「私は・・・・・・信長様と、一緒に過ごしたいです」

(信長様の時間を少しでももらえたら、それだけで・・・・・・)

信長「ほう・・・・・・それは俺が欲しいということか」

(え⁉︎)

秀吉「こら、ゆう。それはいくらなんでも・・・・・・」

信長「良いだろう」

(っ・・・・・・)
顎をすくわれて、信長様の凛々しく整った顔が目の前に迫る。

信長「貴様への褒美は、俺自身だ」

長い指が私の髪を撫でて、ついばむように唇が重なった。

「つ、あ・・・・・・」

信長様の唇から伝わる熱に、ゆっくりと頭の芯まで溶かされていく。
(どうしよう・・・・・・皆がいるのに)

「駄目、です・・・・・・」

信長「どうした、俺が欲しいと言ったのは貴様だ」

「だからって、皆が見てます」

なんとか指先に力を込めて、信長様を押し返す。

信長「見てなどいない」

(え・・・・・・?)
振り返ると、いつのまにか武将たちの姿はなくなっていた。

(気を遣って二人きりにしてくれたのかな。それはそれで恥ずかしいけど)
照れくさく思っていると、信長様は自分の手のひらに視線を落とした。

信長「・・・・・・これは、墨とは違うようだな」

(あ、油性マジックで書いた線のこと?)

「はい。油みたいに、消えにくい液体なんですよ」

信長「ほう・・・・・・」

油性マジックを手渡すと、信長様は興味津々な様子で観察する。

「消えにくいとは言っても、いつかは消えてしまうんですけど・・・・・・それでも、私の気持ちを伝えたくて」

信長「そうか・・・・・・」

私の頬に軽く唇を押しあてた後、信長様が優しげに目を細めた。

信長「貴様の想いは十二分に伝わった。今後この線が消えても、何も問題はない。貴様の願いどおり、これから先も側にいてやろう」

(信長様・・・・・・)

「ん・・・・・・」

優しく唇を食まれて舌先でくすぐられるたびに、こぼす息が熱を帯びていく。
(どうしよう・・・・・・溶かされていくみたい。このままじゃ、立っていられない)

信長「しっかり褒美の俺を受け入れろ」

唇を重ねて囁く信長様に、鼓動が速さを増す。

「はい・・・・・・私も、受け止めたいです」

(もっと信長様の温もりを感じたいから)

信長「貴様の唇は愛おしいことばかり言う」

信長様の指に唇をなぞられて、ぞくりと身体が疼く。私を抱きしめる腕に力がこもって、信長様の胸に身を預けた。

信長「ここでこのまま貴様を愛することもできるが・・・・・・それだけでは、贈り物の褒美にはならないな」

「え・・・・・・?」

信長「昨日まで碌(ろく)に構ってやれなかった」

「それは、お仕事だから・・・・・・」

信長「だからこそ、今日は俺の時間をやる。貴様の好きなことを共にしてやろう」

(私の好きなこと?)

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信長「城下になにか用事があったのか?」

城下町へと下りて来た私は、物売りや見世物をする人たちで賑わう通りを、信長様と並んで歩いていた。

「用事じゃなくて、デートがしたかったんです」

信長「『でーと』?」

「あ、デートっていうのは、『彼氏』と二人で過ごすことなんですけど。信長様とご飯を一緒に食べたり、花を眺めたり・・・・・・手を繋いだりしたいなと思って」

(現代ならデートは普通のことだけど。乱世だと、ふたりきりでゆっくり過ごせる時間ってそうないし)

信長「そうか、では遠慮はいらん。存分に『でーと』を愉しむと良い。まず手を繋ぐのだな?」

立ち止まった信長様が、私の手を取って、指をしっかりと絡めた。
(信長様と、恋人繋ぎ・・・・・・)

手相を見た時と同じように、信長様の手に触れるだけで、鼓動が騒ぐ。

信長「次は食事か」

「はい。信長様は何か食べたいもの、ありますか?」

信長「貴様はどうなのだ。何が食べたい」

「ええっと、私は・・・・・・」

周りを見回すと、甘味屋の看板が目に入った。
(あ、美味しそうなお団子が売ってる)

信長「成程、あれか」

口元を緩めた信長様が私の手を引いて、甘味屋の方へと歩きだす。

「え、どうして私の考えが、わかったんですか⁉︎」

信長「当然だ。俺は貴様の『かれし』なのだからな。それに甘味屋を見て、呆れた顔をしていれば誰でも気付く」

(そんな顔してたのかな。でも、言葉にしなくてもわかってくれるなんて、それだけ見ていてくれたんだ)

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甘味屋に寄った後------------

買った団子を食べながら、信長様と道沿いに咲いている花を眺める。ひやかしに市を覗いたりするうちに、あっという間に時間が過ぎていった。
(特別なことをしているわけじゃないのに。信長様と一緒だと、こんなにも輝かしい時間に思えるのは何故だろう)

