「このお店が人気になったのは、旬のものしか取り扱わないからなんだって」

政宗「言われてみれば、今お前が注文したものは、この時期が一番美味い料理ばかりだったな」

「うん。だからここの評判を聞いて、政宗にぴったりだって思ったの」

政宗「俺に?」

「この前、一緒に買い出しに行った時、何を食べたいか聞いたら、旬のものって言ってたでしょう?」

いつも余裕めいた色を浮かべている青い目が、わずかにみはられた。

政宗「・・・・・・

「あれ、覚えてない?」


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「うん! 何か食べたいものある?」

政宗「せっかくなら旬のものがいいだろ」

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私は、1週間前のやりとりを政宗に話す。

政宗「いや覚えているが、まさかその一言で今日の予定を決めたのか?」

「うん。他にも、色々と案はあったんだけど、最終的に決め手になったのは、政宗の言葉だったよ」

(えっ!)
政宗がおかしそうに笑い声をこぼした。

「・・・今、笑うところあった?」

問いかけると、やっと笑いをおさめた政宗が答えた。

政宗「ああ。むしろ、笑わないでいるほうが無理だろ。そんな些細なことを逐一覚えているとは、本当に俺のこと好きだな。お前」

「そ、れは・・・・・・まあ否定できないかな

まさは、私を見つめてさらに意地悪く笑った。

政宗「曖昧な答え方だな。はっきり言えよ。その顔みたいに」

「顔・・・・・・?

政宗「赤くなってるぞ」

からかうように言われて、いっそう頬に熱が灯っていく。

「き、気のせいだよ」

政宗「こんな明るい店の中で見てるのに、気のせいなわけあるか」

・・・それでも、気のせいってことにしておいて

政宗「そういうことにしておいてやる。まあ今思った通り、お前は言葉だけじゃなくて顔にも考えてることが出るから、全部わかるけどな」

「っ・・・・・・

(もう。結局、政宗のペースな気がする。嫌なわけじゃないけど、今日は私がリードするつもりだったから、ちょっと悔しい・・・・・・でも、あれはさすがの政宗でも気づかないはず)
もう一つじゅんびしている、あることを思い浮かべたその時、しょうがの香りがふわりと鼻をくすぐった。

政宗「お、美味そうだ」

「本当。いい匂い」

店主の男性は、野菜のあんかけがのった白身魚を私たちの前に置く。

店主「他のものもすぐにお持ちしますので」

「はい」

(昨日、下見に来た時とメニューが変わってたけど、これもきっと美味しいんだろうな)

政宗「やっぱり、わかりやすいな」

(あ・・・・・・)
気づいたら、政宗が私の表情をじっと観察していた。

・・・食い意地はってるって思った?

政宗「思うわけないだろ。飯はそれぐらい、いい顔で食ったほうが絶対に美味い」

「ふふ、政宗らしい」

政宗が優しい笑顔で差し出したお箸を受け取る。

二人「いただきます」

私たちは、揃って手を合わせてから料理を食べ始めた。

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その後、私たちは注文した料理を一通り楽しんで、お茶を飲んでいた。

政宗「どれもいい味だったな」

「うん!」

美味しい食事に、お腹も心も満たされていると、ふいに政宗がこちらへ手を伸ばし・・・・・・

政宗「さすが、お前があちこち評判を聞いて回った店だ」

ぽんぽんと頭を撫でてくれる。

「そう言ってもらえてよかった」

(政宗にも満足してもらえたみたい。あとは・・・・・・あ!)
奥の厨房をちらっと見ると、ちょうどいいタイミングで店主の男性が出てくる。こちらに歩み寄った店主は、政宗の前に大福の皿を置いた。

店主「お待たせいたしました」

(わ・・・・・・こんな可愛いお皿で持ってきてくれたんだ)

「ありがとうございます」

鼻の形をしたお皿を置いた店主は、会釈をして店の奥に戻っていく。一方、政宗は訝しげに目の前のお皿を見つめた。

政宗「ん? これは頼んでないよな。それに大福なんて品書きになかったが」

「実はこれ、私が作ったものなの」

政宗「お前が?」

私は、一緒に来る前に手づくりの大福をお店に持ってきていたこと、食事の後に出してもらうよう、店主に頼んでいたことを簡単に説明する。話を聞き終えた政宗は、感心した容子で笑った。

政宗「食事と甘みの二段構えだったってことか。お前も策士になってきたな」

「策士なんて、そんなことないよ。ただ、これぐらいやらないと、きっと政宗は驚かないかなと思って」

政宗「俺のこと、よくわかってるな」

「ふふ、まあね。バレンタインの甘味として作ってみたんだけど・・・この大福、受け取ってくれる?」

政宗は、答えるより先に大福を手に取った。

政宗「当然だ。お前の贈り物だからな」

大福を口にした政宗は、食べ始めてすぐ驚いたように目をみはる。
(あっ。中にいれたものに気づいたみたい)

政宗「これは・・・・・・みかんか?

「驚いた?フルーツ大福って言うんだよ。フルーツは果物って意味」

政宗「これも、500年後の世では普通に売ってる甘味なのか?」

「うん。大福に入れる果物は決まってないから、この時期にあったみかんを入れて作ってみたの。どう?」

すっかり食べ終え、手ぬぐいで手や口元を拭いた政宗が、ふっと笑みをこぼした。

政宗「美味かった。店選びも、大福も、ありかとな。ゆう」

ほっと安堵の息をこぼしたその時・・・・・・急に政宗が立ち上がる。

政宗「次は、俺の番だな」

「え・・・・・・!?

聞き返す間もなく政宗に、ぐいっと手を引かれて----------

政宗「行くぞ、ゆう。俺流のばれんたいんで愉しませてやる」