(お、落ちる・・・・・・っ!)


政宗「・・・・・・っ、おい、大丈夫か」

「だ、大丈夫・・・・・・っ」

政宗に身体を押しあげられ、私は湖から湖畔へと這い上がった。怪我はないものの、お互いに頭から爪先まで水浸しだ。
(び、びっくりした・・・・・・っ、一瞬、死ぬかと思った・・・・・・!)

「私達、どうなったの・・・・・・?」

政宗「あっちの斜面から、湖に落ちたんだ」

見ると、さほど高くはないけれど急な崖になっている地形が見える。
(私が、後ろも見ずにさがったから・・・・・・)


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政宗「ゆう!」

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(政宗があの時手を取ってくれなかったら、私、溺れてたかも・・・・・・)
自分の不甲斐なさを感じ、小さく肩を落とす。

「・・・・・・ごめん、政宗まで巻き込んで」

政宗「いや、俺も大人げなかった。悪かったな。逃げまどうお前を追うのが楽しくてな」

政宗は岸辺に腰を降ろし、濡れた前髪を掻き上げて愉快そうに笑う。

政宗「しかし、湖に落ちたのははじめてだ。お前がいると、本当に退屈しない」

「湖に落ちて喜ぶなんて、政宗くらいだと思うよ・・・・・・」

政宗「そうか?・・・・・・まあ、文句があるとすれば、眼帯に水が入ったことくらいだな」

(あ・・・・・・)

面倒そうに政宗が眼帯の紐を解いた時、水の滴(したた)る髪の狭間から、隠れていた右目が露わになった。

政宗「あまり見ない方がいい。気持ちいいもんじゃない」

(・・・・・・刀傷がある。戦で負ったのかな・・・・・・)

政宗「・・・・・・何だ。珍しいか?」

「あ、その・・・・・・右目、どうしたのかと思って・・・・・・ごめんジロジロ見て」

(触れられたくないことかもしれないのに、失礼だよね)
はっと気づいて、慌てて視線をそらす。

政宗「右目はなぁ・・・・・・食った」

「えっ⁉︎」

政宗「どんな味がするのかと思って。よく見たらお前の目も、美味そうだな」

「・・・・・・嘘でしょ?」

真顔でじいっと私の目を見つめる政宗に、危機感を覚えて後ずさる。

政宗「冗談だ、冗談」

政宗は愉快そうに声を上げて笑った。
(またからかわれた・・・・・・政宗の冗談は、冗談に聞こえないよ・・・)

政宗「小さい頃に病気で失明して、眼球が気味悪い状態になってな」

(えっ?)

政宗「それが原因でまあ・・・・・・色々あって。それなりに悩んだ挙句、右目ひとつに振り回されるのが、嫌になって。信頼している部下に、取ってもらったんだ」

「・・・・・・っ」

政宗「この刀傷は、その時のもんだ。戦の勲章じゃなくて、残念だったか?」

「う、ううん、そんなわけないじゃない・・・・・・」

(・・・・・・やっぱり気軽に聞いていいことじゃなかった)

「・・・・・・ごめんね、突然右目どうしたのなんて聞いて」

政宗「何で謝る。別に、大したことじゃないだろ」

(大したことなくないよ・・・・・・ものすごく、辛いことだったはず。私の悩みなんて、とてもじゃないけど比べられないくらいに)
今朝から引きずっていた悩みが、あまりに小さいことに思えて情けない。

「・・・・・・政宗は、すごいね」

政宗「何だ、突然あらたまって」

「だって・・・きっと右目がきっかけで、色んなことが今まで通りじゃなくなって、すごく怖くて大変だったはずなのに・・・・・・乗り越えて、堂々と生きてるから」

政宗「大げさだな」

(何でだろう・・・・・・私、政宗と自分を重ねてる)
自分の意志と関係なく、取り巻く世界が急に変わってしまった。それが少し似ていると、勝手に感じたからかも知れない。

「私、この時代に来て、今まで当然だった常識も、何一つ通用しなくて。政宗がいなかったら、昨日も今日も、無事じゃすまなかったし・・・・」

(こんなずぶ濡れで、なに弱音吐いてるんだろ・・・・・・情けない)
自分でも不思議なくらい、溜めこんでいた悩みが口から零れていく。

「一人じゃ自分の身ひとつ守れないって思ったら、不甲斐なくて・・・・・・今朝、いっそこのまま部屋に閉じこもってようかなって思ってたんだ。」

政宗「ふーん。なんで閉じこもらなかったんだ?」

「えっ?」

その声に顔を上げると、政宗が真っ直ぐにこちらを見つめていた。

「それは・・・・・・」

(どうしてだっけ・・・?あ、そうだ。政宗の手紙を読んで。それで・・・・・・)

