(どっちに先にお酌をしようかな?)
少しだけ考えてから、信長様のそばに向かった。

「今日はお疲れ様でした」

信長「ああ」

私がお酒を注ぐと、信長様は満足げに微笑む。

信長「貴様も、大儀であった。今宵はよく休め。村の者が宿を用意しているらしい」

「はい、信長様も一緒にお休みしましょう」

信長「ほう・・・。その場合、貴様はゆっくりと休むことはできなくなるが、良いのか」

(えっ)
信長様はにやりと笑みを浮かべる。

信長「酒を呑んで色っぽくなった貴様と戯れるのも悪くないな」

「・・・っ」

不意に信長様の指が首筋を掠めて、思わず小さく声がもれそうになった。

信長「顔に出やすい女だ」

「何を言ってるんですか・・・・・・っ」

信長「事実を口にしたまでだ」

(なんだか急にドキドキしてきたな・・・)
盃をあおる信長様を見つめていると、ますます鼓動が高鳴っていった。

・・・・・・

賑やかな宴のあと------先を急ぐという信玄様は早々に村を立ち去ってしまい、私と信長様は宿へと案内される。

村人「あなた方のおかげで、この村がどれだけ救われたか・・・心から感謝いたします」

信長「俺の手柄ではない。このたびのことはゆうの功績だ」

「えっ?」

信長「当然、俺ひとりでも目的は達成できたが、信玄がいたことで今日の成果は二倍になったからな。面白くないが、ゆうがいなければあの男と間接的にでも手を組むなどあり得ん」

(そんなふうに考えていてくれたなんて・・・)
思いもよらず信長様に認められたことが嬉しくて、頬が緩む。

村人「おふたりは、お似合いの夫婦(めおと)ですね」

(め、めおと⁉︎)
微笑ましそうに言われて、慌てて首を横に振る。

「ええっと、夫婦というわけじゃなくて・・・」

村人「おや、違うのですか。仲睦まじいご様子なので、てっきり・・・」

信長「名前や形式こそ違うが、そのようなものだ」

(あ・・・)
ふいに抱き寄せられて、信長様の肩口ぴたりと頬が触れる。

信長「ゆうは俺にとって、この世で唯一無二の最上の女だからな」

(信長様・・・・・・)
迷いなく言い切られて、胸が高鳴る。私達のやりとりを、村人が温かい目で見つめる。

村人「おふたりは、固い絆で結ばれていらっしゃるのですね」

信長「当然だ」

(嬉しいけど・・・照れくさいとか、信長様にはないのかな。・・・ないんだろうな)

------

村人と別れて、用意されていた部屋へと入る。寝支度を整えながら耳を澄ますと、外から虫の音色だけがかすかに響いていた。

「なんだか、ちょっと落ち着かないですね」

信長「なぜだ」

「さっきまで賑やかな場所にいたせいかもしれませんけど、なんとなく、緊張するというか・・・」

(信長様とふたりきりになったせいかもしれないな。そういえば・・・・・・)


------

信長「ほう・・・。その場合、貴様はゆっくりと休むことはできなくなるが、良いのか」

信長「酒を呑んで色っぽくなった貴様と戯れるのも悪くないな」

------


(信長様、あんなこと言ってたけど・・・・・・)
意識しだすと、ますます身体がぎこちなく強張ってしまう。

信長「何をしている。来い、ゆう」

(わっ)
信長様は後ろから私を抱きしめると、そっとうなじに唇を寄せる。

「あ、あの・・・」

信長「しばらくこうしていろ」

回された腕に力がこもり、背中が信長様の胸板にぴたりとくっつく。首筋を掠める吐息に、鼓動が騒がしくなった。
(急に、どうしたんだろう・・・)

信長様はそのままじっとして、ただ私の肩口に顔を預けていた。

「・・・信長様?」

信長「黙って貴様を堪能させろ。先ほどまではくつろげなかったのだからな」

「え?」

淡々とした声で告げながら、信長様がさらに強く私を抱きしめる。

信長「甲斐の虎がいる限り、気を抜くことなどできん。だが、今こうして貴様をこの腕に抱いて、ようやく心が安らいだ」

(信長様、気を張ってたってこと?全然そんなふうに見えなかった)
信長様の吐息が心なし穏やかになった気がして。愛しさがこみ上げる。溢れる想いのままに、そっと信長様へと身体を寄せた。

「今日は本当に、お疲れ様です。でも私は、信長様て信玄様が力を合わせてくださったことが、嬉かったです」

信長「俺にとっても、悪くはない経験だった」

「ほんとですか?」

(信長様もそう思ってくれてるなら、なおさらよかった・・・)
ますます胸が暖かくなって、私は笑みを漏らした。

信長「今日のような日は二度とはないが、貴様がそうして笑うのならば、なおさら意味があった」

信長様は私の頬に手を添え・・・・・・ゆっくりと顔を近付ける。

「ん・・・・・・っ」

唇を重ねられ、すぐに口づけが深さを増していく。受け止めるのもやっとなくらい、胸が高鳴って息をするのも苦しい。
(信長様・・・)

ゆっくりと唇が離され・・・・・・薄くまぶたを開けると、すぐそばで視線が重なる。

信長「まだたりないようだな」

「え・・・」

信長「貴様の顔はそう言っている」

「んっ・・・・・・、ぁ・・・」

(こんな静かな部屋じゃ・・・)
その時がたりと障子が揺れて、思わず肩が跳ねた。

「信長様、今、音が」

信長「風鳴りだった」

「ですよね・・・」

信長「そんなに気にしてるなるのか?」

「だって誰か来たら困るじゃないですか・・・」

信長「誰が来ようと構わん。それにこの方が、貴様の声がよく聞こえていい」

「っ・・・・・・ん」

再び唇を奪われて、言葉がそこで途切れてしまう。舌先が緩く唇を割り、奥の方まで絡めとっていく。
(拒めるはず、ない・・・。大好きな信長様に、私も触れてほしいって思ってるから)

信長「もっと聞かせろ。余すことなく、貴様を愛してやる」

口づけの合間に低く通る声が鼓膜を震わせて、私を甘い夜へと誘った------・・・