胸を熱くして隣の信長様を見つめると、優しい微笑みを返された。

信長「どうした」

「・・・・・・すごく楽しいデートだなと思ってました」

(ただ、信長様が笑ってくれる。それが何より嬉しい)

信長「ならば、近いうちにまた俺と『でーと』に来れば良い」

「いいんですか?」

信長「共に過ごしたいと思うのは、貴様だけではないということだ」

(それって信長様も、一緒にいたいと思ってくれてるの?)
きゅっと甘く締めつけられた胸に、幸せな気持ちが広がっていく。

「はい・・・・・・ありがとうございます」

信長様を想う気持ちが大きくなっていくのを感じながら、私は信長様と繋いだ手にそっと力を込めた。信長とゆうが互いに笑みを浮かべながらデートを楽しんでいた頃・・・・・・

城下に潜んでいた幸村と佐助は、路地裏からふたりの様子を見ていた。

幸村「今日ばっかりは、信玄様に報告すること、ひとつもねえな」

佐助「ふたりとも、いい表情をしているな」

幸村「魔王の笑顔なんて興味ねーよ。けど・・・・・・」

笑みを浮かべて歩いていくふたりを、幸村の静かな瞳が捕えた。

幸村「あいつが隣にいる時は、信長と戦おうとは思わねえ。決着は、戦場でつけてやる」

さっと背を向けて歩き出した幸村に、佐助が続き・・・・・・

佐助「ゆうさん、魔王を笑顔にするなんて、君はすごいな」

ゆうの方へ振り返った佐助が、目を細めて呟いた。

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デートを終えた信長様と私は、安土城へと戻ってきた。信長様の部屋で夜風を感じながら、ふたり、穏やかな時間を過ごす。

「せっかくのデートでしたけど、結局、特別なことは何もしなかったですね」

信長「貴様は特別なことが必要なのか?」

(わ・・・・・・?)
肩をすくめて笑った私を、信長様がふわりと抱き上げ膝に座らせた。

「------・・・いいえ。私にとってはどんな時間も、信長様と一緒にいると、特別に思えます」

信長「ああ、俺もだ。共に見送った時を、後になって振り返ることが出来る。それだけで十分だろう」

(振り返る・・・・・・そうかもしれない。こうして信長様のそばにいられることが、もう特別なことなんだから)

「はい・・・・・・私も同じ気持ちです」

信長様が薄く微笑んで、片方の手を広げる。

信長「貴様が引いたこのまま線だが」

「え・・・・・・」

見ると信長様の手には、私が書いた油性マジックの線がまだ残っていた。

信長「これを見ると、これから先も必ず生きなければならないと思える。貴様と生きた過去が、今の俺に影響を与えるように、貴様と生きる明日が、今の俺に影響を与えるのだ」

(信長様・・・・・・そんな風に考えてくださってたなんて)
胸が熱くなって、何も言えないでいると・・・・・・

瞳に色気をにじませた信長様が、指先で私の顎を持ちあげた。

「えっ」

信長「嬉しそうだな?ゆう」

「それは・・・・・・私が嬉しくてたまらないことを、信長様が仰るからです」

信長「俺のせいだというのか?」

「はい。私をこんなに幸せな気持ちにしてくれるのは、信長様しかいません」

(誰より信長様を愛おしく想っているから・・・)

信長「------これ以上、あまり話すな」

「え、私何か変なことを、言いまし・・・・・・んっ、ぁ・・・・・・」

焦る私を腕の中に囲った信長様が、奪うような口づけで言葉を奪った。

信長「貴様は愛らしすぎることばかり言う。たまらない気持ちになるだろう」

「っ・・・・・・待って・・・・・・」

信長「待たん。待つ理由もない」

「理由なら・・・・・・あります!」

私は吐息をこぼしながら、必死に身をよじる。

「だってまだ、信長様におめでとうって言ってません」

信長「何だと?」

(他愛ないことだって言われるかもしれないけど)

「ちゃんと言葉で伝えたいから・・・・・・信長様、お誕生日おめでとうございます。こうして信長様のお誕生日を、お祝いできて嬉しいです」

私から信長様の頬に、そっと触れるだけのキスをすると・・・・・・

信長「・・・・・・ああ。俺も貴様と誕生日を共に迎えられたことを幸せに思う」

眼差しを柔らかくした信長様が、私を腕の中に抱きこんだ。

信長「これからも未来永劫、俺のそばから離れるな」

(信長様・・・・・・)

「はい、絶対離れません」

(信長様と一緒にいられる。それだけで、たまらなく幸せだって思えるから・・・・・・)

たとえ激動の乱世でも、信長様と歩む未来は輝いていて・・・・・・これから先も一緒に生き抜いていきたいと、信長様の温もりに包まれながら、強く願った。