政宗「ん?・・・・・・そうだな。こいつが来てから、本当に退屈しない」


「う・・・・・・ううん」

ふっと意識が覚醒した時、私は安土城の自室の布団の中にいた。
窓の外は、太陽がすでに高く上がっている。

(・・・あれ? 私、どうして自分の部屋に・・・・・・)
視線を巡らせて、ふと、床の間の刀が目についた。

(あ・・・・・・)


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政宗「最初に動いた奴から斬る。死にたくない奴は、下がってな」

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(っ、そうだ。昨日は謀反人を捕まえに行って、乱闘になって・・・・・・)


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大名「貴様、誰に向かってものを言ってる!」

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(私・・・・・・あと少しで、死ぬ所だったんだ)
大名の大声と、目の前まで迫る刃が、まぶたの裏に蘇った。

(昨日は政宗が助けてくれたけど、次は本当に命がないかもしれない)
改めて、冷静に振り返ってみると、身体が震えた。

(気楽に考えてたけど・・・・・・この時代じゃ私、自分の身一つ守れないんだ。この時代で、私が一人前にできることなんて、あるのかな・・・・・・)


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佐助「次にワームホールが出現するのが、三か月後だとわかった。出現場所は調査中だけど、うまく接触出来れば・・・・・・現在に戻れる可能性が高い」

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(佐助くんが言ってた次のタイムスリップの時期は三か月後。それまでこの部屋に閉じこもって、じっとしてた方が・・・・・・)

「・・・・・・ん?」

ふと、枕元に置き手紙がぽつんと置かれているのに気がついた。
(誰からだろう?・・・・・・あ、政宗だ)

手紙を開いてみると、勢いのある筆致で文が書かれていた。

政宗『夜を徹しての行軍、ご苦労だったな。初陣のくせに丸腰で敵将に突っ込んでいく度胸はいいが、馬上で爆睡する無防備さは、どうにかしたほうがいいと思うぞ』

(私、政宗の馬で寝ちゃったのか・・・・・・ってことは、運んでくれたのも、政宗かな)
恥ずかしくて頬がほてるのを感じながら、文字を目で追っていくと、手紙の最後についでのように綴られた言葉に、目が止まった。

( 『追伸 起きたら朝飯はちゃんと食えよ』・・・・・・?)

「・・・・・・ふふ」

戦の「い」の字も感じさせないのんきな文章に、思わず笑みがこぼれる。
(そういえば、お腹すいたな。だから、マイナス思考になってるのかも)

「・・・・・・閉じこもってるなんて、やっぱり性に合わないし」

さっきまでの悩みを追い払うように、私はすぐに布団から立ち上がった。


信長「昨夜の働き、大儀であった」

朝食のあと、昨日と同じように安土城の広間へ呼ばれていくと、昨日は居なかった光秀さんも含めて、織田軍の全員が顔を揃えていた。

信長「早速報告をと言いたいところだが、まずは光秀から知らせがある」

光秀「本能寺で信長様を暗殺しようとした賊の正体が、判明した」

(えっ・・・・・・!)

光秀「信長様が攻め落とした本願寺の高僧であった、顕如(けんにょ)だ。本願寺を潰した信長様を恨み、破戒僧(はかいそう)となって復讐の機会を狙っていたらしい」

秀吉「居所もつき止めているのか」

光秀「所在はまだ不明だが、どこかに潜伏して機を伺っているのは間違いない」

(顕如? どこかで聞いたことがあるような・・・・・・どこだったっけ?)

--------

----その頃。山奥の木々に囲まれたあばら屋に、焦りきった声が響いた。

隠密「顕如様!」

顕如「何事だ、騒々しい」

顕如と呼ばれた男は狼狽える男を一瞥し、落ち着いた声で尋ねる。

隠密「申し訳ございません。織田軍の者に、我ら隠密の一人が捕まり・・・・・・恐らく、我らが信長を狙っていることを、悟られたかと」

顕如「・・・・・・そうか、まあいい。こちらもいい情報を手に入れたところだ。まさか、信玄と謙信が生き延びているとはな・・・・・・天運は俺に味方しているようだ。俺に殺されるまで、俺を敵に回したこと、たっぷりと後悔するがいい・・・・・・信長」

---------

秀吉「あの顕如が、信長様の暗殺を企ててるとは・・・・・・」

信長「光秀は引き続き、敵の所在を突き止めろ。秀吉、昨夜の報告を」

秀吉「はっ。謀反人の抵抗にあいましたが、政宗が敵の分裂を扇動(せんどう)し、無用の損失を出さず敵兵を撃破、捕縛に成功しました」

信長「よくやった。あの土地は、政宗、貴様にゆだねる。無駄な内紛など起きぬよう、上手く手入れしろ」

政宗「元より、そのつもりです」

(・・・・・ん? あの土地が政宗の領地に入るってことかな?)

