政宗「あいつらといる時の俺と・・・・・・今、目の前にいる、俺。お前は、どっちの俺が好きなんだ?ゆう」



にやりと弧を描く唇がすぐそばに迫り、胸がとくんと高鳴った。

(それは・・・・・・)

「そんなのわからないよ。だってどっちの政宗も、大好きだから。ただ言えるのは、どんな政宗も格好良くて、目を奪われてしまうってことだけ」

私の言葉を聞いた政宗が、ふっと笑みをもらして・・・・・・

政宗「なあに言ってる」

(あ・・・・・・)
そっと、味わうように唇を重ねた。甘く触れ合うだけの口づけが、余韻を残して、離れていく。視線の先に、目元を優しげに細めた政宗が映った。

政宗「お前だけが、そんな風に思っているわけじゃない」

(え・・・・・・?)
政宗の指先が私の毛先を絡め取って、弄ぶ。熱のこもった瞳に見つめられて、胸がぎゅっと締めつけられた。

政宗「俺も、改めて思い知らされた。お前がどれだけいい女か」

「私・・・・・・?」

政宗「ああ。今日の掃除のときに、幸村や佐助と話してたんだが、どっちもゆうのこと、褒めてた。いい奴だって」

(幸村と、佐助くんが・・・・・・?)

「ほんとに・・・・・・?」

政宗「ああ。お前に幸せになって欲しいって。あいつら、敵将なのにな」

(・・・・・・どうしよう、すごく嬉しい)

政宗「嬉しいもんだな。お前がいかに凄いか、自分の認めた奴らも認めてくれてるってのは。それだけ、お前に魅力があるってことだ」

「ありがとう。政宗が認めてる幸村と佐助くんに、そんな風に言ってもらえて、私・・・・・・すごく、幸せだよ。政宗と出逢ってからずっと、幸せをもらってる」

政宗「ゆう・・・・・・」

「政宗が、私を幸せにしてくれるから、だから・・・・・・ふたりに伝えておいて。私はもう、幸せだよって」

本当政宗といたら、不幸になれないね…!

政宗「・・・・・・それは、お前の口から伝えろ」

腕の中に抱き寄せられて、優しく力が込められる。

政宗「俺の口からは別のことを、伝える」

「別の、こと?」

政宗「ゆうみたいにいい女がそばにいて、この世の誰より幸せだって、あいつらに言っとく」

(っ・・・・・・どうしてだろう、嬉しいのに・・・・・・涙が出そう)
ふっと、困ったように笑った政宗が顔を傾けて、私の顔を覗きこむ。

政宗「泣くなよ?今は、お前の幸せそうな笑顔がみたい」

「・・・・・・わかった」

溢れ出しそうな涙をこらえて、微笑んでみせると、政宗が満足そうに目を細めて、私の目尻にキスを落とした。
(このシェア城で、たくさんの人と過ごしたからこそ・・・・・・今まで以上に、政宗が大切になった。政宗に対する想いに、変化なんてないと思っていたけど・・・・・・前よりもっと、好きになってる)

何度も贈られる優しい口づけを受け止めながら、政宗への思いを募らせていった------・・・

ふたりきりで、幸せな一夜を明かして・・・・・・

翌日------

今日もまた、台所での穏やかな時間が始まる。

「政宗、今日の下ごしらえは私がやるよ。昨日の掃除で疲れてるでしょ?」

政宗「心配するな、あのくらいの作業は容易いもんだ。疲れてるのはお前のほうじゃないのか?今朝もぎりぎりまで起きて来なかっただろ」

「う・・・・・・ごめん」

(政宗の腕が心地良くて、つい寝過ごしそうになっちゃった・・・・・・)
今朝のことを少し反省しながら、ふたりで朝餉の支度を進めていく。

「起こしてくれてありがとう」

政宗「問題ない。無理させたのは、俺だからな」

「っ・・・・・・もう」

照れくさく感じていると、台所の入口から聞き慣れた声が聞こえてきた。

幸村「おはよ、政宗にゆう。なー、メシまだか?」

佐助「準備中にごめん。幸村が朝食を待ちきれなくて」

幸村「お前もだろ、佐助。昨日掃除で疲れてぐっすり寝たからか、無駄に早く目が覚めたんだよな」

政宗「そろそろだから、あと少し、広間で待ってろ」

佐助「わかりました」

幸村「早めになー」

昨日と同じ、仲睦まじい三人のやりとりが微笑ましい。

「よかったらふたりとも、味見していく?」

小皿に煮物をゆそおうとした私の手を、政宗が止める。

政宗「それは駄目だな」

(え・・・・・・?)

幸村「なんで、駄目なんだ?」

政宗「今、変に食べたら逆に腹が減るぞ」

(確かに、少しだけ食べると余計にお腹が減ること
、あるな・・・・・・)

政宗「最高の朝餉を作るから、お前らは広間で待ってろ」

幸村「おー、頼むな」

佐助「じゃあまた、朝食の時に」

「またね」

幸村と佐助くんが台所から去った後、私は政宗の顔を見上げた。

「あんなに仲良しになったのにどうして『駄目』って言ったの?少し味見するくらいなら、お腹も減らないんじゃないかな?」

政宗「それはただの口実だ。断ったのは、お前のために決まってるだろ」

(私?)
きょとんとした私を見て、政宗は小さく笑みをこぼした。

政宗「二人きりで過ごす時間を、大事にしたいからだ。お前は、このひと時を気に入ってるんだろ?」

そう言って、政宗は私の髪に手を伸ばし------・・・すくい上げた毛先に、軽く口づけを落とす。
(政宗、私が朝のこの時間を大切に思っていたこと・・・・・・気付いてたんだ)

溢れ出しそうな幸福を感じながら、昨日胸に描いたことを、思い返す。


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(初めの頃は、慣れないことも多くて戸惑ったけど、今じゃ早くこの時間が来て欲しいって思う
・・・・・・政宗とふたりきりで過ごせる、大切なひとときだから)

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(ちゃんと言葉で伝えたわけじゃなかったのに、なんでもお見通しなんだな)
些細なことも汲み取ってくれる政宗に、更に愛しさが湧く。

「・・・・・・大事にしてくれてありがとう。みんなを大切にする政宗も素敵だけど、私にも気持ちを傾けてくれることが、すごく幸せだよ」

政宗「お前が礼を言うことじゃないだろ。このひと時が大事なのは、お前だけじゃない」

(あ・・・・・・っ)
優しく手を引かれて、腕の中に抱きすくめられた。

政宗「俺も、お前と過ごすこの時間が、何よりも愛しいと思ってる」

「うん・・・・・・っ」

薪のはぜる音が、心地よく響く朝の台所で、私と政宗は、互いに見つめ合い、差し込んできた柔らかな朝日に照らされてながら、唇を重ね合った------・・・