今は一秒でも長く、触れ合っていたかった。
(どんな未来が待っていても、私は・・・・・・政宗のそばにいたい。ずっと・・・・・・)
------・・・翌朝。
太陽が昇ると同時に目を覚ますと、身体があたたかい腕に包まれていた。
政宗「・・・・・・何だ。もう目、覚めたのか」
「ん・・・・・・おはよ」
(政宗、もう起きてたんだ・・・・・・)
すでに目覚めていた政宗が、柔らかく私の髪を撫でる。
政宗「もうちょっと、のん気な寝顔見てたかったのに、残念だ」
「う・・・・・・あんまり、見ないでよ」
気恥ずかしさに熱くなる頬を、心地よいぬくもりにすり寄せた。
(一緒の布団で目覚めるのって、そういえばこれが二度目だな。一度目は、酔っちゃった政宗を介抱してて、そのまま・・・・・・だったっけ・・・・・・あの時の照れた政宗、可愛いかったな)
政宗「なに朝からにやにやしてんだ?」
政宗が不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。
「ちょっと、思い出し笑い」
政宗「ふーん。何を思い出してたんだ?」
政宗「・・・・・・ふーん?」
(あっ、そういえば、政宗は忘れてほしかったんだっけ)
一気に不機嫌になる政宗に、その時言われたことを思い出した。
(でも、なんだかそういうの気にするとこ、ちょっと可愛い・・・・・・)
政宗の唯一の弱点を知っているようで、少しいたずら心が湧いてくる。
政宗「忘れろって言ったよな、俺は」
「忘れろって言ったのは酔っ払ってた夜のことでしょ?私が言ってるのは朝の政宗」
政宗「どっちも忘れろ」
「やだ」
政宗「上等だ」
「わっ」
ニヤリと意地悪く笑い、政宗が私の脇腹を思いっきりくすぐってくる。
「ち、ちょっと、やめっ」
政宗「生意気言った罰だ」
「っ、あははっ」
くすぐる手を止めない政宗に、笑いが込み上げる。ふたりで布団中でじゃれあっていると、心が幸せで満たされていく。
(・・・・・・夢見てるみたい。数日前には、死を覚悟したっていうのに)
政宗「・・・・・・なんだ、降参か」
「うん、もう降参」
そっと政宗の手を取り、両手でぎゅっと握り締める。変わらず熱を帯びた手のひらが、胸の奥まであたためていってくれる。
(いきなりキスしたりする政宗のこと、ずっと変だと思ってた。でも・・・・・・今なら、ちょっとわかる)
一緒にいられることも、触れられることも、なにひとつ当たり前なんかじゃない。
いつ失われるかわからないからこそ、一瞬の幸せが、かけがえのないものに思えた。
政宗「ったく・・・・・・次、酔った時の話したら泣かすからな」
「覚えてるのはいいんだ」
政宗「忘れろって言っても覚えてるんだろ、どうせ」
私の髪を撫でまわすと、政宗は布団から身体を起こした。
政宗「朝飯、作ってやるから、お前は着替えなり化粧なりしてろ。飯食ったら、安土城まで送ってやる」
「あ・・・・・・うん」
(そうだ、ここ、政宗の御殿だった。安土城に帰らないといけないんだ)
今まで当たり前にしていたことが、急に寂しく思えた。
(・・・・・・私の帰る場所が、ここならいいのに)
政宗「・・・・・・そんな顔するなよ」
「えっ?・・・・・・そんな顔って?」
政宗「離れるの寂しいです、って顔」
「う・・・・・・」
(また、見抜かれてる・・・・・・)
政宗の手が、私の頬をすり、と撫でる。
政宗「夕方まで、戦の後始末で忙しいんだ。ここにいても一緒にいてやれない。夜、また迎えに行くから、我慢しろ」
「・・・・・・ん」
(ちょっと会えないだけなのに、寂しがって・・・・・・甘えすぎかな)
見透かされて気恥ずかしくなってくる。
政宗「顕如を捕まえるまでの我慢だな」
「え?」
政宗「奴のことが片付けば、安土に武将が集合してるこの妙な状態も解消される。そうしたら、お前、俺の城に来い」
「・・・・・・え?」
「・・・・・・嬉しい」
ぽつりと声に出して呟き、私はもう一度布団に身体を投げ出す。緩んでしまう口元は、どう頑張ってもおさえられそうになかった。
