信玄「これも運命かもしれないな。戦わざるを得ないという」
謙信「ならば、場所を移すぞ。存分に相手をしてやる」
信長「臨むところだ」
(せっかくお店を見つけたのに戦うだなんて・・・・・・!)
私の心配などつゆしらず、三人は連れ立って歩いていく。
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信長「・・・・・・」
謙信・信玄「・・・・・・」
無言で歩く三人の空気は切れそうなほど張り詰めている。
(なんとか止めさせなきゃ・・・・・・!でもどうしたら・・・・・・)
ひと気のない方へ向かうみんなの一番後ろで、困惑していると------
「・・・・・・!」
後ろから突然ぐいっと手を掴まれ、陰へと引き込まれた。
佐助「しっ・・・・・・ちょっとごめん、ゆうさん」
口元に人差し指を立てた佐助くんがいて、目を見開く。
「佐助くん⁉︎ どうして・・・・・・」
佐助「実は、公務の途中で寄り道した二人を連れ戻しに来て、様子を見てたんだ」
「じゃあ佐助くん、こんなことになってる原因も知ってるの?」
佐助くんは頷いて私に包みを差し出した。
佐助「ああ、わかってる。だからこれを君に」
「この包みは?」
佐助「珍しい梅干しと、まんじゅうだ。うちの主君たちにこれで交渉してみて」
(これならなんとかなるかもしれない)
「ありがとう佐助くん、やってみるよ!」
佐助「こちらこそ。俺もなるべく早く穏便に連れ帰りたいから」
佐助くんと頷き合い、包みを手に三人を追いかける。すると、三人はちょうど刀を抜き、構えたところだった。
(間に合った・・・・・・!)
「ちょっと待ってください!謙信様と信玄様にお願いがあります!」
声わ張りながら前へと飛び出して、三人の間に割って入る。
信長「ゆう?」
信玄「・・・・・・わかった。話を聞こう」
「はい・・・・・・ここに珍しい梅干しと、美味しいおまんじゅうがあります。こちらを差し上げますから、どうか金平糖は諦めてもらえませんか・・・・・・!」
私は謙信様と信玄様に深く頭を下げた。
(お願い・・・・・・っ)
謙信「・・・・・・そう必死な顔をされては気が削がれる。まあ良い。梅干しを寄越せ。交換条件としては悪くない」
「ありがとうございます!」
謙信様は交換条件をのんでくれたけれど・・・------承諾してくれた謙信様に、ぱっと笑みを浮かべて顔を上げると------
信玄「天女には悪いが、断る」
信玄様に、きっぱり断られてしまう。
信長「・・・・・・」
(っ・・・・・・ここで諦めたらだめだ。きちんと説明すれば、信玄様だって・・・・・・)
「どうかお願いします、今回は金平糖を譲ってください!実は、今日は信長様のお誕生日なんです!」
謙信「信長の・・・・・・?」
信玄「誕生日だと?」
「はい、さっきは嘘をついてすみません。金平糖は、信長様に贈るために欲しかったんです。信長様の好きなものを、どうしても誕生日のお祝いに贈りたくて・・・・・・」
信玄「そのために、君はそこまで必死になっているっていうのか?」
「たかが金平糖かもしれませんが、信長様がそれで少しでも幸せな気持ちになれるなら・・・・・・信長様に笑って欲しい・・・・・・私の願いはそれだけなんです」
私の言葉を聞き、信玄様は考え込むように黙り込んだ。
(どうしよう・・・・・・もしかして、火に油を注いじゃったかな)
不安を脳裏によぎらせた私に、信玄様はふっと笑みを見せた。
信玄「まったく・・・・・・こんな奴、やめておけばいいのに。だが、君の気持ちに免じて今日は引くとしよう。謙信、行くぞ」
(信玄様・・・・・・!)
信玄様はくるりと踵を返して、謙信様と共に歩き出す。
「ありがとうございます!」
物陰にいた佐助くんが出てきて、私に目で合図する。佐助くんは信玄様と謙信様と一緒に去っていった。
信長「・・・・・・なるほど、あの忍びの差し金か。先程の視線もあやつだったのだな」
(さっき後ろを気にしていたのは、佐助くんのことだったんだ)
「あっ、そんなことより信長様、金平糖を買いに急ぎましょう!」
私は信長様の手を取った。
信長「ああ」
返ってきたのは優しい眼差しと微笑みで、嬉しさが胸に広がっていく。
(何だか信長様、楽しそう。いろいろ大変なことになっちゃったけど・・・・・・楽しんでくれてるのかな)
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そして市に戻り、先程の露店へと着くと------
「あ・・・・・・!」
信長「・・・・・・!」
露店の台の上には金平糖の袋が、一つだけ残っていた。
「その金平糖、ください・・・・・・!」
思わず大きな声を出してしまった私に、商人が目を見開き驚いた。
「よかったー・・・・・・」
ほっとするのと達成感とで、笑みを崩しながら金平糖を手にする。
「これ、買います!」
商人「ああ、そのまま持っていきな。遠方からわざわざ来たんだろう?見ない顔だ」
「えっ、そうですけど、お代は・・・・・・」
商人「お嬢さんたちのその笑顔で充分だよ」
「あ・・・・・・」
(色々聞き回ったから、誰かから耳に入ったのかも)
「・・・・・・ありがとうございます」
