「私は・・・・・・信長様と、一緒に過ごしたいです」

(信長様の時間を少しでももらえたら、それだけで・・・・・・)

信長「ほう・・・・・・それは俺が欲しいということか」

(え⁉︎)

秀吉「こら、ゆう。それはいくらなんでも・・・・・・」

信長「良いだろう」

(っ・・・・・・)
顎をすくわれて、信長様の凛々しく整った顔が目の前に迫る。

信長「貴様への褒美は、俺自身だ」

「ん・・・・・・」

私の髪を撫でた信長様と、ほんの一瞬、唇が重なった。
(皆の、前なのに・・・・・・)

かあっと頬が火照って、思わず目を伏せた瞬間・・・・・・

信長「これくらいで、その顔か」

「え・・・」

信長「自覚がないのも問題だな」

わずかに身体を離した信長様は、にやりと笑う。
(私・・・・・・今、どんな顔してるんだろう)

秀吉「・・・・・・信長様」

小さく咳払いをした秀吉さんが、居住まいを正して発言した。

信長「何か用か、秀吉」

秀吉「お邪魔して申し訳ありませんが、この後は信長様を祝う宴があります」

信長「・・・・・・そうだったな」

(よかった、信長様が止まってくれて・・・・・・)
熱く火照った頬を冷ましながら、信長様から少し離れる。

三成「そろそろ食事の準備が終わる頃ですから、広間に運び入れましょう」

「あ、それなら私もお手伝いするよ」

皆の方へ行こうとすると、腰に信長様の腕が回された。

信長「貴様は俺の着替えを手伝え」

「着替えですか・・・・・・?」

光秀「晴着に着替えられるのですね」

信長「ああ、後は頼んだぞ」

秀吉「はい、お任せください」

信長「ゆう、来い」

信長様に連れられて、私は一層騒がしくなっていく広間を後にした。

------

部屋に入ると、信長様は早速自分の帯を解きはじめる。

「あ、手伝います」

信長「ではそこの羽織をよこせ」

「はい」

衣桁(いこう)にかけてある羽織を手に、信長様のそばへ近付くと、
(っ、え・・・・・・)

信長様は帯で私の両手を縛った。

「信長様・・・・・・?」

信長「少し、貴様を可愛がってやろう、ゆう」

(えっ⁉︎)

「どうして、急に・・・・・・」

信長「口づけだけで表情を溶かしていたのは貴様だろう」

「それは・・・・・・っ」

重ねられた唇の温もりを思い出して、身体の熱が上がる。

信長「その顔だ。俺が欲しい、といってるようなものだな」

意地悪く笑った信長様が、縛った私の手首にそっと口づけを落とした。
(あ・・・・・・)

優しく唇で肌をなぞられて、ぞくりと身体を震わせる。

「だ、駄目ですよ。早く宴に行かないと、皆が待ってます」

信長「ほう、俺と過ごすより、宴に行きたいということか?」

「だって・・・せっかく、ぁ・・・・・・」

首筋を甘噛みされて、吐息がこぼれてしまう。

信長「どのように触れられたいか、その口で告げろ。褒美に俺をやると言ったからな。貴様の好きなように、愛でてやる」

(そんな・・・・・・言えないよ)

「っ・・・や、ぁ・・・・・・」

信長様の触れる場所から、身体に熱が広がっていくのを感じていると・・・・・・

信長「そんな声を出されては、このまま貴様を抱きたくなるな」

(え?)
不意に信長様が私を縛る帯を解いて足元に落とした。

信長「続きは宴の後にしてやる」

「っ・・・・・・からかったんですか?」

信長「さあな」

(騙された・・・・・・)
戯れに与えられた熱で火照った身体を恨めしく思う。

(それなのに、信長様になら何をされても嬉しく思えてしまうなんて・・・・・・)
少し悔しく思っていると、信長様が耳元に口を寄せ、甘やかな声で囁いた。

信長「貴様の贈り物は、誰よりも想いの感じられるものだった。礼を言う、ゆう」

(そんなに喜んでくださったんだ)
一生懸命考えて贈ったプレゼントだったからこそ、余計に嬉しさがこみ上げて、信長様の背に腕を回す。

「いつか信長様のそばで、あの刺繍を完成させるときが楽しみです」

信長「ああ。・・・・・・俺も同じ気持ちだ」

(あ・・・・・・)
言葉を発する前に、信長様が身体を寄せる。抱きしめ返してくれる信長様の腕に優しく包まれながら、少しだけ時間を忘れて、私たちは口づけを交わした。

------

その後------

広間で宴が開かれ、武将たちと多くの家臣が、信長様の誕生日を祝っていた。信長様の周りには家臣たちが集まり、次々と酒を注いでいる。
(私もあとで、お酌しに行こうかな)

信長様の方をちらちら見ていると、秀吉さんが私のそばに座った。

秀吉「ゆう、ちょっといいか?」

「うん、どうしたの?」

秀吉「信長様に聞いたんだが、『手相』を見たそうだな」

「うん。信長様は、つかんだ幸運を離さないすごい手相だったよ」

秀吉「っ、さすが信長様だな!」

政宗「おい、ゆう」

秀吉さんの後ろから顔を出した政宗が、意味有りげに微笑んだ。

政宗「広間で信長様の手をとったときに、何をしてたんだ?やらしい奴だな」

(や、やらしいって・・・・・・!)