--------
政宗の御殿から帰城してすぐに、私は信長様の元へ参上した。
秀吉「ああ、ゆうか。おはよう」
「おはようございます」
信長「ようやく帰ったか、鉄砲玉」
秀吉さんと話をしていた様子の信長様がこちらを振り向いて笑みを浮かべる。
「さ、昨晩は無断で帰城せず、申し訳ありませんでした」
信長「無断ではない。政宗の御殿から遣いの者が昨夜、知らせに来ている。それに・・・・・・貴様が誰と懇(ねんご)ろになろうと、俺の知ったことではない」
「ねんごろ・・・・・・?」
信長「何だ、政宗の女になったのだろう」
「えっ⁉︎」
あまりにさらりと告げられた言葉に、つい短く声が漏れる。
信長「行軍の同行に飽きたらず、戦場にまで付いて行くくらいだ。別に、今さら驚かん」
(ま、間違ってはいないけど、政宗の女って・・・・・・)
あけすけな言い方に、顔に熱が集まる。
「ええと・・・・・・はい。重々承知しております」
秀吉「悪いことは言わない、考えなおしなさい」
微塵もためらわずに言い切る秀吉さんに、苦笑いが出てくる。
「・・・・・・肝に銘じておきます」
やんわりと断ると、秀吉さんはしばらくじっと私を見つめて、ふっとため息を吐いた。
秀吉「まあ、お前に言ってもしょうがないか。政宗にどういうつもりかきっちり説明してもらおう」
秀吉さんは本気で私を心配しているようだった。
(悪い男に捕まった妹を見る目だ、これ・・・・・・)
信長「まあ、貴様が政宗とどういう仲であろうと、貴様は今までどおり、この安土城に置く。俺が天下統一をするまでな」
「え・・・・・・?」
(これからもってこと・・・・・・?)
信長「他はともかく、政宗の奴は突拍子もないことをする。貴様を預けておくと、知らぬ間に奥州へ連れて行かれそうだからな。貴様のような面白い女は希少だ。俺の目の届かんところへ持って行かれてはつまらん」
そう言って、信長様は楽しげに唇を歪ませた。
(これは・・・・・・前途多難な予感)
ゆうが信長の元を訪れたと同じ頃。
政宗「・・・・・・で、掴めたのか、顕如の居場所は」
光秀「突然部屋に来ておいて、相変わらず遠慮がないなお前は」
部屋を訪れて開口一番に尋ねる政宗に光秀は笑ってため息を吐いた。
光秀「そう焦るな、丁度報告を受けたところだ。こちらの動きを上手く攪乱(かくらん)して逃げおおせているようだが、安土近隣にある奴の古巣を調べさせたところ、最近使われた痕跡が残っていた。近いうち・・・・・・そうだな、明日にでも接触できそうだ」
政宗「接触する時は必ず教えろよ。奴にはでかい借りがある」
光秀「わかったわかった」
ぎらりと獰猛に目を光らせる政宗をなだめるように、光秀が相槌をうつ。
光秀「・・・・・・しかし、ゆうは本当に面白い拾い物だったな」
政宗「ゆう?」
光秀「お前にくっついて行って、戦場にまで出るとは」
ゆうのことを思い出したのか、光秀が喉の奥で笑う。
光秀「お前に似合いだ。あの素直さと豪胆さ、惹かれる気持ちはわからんでもない」
政宗「いいだろ。・・・・・・やらないからな」
光秀「そう言われると、余計手出ししたくなるな」
横目で政宗を見据え、光秀が告げる。政宗はその悪戯な視線を、薄く笑いながら受け止めた。
政宗「泣かせたら殺す」
光秀「・・・・・・肝に銘じておこう」
----------
信長様との謁見(えっけん)から部屋へ戻り、私は引き受けた針仕事の合間に ”イケメン武将トラベルガイド” をめくっていた。
(政宗の故郷って、寒いのかな。この時代の防寒ってどうしたらいいんだろう?東北までの帰り道も、また長旅だな・・・・・・政宗の作った兵糧が大活躍しそう)
そんなことを、取り留めもなく考えてしまう。
ふたりでいられることをただ想像するだけでも、自然と笑顔になる。
(・・・・・・政宗の故郷、見てみたいな)
素直な願いが胸に浮かんだ時だった。
???「・・・・・・ゆうさん」
(え?)