「閉じこもってるなんて性に合わないと思って・・・・・・お腹も減ってたし」

政宗「いい理由じゃねえか」

おかしそうにつぶやき、政宗が笑う。

「そうかな。ただ、不安を見ないようにしてるだけかも・・・・・・」

政宗「ゆう」

(・・・・・・っ)

政宗に名前を呼ばれた刹那、電気が走ったように背筋が伸びる。
(また、だ・・・・・・。昨日、馬に乗ってた時も感じたけど。政宗の、こういう目を見ると・・・・・・視線が逸らせなくなる)

強い眼差しに見据えられ、鼓動の音ばかりが速くなっていく。

政宗「生まれたからには、全力で生きることを楽しむべきだ。命ある限り、自分自身の信条に恥じない生き方をするべきだ」

「信条に恥じない・・・・・・?」

政宗「お前の ”性に合う” やりかたで、ってことだ。そうしないと、絶対に後悔する」

そう距離は近くないのに、政宗の言葉が耳元のすぐ傍で響く。
声が届くたび、耳の奥で血が脈打つのを感じた。

政宗「怖がって隠れてても、楽しんでても、どうせ腹は減る。脅えて食う飯よりも笑って食う飯の方がうまいに決まってるだろ」

「・・・・・・なに、それ」

ついでみたいに最後に付け足された言葉に、ふっと肩の力が抜けた。

「・・・・・・っ、ふふ」

政宗「なんだよ、何笑ってんだ」

「ううん、なんでもない・・・・・・」

(何なんだろう、この人。本人は無自覚なのかもしれないけどいつも、緊張を解いてくれて、それに勇気づけられる・・・・・・)
以前にも、こんなことがあったことを思い出す。


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政宗「真正面から風を受けたほうが、気持ちいい。怖がって縮こまってちゃ、楽しめるもんも楽しめねえぞ」

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(あの時も、今も・・・・・・)
政宗と一緒にいるだけで、ふっと心が軽くなる。

(・・・・・・まず自分のできることから、少しずつ、頑張ってみよう)
なんの不安もなく、そう思えた。
感謝を込めて、政宗の方を見上げる。

「政宗のおかげで気がすごく楽になった。ありがとう」

政宗「・・・・・・」

微笑んでお礼を伝えると、政宗がふいに目を瞬かせる。

政宗「・・・・・・へえ」

小さく笑みを零しながら、政宗は再び私の頬へ、さっきよりも優しく、指先を滑らす。

「政宗?どうし・・・------」

(え・・・・・・?)
声が途切れると同時に、唇に柔らかい感触が触れた。

「・・・っ・・・・・・、ん」

(・・・・・・なに・・・・・・?)
政宗は私の唇を悪戯に食むと、すっと身体を離す。

政宗「・・・・・・ゆう、もっと普段から笑え」

(え・・・?)
いまだ近い距離で見つめ合ったまま、ぽつりと政宗が零す。

「な・・・・・・なんで」

政宗「お前の笑顔は、可愛い」

(な・・・・・・っ)
優しげな声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。言葉を迷わせていたその時、どこからか蹄(ひづめ)の音が聞こえてきた。

政宗「・・・・・・お、馬が来たな。助かった」

先程の政宗の家臣たちが湖を迂回(うかい)してきたらしい。呆然とする私を尻目に、政宗は立ち上がって家臣達に手を振る。
(・・・・・・何が起こったの)

唇にまだ、柔らかい感触が残っていて離れない。
(私いま、政宗にキスされた・・・?)

考えただけで、心臓がうるさいくらい高鳴る。

政宗「ほら、ゆう、帰るぞ」

いつも通りの政宗とは正反対に、安土城へと帰る道中、私の心はずっと穏やかさを取り戻さなかった。




「右目はなぁ・・・・・・食った」って。。。

政宗は、冗談にしちゃうとこが、凄いよね 


「生まれたからには、全力で生きることを楽しむべきだ。命ある限り、自分自身の信条に恥じない生き方をするべきだ」

↑これ、名言だよねー。イケセンの中でダントツ一位に名言だと思う。。。
簡単そうで難しいよ、これ❣️

「怖がって隠れてても、楽しんでても、どうせ腹は減る。脅えて食う飯よりも笑って食う飯の方がうまいに決まってるだろ」

↑これも!名言だよ〜〜 

政宗らしい考え方だし、政宗らしい伝えかたするよねー 

かっこいいよ、政宗は❣️