「なにも変なことなんて、してないよ・・・・・・!」

政宗「だったら何をしていたか、言ってみろ」

(う・・・・・・皆は私が未来から来たことを知らないから、油性マジックで書いたって言うわけにいかないし・・・・・・)

光秀「ゆう、人前だろうが恥じることはない。信長様と言えないことをしていたとしても、堂々と胸を張れ」

「だから違うんです・・・・・・!」

三成「手相ですか。私もぜひゆう様に見ていただきたいです」

家康「それより自分の手元を見なよ、さっきから盃の酒がこぼれそうなんだけど」

政宗「ゆう、俺の手相も見ろ。そのかわり、やらしいことはするなよ?」

(これ、からかう気満々だ・・・・・・でも皆の手相にはちょっと興味があるかも)

「わかった。それじゃ、政宗からね」

差し出された手を、取ろうとすると・・・・・・
(っ------⁉︎)

突然、後ろから誰かに引き寄せられた。

信長「これ以上からかうな。この女で遊んでいいのは俺だけだ」

「信長様・・・・・・!」

(びっくりした・・・・・・)

政宗「これは失礼しました」

家康「手相は今度にしたら?」

三成「はい、そうですね。では私たちはこれで」

光秀「まあそう急かすな」

秀吉「いいから行くぞ、光秀」

宴の席へと戻っていく皆を見送る。

信長「ゆう、貴様も黙って遊ばれるな」

囁くように言った信長様が、かぷりと耳を甘噛みした。

「っ・・・・・・いきなり噛まないでください」

信長様に噛まれた耳がたまらなく熱くて、手で押さえる。

信長「不満か?」

「不満に決まってます・・・」

(ドキドキして、信長様の顔を見られなくなる・・・・・・)

信長「貴様は不満な顔でさえ愛嬌がある。もっと俺に見せろ」

信長様は私の顎をすくい、強引に視線を絡め取った。魅入られたように動けないでいると、信長様が目元を和ませる。

信長「それにしても貴様がいる安土城は、笑いが絶えんな」

「え・・・・・・」

信長「貴様がいると、場が明るくなるようだ」

(そう、かな・・・・・・)
戦国時代に来たばかりの頃、右も左もわからなかった私が、いつの間にか、安土に居場所を見つけて、溶け込んでいたことを、改めて感じた。

(最初は信長様のことも、怖いと思ってた。なのに・・・・・・今はここが、私の帰る場所になってる)

「この時代に来て、信長様や皆に会えて・・・・・・本当によかったです」

信長「貴様が未来に戻りたいと言っても、二度と逃してやりはしない」

「そんなこと、言いません。私はこの時代が、信長様のそばが、一番だから」

私を見つめる信長様の口元に、柔らかな笑みが浮かんだ。

信長「------・・・ああ、そうだな。貴様の願いが、俺と共に生きること、なのだから」

(それって・・・・・・)


------

「ふたりでずっと一緒にいなければ、完成しないものだから。信長様には、たくさん、生きて・・・・・・私のそばにいて欲しいです」

------


「あの時の言葉、覚えてくださってたんですか?」

信長「当たり前だろう。貴様の言葉はすべて記憶している」

そう言った信長様が、柔らかい口づけを落とす。

「っ、信長様、また皆の前で・・・・・・」

信長「気にするな、受け入れろ」

指先で髪の毛を弄んだ後、信長様はもう一度、優しいキスをくれた。
(ああ、どうしよう・・・・・・もう、幸せって言葉しか浮かばない)

信長「抵抗しなくなったな」

「抵抗なんて、出来ません。・・・・・・だって、すごく嬉しいんです」

日ごとに募る愛おしさを感じながら、私は信長様の口づけを受け入れた。

------

その日の夜遅く------

お風呂に入った後、信長様の部屋へ行くと・・・・・・

信長「・・・・・・」

褥(しとね)の上で信長様が手のひらを眺めていた。

「信長様、どうしたんですか?」

信長「貴様が書いた線を見ていた。湯浴みを済ませたというのに、消えていないとは不思議な筆だ」

私はそばに腰を下ろして、信長様の手を覗く。
(本当だ、まだくっきり残って消えてない・・・・・・)

「あ・・・・・・信長様の生命線の方が、私よりも長くなりましたね」

信長「何?」

「書き足したから、そうなったみたいです」

私が手のひらを差し出して、自分の手相を見せると、手相を見比べた信長様が顔を曇らせた。

信長「それでは困る」

(困る・・・・・・?)

「何がですか?」

首を傾げた私の腰に、信長様が腕を絡めた。

信長「愛する貴様とともに、最後の瞬間まで、ともに生きる。そのためには同じ長さでなければ意味がない」

(え・・・・・・)
言葉の意味を理解して、胸の奥が締め付けられた。

「大丈夫です、心配しないでください。私は最期の瞬間まで、信長様のおそばにいますから」

信長「必ずだな?」

「もちろんです」

小さく笑った私の頬を、信長様の両手が包む。

信長「その笑顔・・・・・・貴様は乱世に咲く華だ」

(え・・・・・・)
色気を放つ信長様の瞳に、鼓動が騒ぎ出す。

信長「枯れさせたりしない。水の代わりに愛を、陽の代わりに温もりを、注いでやろう」

まるで花びらに触れるように、信長様はそっと唇を重ねた。
(それは私も一緒だ・・・・・・信長様という大輪を、決して枯れさせたりしたくないから)

「私もあふれるくらい、信長様へ気持ちを注ぎますね。だから・・・信長様の気持ちも、いっぱい注いでください」

信長「当然だ。惚れた華だからな」

寝間着の帯が解かれて、信長様の指が肌の上を滑る感触に身をゆだねながら、共に過ごす幸せな時間の始まりを想った------