不意に声をかけられて、驚いてあたりを見渡す。
(姿は見えないけど、さっきの声は・・・・・・)
「佐助くん・・・・・・?」
恐る恐る名前を呼ぶと、天井からカタンと物音がして、目の前に軽やかに佐助くんが降りてきた。
佐助「正解。久しぶり、元気そうでよかった」
「久しぶり、佐助くんこそ、元気だった?」
(この天井からの鮮やかな登場、懐かしいな・・・・・・)
この城に来たばかりの頃も、こうして現れた佐助くんに驚いたのを思い出す。
(・・・・・・佐助くんと会うのは、政宗に殺されかけたあの日以来だ)
佐助「北の方の拠点で戦があったから、巻き込まれてないか心配だったんだけど。安土が戦場にならなくて、本当によかった」
ほっとしたような佐助くんの表情に、苦笑いを返す。
(実は私、安土じゃなくて、戦場のまっただ中にいました・・・・・・なんて、言えないな・・・・・・)
「でも、どうして、突然ここに?」
佐助「ああ、ワームホールが出現するタイミングがもうすぐだから、場所を伝えに来たんだ」
(ワームホールの出現するタイミング・・・・・・?)
--------
佐助「次のワームホールが出現するのが、三か月後だとわかった。出現場所は調査中だけど、うまく接触出来れば・・・・・・現代に戻れる可能性が高い」
--------
(そっか・・・・・・あの時からもうすぐ、三ヶ月経つんだ)
佐助「場所は恐らく、この時代に来た時と同じ本能寺だ。京都まで行くことになるから、元の時代に帰る準備は、早めにした方がいい」
(------元の時代に、帰る。私、現代に帰れるんだ・・・・・・)
手の中にあるトラベルガイドを、ぎゅっと握り締める。
(現代から持ってきたトラベルガイドまで引っ張り出してきたのに、私、政宗と奥州に行くことばっかり考えてた・・・・・・)
まったく現代に帰ることが頭になかった自分に、驚きを隠せない。
佐助「もし京都に行くなら、道中危険だから、待ち合わせの場所と時間を決めて、一緒に行こう・・・・・・と、思ってたんだけど」
ふと言葉を切って、佐助くんが真剣な表情でこちらを見すえた。
佐助「・・・・・・そういうわけにも、いかなそうだな」
「・・・・・・うん」
戸惑っているのが、顔に出ていたらしい。
(最初はこの時代が、あんなに怖かったけど・・・・・・今は、帰りたい思いより、ここにいたいって気持ちの方が、強くなってる)
政宗のことを思うほど、離れたくないと強く願ってしまう。
佐助「もしかして、恋人ができたとか」
「えっ⁉︎・・・・・・どうして、そう思うの?」
佐助「何となく。ゆうさん、前よりも綺麗になったから」
「・・・・・・っ、な、何言ってるの・・・・・・っ」
頬が熱くなって、視線が泳ぐ。
(こんな反応したら、バレバレだよね)
「ごめん・・・・・・実は、そうなんだ」
佐助「やっぱり」
佐助くんは確信を得たというように、ふっと笑った。
佐助「どんな人か、聞いてもいい?」
「えっと、そうだな・・・・・・」
尋ねられて、政宗のことを考えてみる。
「・・・・・・いつも、突拍子もない行動で振り回してくる人でね。でも、その人といると、不思議と励まされるの。その人のお陰で、この時代でも私らしく生きていられた」
話していると、政宗との今までのことがよみがえってきた。