お言葉に甘えて、店主にお礼を告げる。そして信長様に改めて向き直り、金平糖の袋を差し出した。
「信長様、お誕生日おめでとうございます」
信長様は目元を和らげ、それを受け取った。
信長「貴様が必死になって得たものだ。ありがたく受け取ろう」
(信長様、すごく嬉しそう。頑張ってよかった)
信長様の笑顔を見て、私も嬉しさで満たされた。
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城に帰り、みんなに祝ってもらった後------
「秀吉さん・・・・・・市で見たのは見間違いじゃなかったんですね」
信長様の部屋に戻り、祝いの席でのことを思い出して苦笑した。
信長「まさか、金平糖を買い占めていたのがあやつだったとはな」
(健康に気をつけるって約束はとりつけさせてたけど、あんなに大量の金平糖を用意するなんてすごい)
秀吉さんはどうやら、信長様の誕生日前日だというのに、金平糖を取り上げてしまったことを申し訳なく思っていたらしい。
(秀吉さんは本当に信長様のことが大好きなんだな)
信長「まあ、あやつの性分を考えれば、何も不思議なことはない」
信長様は、秀吉さんのことを語りながら目を細める。改めてふたりの絆を感じて、心がほころんだ。
(信長様にとって、いい誕生日になったみたいでよかった。宴でも、みんなに祝われて楽しそうだったな・・・・・・あ)
ふとそこで、私の贈った金平糖が食べてもらっていないことに気づく。
(渡した時からずっと、持っていてはくれてるけど・・・・・・)
気になって、信長様を見上げ尋ねてみる。
「その金平糖、食べないんですか?」
信長「これは・・・------」
信長様は、手元の金平糖の袋に視線を落とす。
信長「貴様にもらったものだからか、普段と同じ金平糖だとしても貴重に思える。おかしな話だな」
(・・・・・・そんな風に思ったんだ)
子どもみたいな返答に愛しさを感じ、胸がくすぐったくなる。
(そこまで喜んでくれるなんて思わなかったから、嬉しいな)
「でも、飾っておくわけにもいきませんし、食べてください」
信長「そうだな。ならば、貴様が食わせろ」
「えっ?」
信長「意味はわかるだろう」
とん、と、私の唇に信長様の長い指が触れた。
(それって、口移しで食べさせろってこと⁉︎)
唇に触れられながら意味を悟ると、信長様は含んだように口端を吊り上げる。そうだと言っているような妖艶な笑みに、鼓動が音を刻みだした。
(ど、どうしよう・・・・・・)
おろおろとする間も、信長様は悠然と待っている。
(恥ずかしいけど、せっかくの誕生日だし、信長様にもっと喜んでほしい)
そう思い、羞恥を振り切って金平糖の包みに手を伸ばすと------
(え?)
ひょいっと包みを引かれ、指が空を切った。
信長「気が変わった。まずは俺が貴様に食べさせる」
信長様は金平糖を一粒つまみ、私の口元に運ぶ。唇に指先が柔らかく掠め、心臓が波打った。
信長「どうだ?」
「っ・・・・・・甘い、です」
信長「そうか。ならば、次は貴様の番だ」
愉しそうな笑みを描いて促す信長様に、ますますドキドキしてしまう。恥ずかしさを振り切り、そっと唇を近づけていく。柔らかいぬくもりに触れ、金平糖を唇の隙間から移すと・・・・・・
「ん・・・・・・っ」
深く塞がれ、金平糖はまた私の口の中に舌先とともに転がり込んできた。
「ふ・・・・・・、ぁ・・・・・・っ」
舌が濃密に擦り合わされて、熱です溶けた甘さが広がる。
信長「貴様ももっと絡めろ。でないといつまでも溶けんぞ」
(こんなキス・・・・・・っ)
甘すぎる金平糖の口づけに、頭がくらくらとして、逃げるようにして唇を離した。
「っ・・・・・・やっぱり恥ずかしいです」
真っ赤になったであろう顔を、信長様の胸にうずめる。
信長「・・・------ゆう」
「っ・・・・・・」
名前を呼ぶ低い声に、どきっとして顔を上げる。信長様の指が、私の頬を愛おしそうに撫でた。
信長「本当に欲しかったのは金平糖よりも、貴様とこうして触れ合う時間だ。昨夜もそう言っただろう」
熱のこもった瞳から、紡がれた言葉が本心だと伝わって胸がぎゅっとする。
(だから今・・・・・・こんなに嬉しそうに笑ってくれてるんだ。私と過ごす時間を大切に思ってくれているからこその悩みだなんで私にとって、こんな贅沢なこと・・・・・・他にないよ)
愛しさが溢れて、頬に添えられた手に私も手のひらを重ねた。そして、信長様をまっすぐに見つめる。
「お誕生日おめでとうございます、信長様」
心からの想いを告げ、その気持ちを乗せて信長様へと口づけた。そっと唇を解くと・・・・・・
信長「何よりも尊い祝いだな」
こつんと額がくっつけられ、優しさが滲む声でささやかれる。
信長「貴様のすべてを寄越せ。あますことなく愛してやろう」
「ぁ・・・・・・っ」
身体を押し倒され、上から組み敷かれた。唇が塞がれて、熱も吐息も絡まると、心も身体も溶けていく。
(おめでとうなんて言葉では足りないくらい・・・・・・今日という日が特別に思える。出逢えて本当に良かった、と少しでも伝えたい)
何より大切な人がこの世に生まれてきてくれたこの日------私は心からの愛しい想いを込めてすべてを捧げた。