とある昼下がり、軍議に呼ばれた私は広間に向かっていた。

(今日は何の話だろう)

光秀「ずいぶんぼーっとしているな」

「! 光秀さん」

(びっくりした、いきなり後ろから・・・)
目を瞬かせる私に、意地悪な笑みが向けられる。

光秀「軍議の最中に居眠りするなよ?」

ぁー、言いそう!光秀さんの居眠りネタ💤

(相変わらず意地悪だな)
そんな他愛ないやりとりをしている間に広間に着いた。

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軍議が始まり、一通りの報告が終わると------

光秀「信長様・・・------そろそろ頃合いではないでしょうか」

「頃合い」だって・・・・・・うふふ。カッコイイ 

信長「・・・ああ」

(え・・・?)
光秀さんが立ちあがり、近くの襖をスパッと開く。

「・・・・・・⁉︎」

そして、廊下に立っていた家臣の男の喉元にいきなり懐刀をつきつけた。

なんかよーく考えたら、このシーンカッコイイ 

(その人は一体・・・)

家臣「ぐっ・・・・・・」

光秀「ようやく尻尾を出したな」

秀吉「・・・・・・お前は確か、ひと月前に国境の領主のところから奉公に来た・・・」

政宗「ああ。立ち聞きしてたということは黒だろうな」

(どういうこと⁉︎)
混乱している私の目の前で、男は連行されていった。

三成「先ほどお話に出た国境の領主が、秘密裏に他国へ安土の情報を流しているという噂があったのです。光秀様がお調べしていたようですが、もしかしたら、城内に間者がいる可能性もあると・・・」

私以外のみんなは状況を理解しているようで、三成くんが丁寧に説明してくれた。
(そんなことになってたなんて知らなかった・・・)

突然の事に唖然とする私の前で、事は進んでいった。

光秀「さて。これは詳しく調査する必要がありそうですが・・・信長様、いかがいたしましょう」

信長「貴様の考えを聞かせろ」

信長様の問いに、一瞬の沈黙が落ちる。

光秀「・・・・・・あの間者が口を割ることはないでしょう。ですが、あの者からの報告が途絶えた時点で、領主に警戒されて証拠を押さえづらくなる。でしたら、その前に動くのが賢明かと。すぐにでも領主の城へ探りを入れに行きます」

見解を述べた光秀さんに、信長様は口端を吊り上げた。

信長「この件は光秀、貴様に一任する。必要な者がいれば、連れて行って構わん」

光秀「そうですね・・・・・・でしたら、」

「え・・・?」

振り返った光秀さんと視線が交わる。

光秀「ゆうを、連れて行きます」

「えっ、私ですか! ?」

(どうして・・・・・・! ?)

光秀「詳しくはあとで説明する。ゆう、行くぞ」

歩み寄って来た光秀さんが私を見おろし、面白がるように告げた。

信長「ゆう。役に立って来るが良い」

「役に立てって言われても何をすれば・・・------って光秀さん! ?」

肩に手を回され、驚きに目をみはる。

光秀「安心しろ。悪いようにはしない」

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(領主のところへ行くって言ってたのに、何で城下に来たんだろう?本当に何考えてるかわからない人だな)
光秀さんに連れられるまま城下を歩いていく。

「あの、光秀さん。これからどうするんですか?」

思わず声をかけると、光秀さんは振り返って------

光秀「お前は逢瀬でもしているつもりで、愉しんでいればいい」

「楽しんでいればいいって・・・・・・」

再び歩き出した光秀さんの袖を引き、歩みを止めさせる。

「ちゃんと説明してください」

光秀さんは悪びれもなく肩をすくめ、私に向き直った。

光秀「例の領主は、かなりの女好きで有名だ。お前のような小娘でも小綺麗になれば、領主の警戒も薄れ動きやすくなる」

(今さらっと失礼なこと言われた気がする)

お前のような小娘 +小綺麗になれば
でしょー!!!!
まあ、犬ころよりはマシ?