「理解できなくて、怖いと思うこともあったけど、悩みも痛みも全部呑み込んで突き進む、あったかくて強い人なんだってわかって・・・・・・好きに、なったの。その人を」
瞼の裏に、政宗が撃たれた時の記憶が浮かぶ。
(あの時、一度、政宗を失う恐怖を味わって・・・・・・、たまらなく怖かった。どんなことをしても、政宗を守りたいと思った。どんなに、怖い思いをしたとしても、政宗のそばにいたいって)
佐助「そっか。今までゆうさんは、そういう人のそばで生きてたんだね」
佐助君は困ったように、でも優しく、私を見つめ返していた。
佐助「それじゃあ・・・・・・現代には、帰らない?」
「・・・・・・うん。現代に残してきたものも、全部大切だし、友達も家族もいる・・・・・・叶えたい夢もある。でも・・・・・・命を捨ててもいいくらい大切だって思えた人と、離れることなんてできない」
(自分の心に、嘘はつけないから)
佐助「・・・・・・わかった」
答えると、佐助くんはすっとその場で立ち上がった。
佐助「ゆうさんがそうと決めたなら、俺も応援する」
「ごめんね・・・・・・佐助くんがせっかく、この時代の人と深い関係になるなって、忠告してくれたのに」
佐助「いや。戦国武将と一世一代の恋なんて、ロマンチックで素敵だと思う。君も意外と戦国ライフを楽しんでたみたいで、安心した」
「忍者になった佐助くんほどじゃないかもしれないけどね」
佐助「・・・・・・君がそうして笑ってられるのも、その人のお陰なのかな」
「うん・・・・・・そうだね。一緒にいると、振り回されて目が回るけど、くらくらするくらい、楽しいの」
佐助「へえ、俺も一度は会ってみたいかも」
(・・・・・・実はもう、会ってるんだよね。佐助くんとは、とんでもない対面だったけど・・・・・・)
ぎくりと身を強張らせる私をよそに、佐助くんは興味深げにこちらを見ている。
佐助「相手は織田軍の武将だよな。誰?参考までに聞いておきたい」
「えーとね・・・・・・私の好きな人は・・・・・・政宗なの」
佐助「政宗?政宗って、伊達政宗?俺やゆうさんを斬ろうとした、あの?」
「・・・・・・うん」
首を縦に振る私を見て、佐助くんが呆気にとられたように目を見開く。
佐助「・・・・・・驚いた。君は意外と肝が座ってるんだな。自分を殺そうとした人を好きになるなんて」
「確かに、言われてみれば、ちょっとおかしいかも」
佐助「いや、おかしくはない。それってすごい愛だな、と思っただけ」
(すごい、愛って・・・・・・)
佐助くんの評価が少し気恥ずかしくて、頬が熱くなった。
佐助「否定なんてしないよ、誰をどんな理由で好きになるかなんて、誰にもわからないから」
「ありがとう・・・・・・」
嫌味のない声色で言われて、私も素直な言葉をかえした。
佐助「帰る前に、また来る。多分それが、顔を合わせる最後になる」
「うん。あ、そうだ、もしお許しが出たら、見送りに行ってもいいかな」
佐助「もちろん。でも、無理はしないで。それじゃあ、また」
そう残すと、佐助くんは一瞬のうちに姿を消した。
(相変わらず、佐助くんの忍術はすごいな・・・・・・本当に消えたように見える)
感心しながら見送って、手元のトラベルガイドに視線を落とす。
思いを固めた時、ガタン、と障子が揺れた。
(・・・・・・風、強くなってきたのかな?)
