(・・・・・・っやっぱり信長様の傍は落ち着くな)
信長様の腕の中で静かに髪を梳かれ、幸福感で満たされる。

「今日はお仕事で逢えないかと思ってました」

信長「あの程度の公務、早く終わらせるのは造作ない」

(だからって、帰ってきてすぐに私をここに呼んでくださるなんて、優しいな)
嬉しく思っていたその時、ちりん・・・と涼やかな音が耳に届いた。

「風鈴・・・・・・?」

信長「ああ。秀吉が持ってきた、遠征の土産だ。上質な素材で作られているとあって、悪くない音色だ」

「品があって、信長様のお部屋によく似合ってますね」

信長様はからかうような笑みを口元に描き、私の顎を指先ですくい上げた。

信長「この部屋で貴様を抱いたのは、もう何度目かわからんな」

おっと、抱いたのは   だって。。。ストレート!

(っ・・・・・・、そんなこと、はっきり言わなくても・・・・・・)
さっき肌を重ね合ったことが思い起こされ、自分の頬が熱くなるのがわかる。思わず信長様から視線を逸らした。

「そ・・・そういえば梅雨も明けて、ずいぶん暑くなりましたね」

話題を変えようと慌てて思いついたことを話すと、顎から信長様の手が離れる。

信長「ああ。今日もだが、これから更に暑くなるはずだ」

「今日くらいの気温が続いたら、普通に過ごすだけでも大変そうです・・・・・・」

(500年後みたいに、クーラーも扇風機もない時代だから・・・・・・)

信長「発想の転換で、この暑さを愉しめば楽になる」

なんてことのないように、信長様が言った。

「愉しむって、どうやって・・・・・・ですか?」

信長「たとえば------暑い中、貴様と戯れることか」

腰に信長様の腕が巻き付き、心臓が大きな音を立てた。

「っ・・・・・・、もっと夏らしいことはないんですか」

信長「貴様は何かあるのか?」

そう尋ねられ、頭の中に夏の遊びを思い浮かべてみる。

(五百年後は色々な遊びがあるけど、この時代にできそうなことは・・・・・・! そうだ、あれなら・・・・・・)
私はバーベキューのことを思い出していた。

「日差しの下で、宴を開くのはどうですか?」

信長「暑い中、わざわざ外で宴をやるのか」

「はい。水辺や山の自然の中で、みんなで食材を焼いて食べると、すごく美味しく感じますし、楽しいですよ」

信長「なるほど、あえて自分たちで行動する夏の宴が」

信長様は少し考える素振りを見せて・・・・・・

信長「確かに暑さを愉しむには合理的な方法だ。都合のつく者に声をかけて、実践するとしよう」

やる気になった信長様を見て、思わず笑みをこぼす。

「私も当日はぜひお手伝いさせてください」

信長「ああ。無論、連れていく。愉しみにしていろ」

(あ・・・・・・)
その言葉とともに、私へと唇が降りてくる。

きゃー、なんかロマンチックなキスの仕方。言葉とともに。。。だよー!さりげないところがたまらないな。。。 

(当日が楽しみだな)
あたたかなキスを交わしながら、私は心を躍らせていた。

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数日後。

晴れ渡った空の下、信長様と馬に乗り、新緑の間を駆けて------

「広々としてて、素敵な場所ですね・・・!」

私たちは夏の宴を行う場所へとやってきた。仕事がお休みだったという秀吉さんと三成くんも一緒に来ている。

三成「静かで自然の豊かな素晴らしいところですね」

秀吉「ああ。近くに川もあるそうだ」

信長「自分たちで料理をするというゆうの話を聞き、最適な場所を選んだ。こっちだ」

そう促され、もう少し坂へと進むと------

(わ、すごい・・・・・・!)