政宗「ああ、それから・・・・・・こいつにも報酬をお願いしたい」

「えっ、私⁉︎」

突然、政宗に水を向けられて、私は思わず声を上げた。

政宗「こいつが素手で謀反人を捕まえてたお陰で、大名が逃げそこねてた所を囚えられたんだ」

秀吉「素手で⁉︎ そうだったのか・・・・・・?」

「え、あ、はい・・・・・・お恥ずかしい」

光秀「それはまた、豪気なことだな」

三成「さすが、と言っていいのでしょうか・・・・・・よく、ご無事でしたね」

信長「貴様は本当に面白い女だな。褒美を考えておこう」

「あ・・・・・・ありがとう、ございます」

(褒美なんて・・・・・・政宗がいなかったら、死んでたかもしれないのに)
周りから驚きの視線を向けられ、なんだか萎縮してしまう。

秀吉「それから信長様、もう一点、ご報告がございます。今回の謀反の原因を問いただしたところ・・・・・・上杉謙信と、武田信玄が、生きている、との訴えが」

(そういえば・・・大名がそんなこと言ってた)
秀吉さんの言葉を聞いて、信長様の唇が、かすかに歪む。

信長「・・・・・・信玄も謙信も死に損なったか。面白い。だが攻めるにしても情報が足りんな。各人、諜報に励め」

全員「はっ!」

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その頃、安土より北東に位置する、春日山城では------。

謙信「退屈だ・・・・・・戦はまだか、信玄。退屈で死んでしまうぞ」

信玄「耐えろ。俺も今すぐにでも信長の首をかき切ってやりたいが、辛抱してるんだ」

広間に座した二人の武将が、苦い顔を並べていた。

信玄「安土に潜伏している、幸村たちの帰りを待とう」

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みんなが解散した後、私は信長様の言付けでいくつか書状をまとめたあと、政宗の御殿へと向かっていた。
(命を助けてもらったのに、結局うやむやになって、きちんとお礼、できてなかったからな。お金もないしものを贈ったりはできないから、せめて何か役に立てればいいんだけど)

政宗の家臣「政宗様、ゆう様がお見えです」

家臣の方に案内され、部屋へ足を踏み入れる。

政宗「ゆうか。悪いがちょっと今手が離せない。座って待ってろ」

(あ、お仕事中だったのか)
政宗は文机に向かい、紙へ筆を滑らせていた。
少し遠慮がちに、座布団の上へと腰を降ろす。

「・・・・・・何、書いてるの?」

政宗「昨日の大名の領地に奥州から米を分与する、手配書だ」

「お米?」

政宗「あのクソ大名、案の定、領地の米をほとんど軍備に溶かしちまってたらしい。飢饉(ききん)でもないのに領民は餓死寸前。大名が聞いて呆れる」

「そっか、政宗が、新しい領主になったんだもんね・・・・・・」

政宗「ああ、一度俺の領地に入れたら、食うには困らせねえと決めている」

昨晩の好戦的なものとは違い、どこかあたたかい表情で政宗が語る。
(・・・・・・すごいな。そんなこと、考えてるんだ。でも、それもそうか。大きな領地の、一番偉い人なんだもんね・・・・)

尊敬しながら見つめていると、窓から吹いた風が政宗の前髪を揺らした。

(・・・・・・前から思ってたけど、政宗ってすごく・・・・・・綺麗な顔してる。そういえば右目、どうして眼帯してるんだろう)
何気ない疑問が浮かんだ時、政宗が筆をことりと文机に置いた。