畳の上で立ち、障子の隙間から外をのぞく。
それでも、私の心は、明るく浮き立っていた。
(・・・・・・早く、夜が来ないかな)
瞳をそっと閉じると、愛しくて仕方ない、その人の姿が浮かぶ。
(政宗に、早く逢いたい)
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(どんな未来が待っていても、私は・・・・・・政宗のそばにいたい。ずっと・・・・・・)
------・・・翌朝。
太陽が昇ると同時に目を覚ますと、身体があたたかい腕に包まれていた。
政宗「・・・・・・何だ。もう目、覚めたのか」
「ん・・・・・・おはよ」
(政宗、もう起きてたんだ・・・・・・)
すでに目覚めていた政宗が、柔らかく私の髪を撫でる。
政宗「もうちょっと、のん気な寝顔見てたかったのに、残念だ」
「う・・・・・・あんまり、見ないでよ」
気恥ずかしさに熱くなる頬を、心地よいぬくもりにすり寄せた。
(一緒の布団で目覚めるのって、そういえばこれが二度目だな。一度目は、酔っちゃった政宗を介抱してて、そのまま・・・・・・だったっけ・・・・・・あの時の照れた政宗、可愛いかったな)
政宗「なに朝からにやにやしてんだ?」
政宗が不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。
「ちょっと、思い出し笑い」
政宗「ふーん。何を思い出してたんだ?」
1. 政宗のこと ♡
2. 大したことじゃない
3. 可愛かったなって
「政宗のことだよ。政宗が酔った翌朝のこと」
「政宗のことだよ。政宗が酔った翌朝のこと」
政宗「・・・・・・ふーん?」
(あっ、そういえば、政宗は忘れてほしかったんだっけ)
一気に不機嫌になる政宗に、その時言われたことを思い出した。
(でも、なんだかそういうの気にするとこ、ちょっと可愛い・・・・・・)
政宗の唯一の弱点を知っているようで、少しいたずら心が湧いてくる。
政宗「忘れろって言ったよな、俺は」
「忘れろって言ったのは酔っ払ってた夜のことでしょ?私が言ってるのは朝の政宗」
政宗「どっちも忘れろ」
「やだ」
政宗「上等だ」
「わっ」
ニヤリと意地悪く笑い、政宗が私の脇腹を思いっきりくすぐってくる。
「ち、ちょっと、やめっ」
政宗「生意気言った罰だ」
「っ、あははっ」
くすぐる手を止めない政宗に、笑いが込み上げる。ふたりで布団中でじゃれあっていると、心が幸せで満たされていく。
(・・・・・・夢見てるみたい。数日前には、死を覚悟したっていうのに)
政宗「・・・・・・なんだ、降参か」
「うん、もう降参」
そっと政宗の手を取り、両手でぎゅっと握り締める。変わらず熱を帯びた手のひらが、胸の奥まであたためていってくれる。
(いきなりキスしたりする政宗のこと、ずっと変だと思ってた。でも・・・・・・今なら、ちょっとわかる)
一緒にいられることも、触れられることも、なにひとつ当たり前なんかじゃない。
いつ失われるかわからないからこそ、一瞬の幸せが、かけがえのないものに思えた。
政宗「ったく・・・・・・次、酔った時の話したら泣かすからな」
「覚えてるのはいいんだ」
政宗「忘れろって言っても覚えてるんだろ、どうせ」
私の髪を撫でまわすと、政宗は布団から身体を起こした。
政宗「朝飯、作ってやるから、お前は着替えなり化粧なりしてろ。飯食ったら、安土城まで送ってやる」
「あ・・・・・・うん」
(そうだ、ここ、政宗の御殿だった。安土城に帰らないといけないんだ)
今まで当たり前にしていたことが、急に寂しく思えた。
(・・・・・・私の帰る場所が、ここならいいのに)
政宗「・・・・・・そんな顔するなよ」
「えっ?・・・・・・そんな顔って?」
政宗「離れるの寂しいです、って顔」
「う・・・・・・」
(また、見抜かれてる・・・・・・)
政宗の手が、私の頬をすり、と撫でる。
政宗「夕方まで、戦の後始末で忙しいんだ。ここにいても一緒にいてやれない。夜、また迎えに行くから、我慢しろ」
「・・・・・・ん」
(ちょっと会えないだけなのに、寂しがって・・・・・・甘えすぎかな)
見透かされて気恥ずかしくなってくる。
政宗「顕如を捕まえるまでの我慢だな」
「え?」
政宗「奴のことが片付けば、安土に武将が集合してるこの妙な状態も解消される。そうしたら、お前、俺の城に来い」
「・・・・・・え?」
政宗「考えとけよ」
(あ・・・・・・)
私が答える前に、政宗はそのまま部屋を出て行ってしまう。
(お、俺の城?俺の城ってどこ・・・・・・?それって、一緒に住もう、ってこと?・・・・・・相変わらず、突然、そういうこと・・・・・・言うんだから・・・・・・でも)