秀吉「これは・・・・・・」

たくさんのお酒や食材、様々な道具に休憩用と思われる天幕まで用意されていて、目を丸くした。

「こんなに本格的だなんて、びっくりしました」

信長「当然だ。半端なことをしても意味がないからな」

秀吉「さすがは信長様です。完璧な夏の宴になりますね」

「とりあえず、分担して宴の支度をしない?」

秀吉「そうだな。俺は火の用意をする。ゆうは食材の下ごしらえを頼む」

「わかった」

秀吉「それから三成は・・・・・・」

三成「私は川で魚を釣ってこようと思います。新鮮な食材を焼くのが夏の宴、ですよね?幸い、用意されている道具の中に釣り竿もありますし」

三成くんは、爽やかに笑って釣り竿を手にする。

秀吉「けど・・・・・・ひとりで大丈夫か?」

三成「ご安心ください。しっかり人数分捕ってまいります」

秀吉「いや、心配なのは魚じゃなくお前の方だ。夢中になって川に落ちそうだからな」

信長「秀吉。一旦ここは三成にまかせておけ。ところで、俺の仕事は何だ」

当たり前のようにそう言いだした信長様に、秀吉さんが目を見開いた。

秀吉「何を仰るんですか。信長様に準備なんてさせられません!」

慌てて止めようとするけれど、信長様はしれっとしている。

信長「ひとりで待っていてもつまらん。それに、ゆうの言う夏の宴とは、自ら行動して愉しむものだろう」

(確かに、そうだよね。じゃあ・・・・・・)

「信長様。よかったら私と一緒にやりますか?」

すると信長様は私の手を取った。

信長「ああ、それが良い。俺はゆうの手伝いをする」

秀吉「ということは、食材の下ごしらえですか・・・・・・」

(せっかくだし、信長様にも一緒に楽しんでもらいたい)

「秀吉さん、いいでしょう?」

秀吉「そうだな。ご本人がそう望まれてるなら、お願いしよう」

信長「では分担は決定だ。準備を始めるぞ」

三成くんは川に向かい、秀吉さんは日の用意、私と信長様は食材の準備を始めた。

(よし、頑張ろう!)
気合いを入れ、食材を取り出すと・・・・・・

(えっ、これ・・・・・・ほとんど下ごしらえ済みだ)
どうももう焼くだけで済むようになっている。

信長「どうした。市から取り寄せた食材に不備でもあったか」

「あっ、いえ・・・・・・じゃあ、この野菜をお皿にのせていきましょうか」

信長「良いだろう」

信長様は、かごの中の野菜を取り、そのままお皿へ移す。

信長「・・・・・・量が多すぎたか」

「でも、こうして色んな種類が入ってるのはいいと思います。彩りよく盛りつけた方が、焼く前から美味しそうに見えますから」

信長「なるほど。それも発想の転換か。柔軟性のある考えで、貴様らしい」

(もしかして褒められた・・・・・・?)
思わず嬉しくなっていると、不意に身体を引き寄せられて・・・・・・

信長「他のことも貴様が手取り足取り教えろ」

「っ・・・・・・」

至近距離で視線が絡み、鼓動が跳ねた。

「でも、この体勢じゃ教えられないですよ・・・・・・?」

(絶対にわざとだよね?)
信長様は笑いながら私を離した。

信長「仕方がない。貴様を愛でるのは宴が終わった後だ。愉しみに待て」

喉元をくすぐられ、顔が熱くなる。信長様はてきぱきとまた盛りつけを始めた。私も手を動かしながら、信長様をちらりと盗み見る。
(裏方の作業をする信長様か・・・・・・なんだか新鮮だな)

思わず頬を緩める。その後も、信長様と一緒にお皿や箸を並べたりと準備を進めていった。

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「信長様、お疲れ様でした。すごく助かりました。お茶を用意するので、少し休んでいてください」

信長「ああ。貴様も飲め」

お茶を飲んで少しそると、また手持ち無沙汰になる。
(もっと何かやることはないかな・・・・・・)

そう考えていたとき・・・・・・

秀吉「これじゃあ、食材を焼くには少し火が弱いか・・・・・・」

火起こしをしている秀吉さんのひとり言が聞こえてきて、そちらに駆け寄る。

「確かにもう少し強い方がよさそう・・・。扇いでみようか」

秀吉「そうだな。えーっと、扇子は・・・・・・」

「私、持ってるよ」

帯の間から扇子を取り出して広げ、火に近寄って扇いだ。すると、思った以上に火が大きくなり、ばちっと爆ぜた。

「きゃっ・・・・・・!」

声を上げた時、後ろから強く身体を引き寄せられて------