煽るとは、いい度胸だ」
わずかに熱を帯びた眼差しを向けられ、舌を絡め取られた。夕日が射すふたりきりの花畑で、私は政宗に全てをゆだねるように目を閉じた------