私が答える前に、政宗はそのまま部屋を出て行ってしまう。
(お、俺の城?俺の城ってどこ・・・・・・?それって、一緒に住もう、ってこと?・・・・・・相変わらず、突然、そういうこと・・・・・・言うんだから・・・・・・でも)
「・・・・・・嬉しい」
ぽつりと声に出して呟き、私はもう一度布団に身体を投げ出す。緩んでしまう口元は、どう頑張ってもおさえられそうになかった。
--------
政宗の御殿から帰城してすぐに、私は信長様の元へ参上した。
秀吉「ああ、ゆうか。おはよう」
「おはようございます」
信長「ようやく帰ったか、鉄砲玉」
秀吉さんと話をしていた様子の信長様がこちらを振り向いて笑みを浮かべる。
「さ、昨晩は無断で帰城せず、申し訳ありませんでした」
信長「無断ではない。政宗の御殿から遣いの者が昨夜、知らせに来ている。それに・・・・・・貴様が誰と懇(ねんご)ろになろうと、俺の知ったことではない」
「ねんごろ・・・・・・?」
信長「何だ、政宗の女になったのだろう」
「えっ⁉︎」
あまりにさらりと告げられた言葉に、つい短く声が漏れる。
信長「行軍の同行に飽きたらず、戦場にまで付いて行くくらいだ。別に、今さら驚かん」
(ま、間違ってはいないけど、政宗の女って・・・・・・)
あけすけな言い方に、顔に熱が集まる。
ふと、それまで黙っていた秀吉さんが、大きく息を吐いた。
秀吉「しかしお前、よりにもよって政宗に本気になるなんて・・・・・・あいつのそばにいたら、命がいくつあっても足りないぞ」
秀吉「しかしお前、よりにもよって政宗に本気になるなんて・・・・・・あいつのそばにいたら、命がいくつあっても足りないぞ」
「ええと・・・・・・はい。重々承知しております」
秀吉「悪いことは言わない、考えなおしなさい」
微塵もためらわずに言い切る秀吉さんに、苦笑いが出てくる。
「・・・・・・肝に銘じておきます」
やんわりと断ると、秀吉さんはしばらくじっと私を見つめて、ふっとため息を吐いた。
秀吉「まあ、お前に言ってもしょうがないか。政宗にどういうつもりかきっちり説明してもらおう」
秀吉さんは本気で私を心配しているようだった。
(悪い男に捕まった妹を見る目だ、これ・・・・・・)
信長「まあ、貴様が政宗とどういう仲であろうと、貴様は今までどおり、この安土城に置く。俺が天下統一をするまでな」
「え・・・・・・?」
(これからもってこと・・・・・・?)
信長「他はともかく、政宗の奴は突拍子もないことをする。貴様を預けておくと、知らぬ間に奥州へ連れて行かれそうだからな。貴様のような面白い女は希少だ。俺の目の届かんところへ持って行かれてはつまらん」
そう言って、信長様は楽しげに唇を歪ませた。
(これは・・・・・・前途多難な予感)
ゆうが信長の元を訪れたと同じ頃。
政宗「・・・・・・で、掴めたのか、顕如の居場所は」
光秀「突然部屋に来ておいて、相変わらず遠慮がないなお前は」
部屋を訪れて開口一番に尋ねる政宗に光秀は笑ってため息を吐いた。
光秀「そう焦るな、丁度報告を受けたところだ。こちらの動きを上手く攪乱(かくらん)して逃げおおせているようだが、安土近隣にある奴の古巣を調べさせたところ、最近使われた痕跡が残っていた。近いうち・・・・・・そうだな、明日にでも接触できそうだ」
政宗「接触する時は必ず教えろよ。奴にはでかい借りがある」
光秀「わかったわかった」
ぎらりと獰猛に目を光らせる政宗をなだめるように、光秀が相槌をうつ。
光秀「・・・・・・しかし、ゆうは本当に面白い拾い物だったな」
政宗「ゆう?」
光秀「お前にくっついて行って、戦場にまで出るとは」
ゆうのことを思い出したのか、光秀が喉の奥で笑う。
光秀「お前に似合いだ。あの素直さと豪胆さ、惹かれる気持ちはわからんでもない」
政宗「いいだろ。・・・・・・やらないからな」
光秀「そう言われると、余計手出ししたくなるな」
横目で政宗を見据え、光秀が告げる。政宗はその悪戯な視線を、薄く笑いながら受け止めた。
政宗「泣かせたら殺す」
光秀「・・・・・・肝に銘じておこう」
----------
信長様との謁見(えっけん)から部屋へ戻り、私は引き受けた針仕事の合間に ”イケメン武将トラベルガイド” をめくっていた。
(政宗の故郷って、寒いのかな。この時代の防寒ってどうしたらいいんだろう?東北までの帰り道も、また長旅だな・・・・・・政宗の作った兵糧が大活躍しそう)
そんなことを、取り留めもなく考えてしまう。
ふたりでいられることをただ想像するだけでも、自然と笑顔になる。
(・・・・・・政宗の故郷、見てみたいな)
素直な願いが胸に浮かんだ時だった。
???「・・・・・・ゆうさん」
(え?)
