幸村「もう、俺の負けでいい」
「えっ」
幸村「本当のこと、教えてやるって言ってんだよ」
幸村「行くぞ」
「あっ・・・・・・」
驚いているうちに幸村に手を取られ、連れて行かれる。
(行くってどこに?本当に教えてくれるの・・・・・・?)
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(私の部屋?)
幸村「・・・・・・」
手を引かれるまま部屋に入り、襖が閉まった瞬間----------
「ゆき、む・・・・・・んっ」
突然壁に背中を押し付けられ、唇を塞がれた。繋いでいたはずの手は壁に縫い止められてしまい、逃げ場はない。
(こんな、急に・・・・・・っ)
唇の隙から忍び込んできた舌が絡まり、擦り合わせられる。深まっていく口づけに、されるがまま翻弄されていく。
幸村「ゆう・・・・・・」
口づけの合間に低く掠れた声で呼ばれ、それだけで肩がぴくりと揺れた。
「っ、幸村・・・・・・待って」
幸村「・・・・・・無理」
幸村の唇が首筋を伝い、肌をきつく吸い上げていく。
(もう立っていられない・・・・・・)
甘い痺れが広がって力が抜けそうになると、逞しい腕に抱きすくめられる。
幸村「お前、酔ってるだろ」
「えっ・・・・・・ひゃ・・・・・・っ」
耳元で囁かれた次には、そのままそこに唇が柔らかく押しつけられた。
幸村「いつもより、感じてるって顔してる」
「っ、そんなこと・・・・・・ない」
幸村「嘘つけ」
低い声で、どこか楽しげに笑われたかと思うと・・・・・・
「わっ・・・・・・」
ふわりと身体が浮き、軽々と横抱きにされた。
「っ、幸村?」
幸村「暴れるな。俺も酔ってるから、褥(しとね)に着く前に落っことすかもしれねーぞ」
「お、落っことさないでよ・・・・・・」
幸村「んじゃ、しっかり俺に捕まっとけよ」
「うん・・・・・・」
言われるまま、幸村の首にしがみついた。幸村は、それ以上は何も言わず、私を褥へと運んでいく。
幸村「・・・・・・」
(今なら・・・・・・素直に甘えられるかもしれない)
ぎゅうっと幸村に抱きついたまま、口を開いた。
「ねえ、幸村」
幸村「ん・・・・・・?」
「さっきの・・・・・・教えてくれるって、言ったのは?」
幸村「あー・・・・・・あれな」
私をそっと褥に下ろしながら、幸村が言いにくそうに返事をする。
幸村「あの時、お前に隠したのは・・・・・・その、あれだ。恋文だ」
ぶっきらぼうに白状された言葉に、どくっと心臓が波打った。
(っ・・・・・・やっぱり)
「恋文って・・・・・・誰への?」
幸村「は? お前宛てに決まってるだろ」
「えっ・・・・・・私?」
思ってもみない答えが返ってきて、一瞬、きょとんとしてしまう。
幸村「えって、なんだよ」
「それは・・・・・・ええっと、心配して損しちゃったから・・・・・・」
(あんなに必死に隠されたら、疑っちゃうよ)
幸村「あー・・・それはつまり」
幸村は私の手首を掴んで褥に縫いとめ、わざとらしく口端を吊り上げた。
幸村「俺がお前以外の女に文を書いてたんじゃないかって、疑ったわけか」
「っ・・・・・・それは」
(そう言われると、否定はできないけど・・・・・・)
「幸村が、紛らわしいんだよ・・・・・・っ」
幸村「ふーん・・・・・・なるほどな」
「っ・・・・・・」
私を押さえつけたまま、幸村の顔がゆっくりと近づいてくる。熱のこもった瞳に迫られ、逃れられないこの後の甘い仕打ちを想像してうろたえた。
「幸、村・・・・・・?」
幸村「俺のこと、疑ったお仕置きだな」
「え、あっ・・・・・・ゃつ」
着物の裾がたくし上げられ、太ももへと硬い手のひらが這う。焦らすように触れられて、つま先が小さく跳ねた。
「っ・・・・・・」
裾だけ乱された姿で、さらに肌を刺激されていく。
「ぁつ・・・・・・」
(こんなの、ひどいっ)
そうは思っても、嫌なわけじゃない。お酒のせいか幸村の体温はいつもよりかすかに高くて、熱く大きな手に触れられるだけで、もっと触れてほしい衝動に駆られてしまう。
幸村「酔ってないって否定したくせに、すげー真っ赤になってる」
「っ、え・・・・・・」
幸村「こんなに真っ赤になって、お前やっぱり酔ってんだろ」
「酔ってるのは、幸村・・・・・・でしょ」
幸村「・・・・・・かもしんねーけど、お前だって酔ってる」
身体を寄せて、幸村が私の唇を覆う。
「んんっ・・・・・・」
深く絡められた舌先に翻弄され、広がっていく甘い心地に思考が揺らいでいく。
(お酒より、幸村に酔ったみたい・・・・・・)
儚げな水音がして唇が離れると、お互いの乱れた息が混ざり合う。
幸村「・・・・・・さっきまで何ともなかったんだけどな」
「なに、が・・・・・・?」
呼吸が整わないまま、切れ切れの声で問い返す。
幸村「お前の身体も俺の身体も、熱くなってきた」
「っ・・・・・・」
幸村「誰のせいだろーな」
「幸村の、せいだよ」
幸村「いーや。お前だな」
可笑しそうに笑いながら、幸村が私の帯をするりと解く。合わせが開かれた途端に胸元に唇が落とされ、高い声が漏れてしまう。
幸村「ほら、そうやってお前があおるからだろ」
「そんなの・・・・・・っ」
幸村「やっぱ、お前のせいだ」
「ん・・・・・・ぁっ」
余裕を失ったかのような求められ方に、心臓は壊れそうなほど速く打ちつける。
幸村「・・・・・・ちゃんとわかったかよ」
「え・・・・・・?」
幸村「俺が、こんな風になるの。お前の前だけだって。他の女に気を向ける余裕なんてねーよ」
(幸村・・・・・・)
「ん・・・・・・わかった、から・・・・・・」
もどかしさから、幸村の身体にぎゅっと抱きついた。
幸村「・・・・・・」
幸村の指先が容赦なく肌を強く刺激してきて、びくっと震える。
幸村「・・・・・・もっと?」
幸村のこういうとこいいよねー!
見おろす瞳は意地悪で、すっかり主導権を握られていた。悔しくて、目の前にある幸村の耳にちゅっと口づける。
幸村「!」
驚いた幸村が、ぱっと半身を起こす。酔っているせいなのか、照れているのか、幸村の頬は真っ赤に染まっていて・・・・・・私の不意打ちに、動揺したことが見て取れる。
「・・・・・・可愛い」
幸村「・・・・・・お前な」
煽ってしまったことに気づいても遅く、すぐさま胸元に吸いつかれた。
「や・・・・・・っ」
慌てて幸村を見上げると、胸元に散ったばかりの赤い花が指先でなぞられていく。
幸村「お前が酔うと、悪女になることはよくわかった」
「えっ」
幸村「責任とって、愛されてろ。嫌とか、待ったてか、もう聞けねーからな」
「なに、それ・・・・・・ん・・・・・・」
ふたたび唇が重ねられ、言葉も吐息も奪われる。与えられた口づけは、これ以上なく熱く激しく、甘くて・・・・・・一晩かけて、私はあますところなく愛されていった------