政宗「で、お前、よく平然と顔出せたな?」

「えっ?」

政宗は私へ顔を向けると、にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。

政宗「まさか、馬上で熟睡とはな。図太さだけは戦国武将顔負けだ。俺の腕の中がそんなに心地よかったか?」

「なっ・・・・・・!」

(寝ちゃったのは悪かったけど、別に政宗だったからってわけじゃ・・・っ)
顔を赤くする私を見て、ますます政宗が笑みを深める。

政宗「図星か?」

「そ、そうじゃなくて。昨日は、徹夜だったし、もう危険がないと思ったから、安心しちゃったの」

政宗「ふーん?あんなに無防備に安心されるってことは、俺もまだまだだな?」

(あっ・・・)
覗き込むように屈み、政宗が私の顎をつかむ。
いまだからかわれているような視線に、また頬が熱くなった。

「・・・・・・っ、私、今日は、お礼しに来たんだけど」

政宗「礼?」

さり気なく政宗の手を外して、私は深く頭を下げた。

「昨日は・・・・・・命を助けてくれて、本当にありがとうございました。それから、部屋まで運んでくれたことも・・・・・・ありがとう。お礼にできることがあったら、何でもします。それを聞きたくて、今日は訪ねたの」

政宗「別に、わざわざ礼をされるほどのことでもない。礼なら、昨日のお前の阿呆みたいな寝顔で充分だ」

「寝顔・・・・・・?」

政宗「なかなか面白かったぞ。頬をつつくとうなって、まるで子犬だ」

からかうように笑われて、恥ずかしさに頬がほてる。

「・・・っ、そんなこと、覚えてないよ」

政宗「ぐーすか寝てたんだから、覚えてないに決まってんだろ」

「お、覚えてないのに、お礼が済んだことになんてできないっ」

政宗「そんなに言うなら付き合ってやってもいいが・・・・・・お前に、俺を満足させられるかねえ・・・・・・できる自信があるんなら、礼とやら、受けてやってもいいが」

(できる、自信・・・・・・?)
わざとらしく挑発するような言葉に、今朝考えた事が、一瞬頭をよぎる。


-------

(そもそもこの時代で、私が一人前にできることなんて、あるのかな?)

-------


「・・・・・・望むところだよ。必ず、政宗を満足させてみせる」

政宗「・・・・・・言ったな?」

「っ、わ・・・!」

政宗はすっと立つと、そのまま私の身体を横抱きにする。
急に感じた浮遊感に、慌てて政宗を見上げた。

「何するの・・・っ?」

政宗「俺を満足させられるんだろ?ふさわしい場所へ連れてってやる。逃げたらどうなるか・・・・・・わかってるよな?」

上機嫌で部屋を出て行く政宗に、今更ながら顔がさあっと青ざめていく。
(とんでもないこと言っちゃったかも・・・・・・!)

----------

(一体どこに向かってるんだろう・・・・・・)
安土の城下町を抜けて政宗が向かったのは、ひと気のない森だった。ビクビクしながら、少し前を行く政宗を見つめる。

「・・・・・・ねえ、政宗。前に誰かが、危ないから城の外に出ない方がいいって、言ってた気がするんだけど・・・」

政宗「誰と一緒に歩いてると思ってんだ。俺がついてるんだから、危ないことなんてひとつもねえよ」

「・・・・・・そうですか」

(確かに、政宗は強いんだろうけど)
自信たっぷりに返され、反論の隙もない。

政宗「お前、俺を満足させるなんて言っておいて、もう怖気づいたのか?」

「・・・・・・少し」

政宗「へえ。お前の感謝の気持ちは、そんなもんか」

「違う・・・っ、感謝してるよ!」

政宗「口ではなんとでも言えるな」

(あ・・・)
ふいに政宗が足を止め、こちらを振り返った。

急に縮まった距離に、ドキッと鼓動が速くなる。

政宗「俺は、態度で示して欲しいんだが」

「・・・・・・っ⁉︎」

低く艷を帯びた声に、わずかに肩が跳ねる。

1. からかわないで

2. そんなの難しい

3. 態度って?      ♡

「っ、態度・・・・・・って?」

政宗「さあ、どういう態度だと思う」

「し、知らないよ」

楽しげに覗きこむ青い目を見ていられなくて、ふいっと顔をそむける。
(いくら命の恩人でも、ここはやっぱり逃げたほうがいいかも)

政宗「・・・・・・っ、はは」

(・・・・・・え?)