不意に声をかけられて、驚いてあたりを見渡す。
(姿は見えないけど、さっきの声は・・・・・・)
「佐助くん・・・・・・?」
恐る恐る名前を呼ぶと、天井からカタンと物音がして、目の前に軽やかに佐助くんが降りてきた。
佐助「正解。久しぶり、元気そうでよかった」
「久しぶり、佐助くんこそ、元気だった?」
(この天井からの鮮やかな登場、懐かしいな・・・・・・)
この城に来たばかりの頃も、こうして現れた佐助くんに驚いたのを思い出す。
(・・・・・・佐助くんと会うのは、政宗に殺されかけたあの日以来だ)
佐助「北の方の拠点で戦があったから、巻き込まれてないか心配だったんだけど。安土が戦場にならなくて、本当によかった」
ほっとしたような佐助くんの表情に、苦笑いを返す。
(実は私、安土じゃなくて、戦場のまっただ中にいました・・・・・・なんて、言えないな・・・・・・)
「でも、どうして、突然ここに?」
佐助「ああ、ワームホールが出現するタイミングがもうすぐだから、場所を伝えに来たんだ」
(ワームホールの出現するタイミング・・・・・・?)
--------
佐助「次のワームホールが出現するのが、三か月後だとわかった。出現場所は調査中だけど、うまく接触出来れば・・・・・・現代に戻れる可能性が高い」
--------
(そっか・・・・・・あの時からもうすぐ、三ヶ月経つんだ)
佐助「場所は恐らく、この時代に来た時と同じ本能寺だ。京都まで行くことになるから、元の時代に帰る準備は、早めにした方がいい」
(------元の時代に、帰る。私、現代に帰れるんだ・・・・・・)
手の中にあるトラベルガイドを、ぎゅっと握り締める。
(現代から持ってきたトラベルガイドまで引っ張り出してきたのに、私、政宗と奥州に行くことばっかり考えてた・・・・・・)
まったく現代に帰ることが頭になかった自分に、驚きを隠せない。
佐助「もし京都に行くなら、道中危険だから、待ち合わせの場所と時間を決めて、一緒に行こう・・・・・・と、思ってたんだけど」
ふと言葉を切って、佐助くんが真剣な表情でこちらを見すえた。
佐助「・・・・・・そういうわけにも、いかなそうだな」
「・・・・・・うん」
戸惑っているのが、顔に出ていたらしい。
(最初はこの時代が、あんなに怖かったけど・・・・・・今は、帰りたい思いより、ここにいたいって気持ちの方が、強くなってる)
政宗のことを思うほど、離れたくないと強く願ってしまう。
佐助「もしかして、恋人ができたとか」
「えっ⁉︎・・・・・・どうして、そう思うの?」
佐助「何となく。ゆうさん、前よりも綺麗になったから」
「・・・・・・っ、な、何言ってるの・・・・・・っ」
頬が熱くなって、視線が泳ぐ。
(こんな反応したら、バレバレだよね)
「ごめん・・・・・・実は、そうなんだ」
佐助「やっぱり」
佐助くんは確信を得たというように、ふっと笑った。
佐助「どんな人か、聞いてもいい?」
「えっと、そうだな・・・・・・」
尋ねられて、政宗のことを考えてみる。
「・・・・・・いつも、突拍子もない行動で振り回してくる人でね。でも、その人といると、不思議と励まされるの。その人のお陰で、この時代でも私らしく生きていられた」
話していると、政宗との今までのことがよみがえってきた。
「理解できなくて、怖いと思うこともあったけど、悩みも痛みも全部呑み込んで突き進む、あったかくて強い人なんだってわかって・・・・・・好きに、なったの。その人を」
瞼の裏に、政宗が撃たれた時の記憶が浮かぶ。
(あの時、一度、政宗を失う恐怖を味わって・・・・・・、たまらなく怖かった。どんなことをしても、政宗を守りたいと思った。どんなに、怖い思いをしたとしても、政宗のそばにいたいって)
佐助「そっか。今までゆうさんは、そういう人のそばで生きてたんだね」
佐助君は困ったように、でも優しく、私を見つめ返していた。