掴んでいた袖を離す私に、光秀さんは言葉を続ける。

光秀「姫として同行させるのに、相応しい格好が必要だからな。その買い物に付き合って欲しいというわけだ」

「・・・・・・わかりました」

渋々了承した私を見て、光秀さんはまた歩き出した。

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それから光秀さんに連れられ、次々とお店を回り、高級な呉服屋などに立ち寄っていった。

光秀「これを」

迷うことなく、煌びやかな着物や、髪飾りを選んでは買っていく。
(わ・・・・・・すごく良い生地だ。柄も凝っててすごくおしゃれで煌びやかなのに、清楚感もある)

光秀「なかなか似合っているんじゃないか?」

(光秀さんに褒められた・・・・・・?)
突然の不意打ちにどきりと鼓動が跳ねた。

お姫様ごっこじゃん〜〜  いいな。。。

「光秀さんって、女性物のお買い物になれているんですね」

あっ、それやっぱり思うよね。うん。気になるよね。。。よく気づいたな私^_^

誤魔化すように告げた私に、光秀さんはわずかに目元を和らげる。


光秀「なんだ、やきもちか」

「っ、そんなのじゃありません」

「すごくコーディネートが・・・・・・ええっと、組み合わせるのが上手だなって」

(やきもちなんかじゃない。単純に、凄いなって思っただけで・・・・・・)
なんだか自分に言い訳をしているような心地になってくる。

光秀「まあ、変装道具を選んでいるだけだからな」

そうとも言うね。。。チーン 

光秀さんは、さらりと何でもないことのように答えた。
(似合うって言ってくれて嬉しかったけど、やっぱりお仕事の一環だよね)

その時、ちくりと胸に刺すような痛みがはしる。
(あれ・・・・・・なんで・・・・・・?気のせい・・・・・・かな)

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それから何軒か回った後、最後に立ち寄った呉服屋で、光秀さんは髪飾りを一つ手に取った。
(あれ? 今まで選んでいたものより少し落ち着きがある感じだな。でもすごく可愛い・・・・・・)

小花をあしらった髪飾りに思わず見惚れる。

光秀「これは別で包んでくれ」

「誰かへの贈り物ですか?」

ふと気になったことを、そのまま口にした。



光秀「いや? 気になるのか?」

「いえ、そういうわけじゃ・・・・・・」

とっさに嘘をついてしまう私に、光秀さんは含みを持たせるような笑みを滲ませた。
(誤魔化された・・・どうして、私もいちいち気にしちゃってるんだろう)

光秀さんに気付かれないように、そっとため息を一つこぼした。

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光秀「出立は明朝だ。よく寝ておけ」

(そんなこと言われても、緊張して眠れそうにない・・・・・・)

今回の件は極秘の任務のため、私はその夜、光秀さんの御殿に泊まることになった。
(客間が用意できなかったからって、光秀さんの部屋に泊まるなんて、思ってもみなかった)

お泊まりじゃん!これ。。。
でも、客間が用意できなかったって、そんなバカな。。。

落ち着かない心地で、光秀さんを見上げる。

「光秀さんは寝ないんですか?」

光秀「支度がらあるからな。お前は気にせず寝ろ」

光秀さんはそのまま部屋を出て行ってしまい、私も布団に横になった。
(いきなり私を調査に連れて行くなんて驚いたけど、責任重大だから頑張らなくちゃ)

不安を振り切るように目を瞑ると・・・
(この部屋、光秀さんの匂いでいっぱいだ)

ふと気づいてしまい、頬が熱くなる。
(早く寝よう。明日は忙しい一日になるんだから)

意識から追い出すように、布団をすっぽりかぶって眠りについた。

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光秀「急に呼び出して悪かったな」

家臣たちも寝静まった深い夜の中、光秀の声が廊下に響いた。

秀吉「いや・・・・・・それよりお前、昼間の件・・・やっぱりゆうを調査に同行させるのは危険なんじゃないのか?」

光秀「そんなにゆうのことが心配か?」

眉を寄せる秀吉を煽るように、光秀は笑みを滲ませて問う。

秀吉「当たり前だろ。お前、ちゃんとあいつを守れると約束できるのか」

秀吉さん、優しい〜 本当に兄だわー❗️

光秀「確約はできないな。戦と同じで、『絶対』などないだろう」

今にもつかみかかりそうな秀吉に、光秀はきっぱりと言い放った。

秀吉「っ、お前な・・・------」

光秀「だから、お前を呼び出したんだ」

秀吉「! それはどういう・・・・・・------」

光秀「万全の策を練っておくに越したことはないからな」

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そして翌朝・・・------

(どうしよう。昨日買ってもらった着物、作りが特殊で上手く着つけが・・・)
身支度にすっかり手間取っていたその時------

光秀「ゆう。支度はできたか?」