佐助「それじゃあ・・・・・・現代には、帰らない?」
「・・・・・・うん。現代に残してきたものも、全部大切だし、友達も家族もいる・・・・・・叶えたい夢もある。でも・・・・・・命を捨ててもいいくらい大切だって思えた人と、離れることなんてできない」
(自分の心に、嘘はつけないから)
佐助「・・・・・・わかった」
答えると、佐助くんはすっとその場で立ち上がった。
佐助「ゆうさんがそうと決めたなら、俺も応援する」
「ごめんね・・・・・・佐助くんがせっかく、この時代の人と深い関係になるなって、忠告してくれたのに」
佐助「いや。戦国武将と一世一代の恋なんて、ロマンチックで素敵だと思う。君も意外と戦国ライフを楽しんでたみたいで、安心した」
「忍者になった佐助くんほどじゃないかもしれないけどね」
佐助「・・・・・・君がそうして笑ってられるのも、その人のお陰なのかな」
「うん・・・・・・そうだね。一緒にいると、振り回されて目が回るけど、くらくらするくらい、楽しいの」
佐助「へえ、俺も一度は会ってみたいかも」
(・・・・・・実はもう、会ってるんだよね。佐助くんとは、とんでもない対面だったけど・・・・・・)
ぎくりと身を強張らせる私をよそに、佐助くんは興味深げにこちらを見ている。
佐助「相手は織田軍の武将だよな。誰?参考までに聞いておきたい」
「えーとね・・・・・・私の好きな人は・・・・・・政宗なの」
佐助「政宗?政宗って、伊達政宗?俺やゆうさんを斬ろうとした、あの?」
「・・・・・・うん」
首を縦に振る私を見て、佐助くんが呆気にとられたように目を見開く。
佐助「・・・・・・驚いた。君は意外と肝が座ってるんだな。自分を殺そうとした人を好きになるなんて」
「確かに、言われてみれば、ちょっとおかしいかも」
佐助「いや、おかしくはない。それってすごい愛だな、と思っただけ」
(すごい、愛って・・・・・・)
佐助くんの評価が少し気恥ずかしくて、頬が熱くなった。
佐助「否定なんてしないよ、誰をどんな理由で好きになるかなんて、誰にもわからないから」
「ありがとう・・・・・・」
嫌味のない声色で言われて、私も素直な言葉をかえした。
佐助「帰る前に、また来る。多分それが、顔を合わせる最後になる」
「うん。あ、そうだ、もしお許しが出たら、見送りに行ってもいいかな」
佐助「もちろん。でも、無理はしないで。それじゃあ、また」
そう残すと、佐助くんは一瞬のうちに姿を消した。
(相変わらず、佐助くんの忍術はすごいな・・・・・・本当に消えたように見える)
感心しながら見送って、手元のトラベルガイドに視線を落とす。
(今夜、会えたら・・・・・・政宗の城に一緒に行きたいって、伝えよう。政宗と一緒に、生きていきたいって)
思いを固めた時、ガタン、と障子が揺れた。
(・・・・・・風、強くなってきたのかな?)
畳の上で立ち、障子の隙間から外をのぞく。
重く垂れこめた雲が、今にも雨を降らしそうな空だった。
(やっぱりさっきより風が強いな・・・・・・、嵐でも来るみたい)
(やっぱりさっきより風が強いな・・・・・・、嵐でも来るみたい)
それでも、私の心は、明るく浮き立っていた。
(・・・・・・早く、夜が来ないかな)
瞳をそっと閉じると、愛しくて仕方ない、その人の姿が浮かぶ。
(政宗に、早く逢いたい)
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朝目覚めから、いちゃいちゃだわ〜〜![](https://emoji.ameba.jp/img/user/na/namida-egao/1496.gif)
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こんなほんわかしたお布団の雰囲気、幸せだよねー❗️
朝から頭撫でられちゃうのは、いいな。
でも、朝からくすぐられるのは ❌