「なに、笑ってるの?」

政宗「お前、必死過ぎだ」

笑いを堪えながら、ぽんぽんと政宗が頭を撫でてくる。

政宗「安心しろ。取って食いやしねえって前にも言っただろ?」

(・・・・・・っ、もう、なんなの)

「そうやって人をからかうの、よくないと思う!」

政宗「本気ならいいんだな。覚えとく」

「違うっ」

言い合いを繰り返し、結局ふたり並んで森のなかを再び歩き始めた。

政宗「・・・・・・お、そろそろだな」

ふと、何かに気がついたように、政宗が足を止めた。
(何がそろそろなんだろう?ここ、木しかない場所だけど・・・)

男性「政宗様!またいらしたんですか!」

「っ、わ!」

突然、うっそうと茂る草木の間から、武士らしき男性が姿を現した。
(誰っ⁉︎)

とっさに、政宗の後ろに隠れる。

政宗「おう、見張りご苦労。ゆう、そう怯えるな、俺の部下だ」

政宗の家臣「ゆう姫様もご一緒でしたか。驚かせてすいません」

「あ、いえ!こんにちは・・・」

説明されほっとして、私も家臣の方に挨拶する。

政宗「皆も変わりないか?」

政宗の家臣「そんなこと言って、つい二日前見に来たじゃないっすか」

政宗「なんだよ、来ちゃまずいか」

政宗の家臣「こう頻繁に見張りに来られたら、居眠りできないっすからね」

(なんだか、主従っていうより・・・・・・仲のいい先輩後輩みたい)
政宗と家臣の男性は、談笑しながら更に森の奥へと向かう。茂みの中へと進むと、数名の男性がそこで野営をしているようだった。

政宗の家臣「おい皆、政宗様とゆう姫様がいらしたぞ」

政宗の家臣2「政宗様!また来てくださったんですか?」

政宗「おう、お前らが居眠りしてないか見張りも兼ねてな。ゆう、こいつらは敵の斥候(せっこう)が来てないか、偵察する部隊だ。襲われた時、一番先に敵とやりあって食い止める役割も担っている」

「そうなんだ。すごいな・・・」

(敵が来ないか見張りながら野宿なんて・・・・・・過酷な任務だな。今朝も少し考えたけど、やっぱり戦国時代って、厳しい世界なんだ)
また、朝のもやもやした気分が蘇りそうで、ぎゅっと手に力が入る。

政宗「それよりお前ら、上杉、武田に動きがあるかもしれん、用心しろよ」

政宗の家臣「承知しました。というかそんなこと、書状一通で充分ですよ、政宗様」

政宗「へえ。新しい兵糧(ひょうろう)を考案したんだが、それも要らないのか?」

政宗の家臣「えっ!? 要ります!」

(ひょうろう・・・・・・?)

聞き慣れない言葉に、少し首を傾げる。

政宗「ありがたく拝領しろよ」

家臣たち「ありがとうございます!」

政宗が懐から包みを出すと、家臣たちは嬉しそうにそれを受け取る。

「政宗、兵糧ってなに?」

政宗「ああ、戦のための食料だ。お前の時代じゃどうか知らないが、戦場で長持ちする美味しい食料ってのは難しい。」

「そっか・・・、確かに。政宗が、皆に作ってあげたの?」

政宗「まあな。こんな過酷な任務、楽しみがないと士気もあがらないだろ」

「ふうん・・・・・・」

(友達みたいに接してるのに・・・・・・ちゃんと上に立つ人として、皆のこと見てるんだ)
さっき御殿で見た姿といい、今の姿といい、感心してしまう。

(さっきはからかわれて、むっとしちゃったけど・・・・・・)

「・・・・・・またちょっと、見直したな」

政宗「ほー?見直したってことは、俺を見くびってたってことか?」

「う、ううん、そういう意味じゃ・・・・・・なくもないけど」

政宗「聞き捨てならねえな」

「わっ」

政宗が腕を伸ばしてきて、慌ててそれを避ける。
なんとか捕まえられずに済むと、政宗は意地悪い笑みを浮かべた。

政宗「・・・・・・いい度胸だ。捕まったら覚悟しろよ」

「か、覚悟ってなんの?」

政宗「この俺が直々に懲らしめてやる」

「えっ、ちょっと、待って」

政宗「待たない」

楽しそうにじりじりと距離を詰める政宗に、後ずさる。右に逃げても左に逃げても、絶対に捕まる気しかしない。
(どうしよう・・・・・・っ)

政宗の家臣「あっ、ゆう姫様、そっちは危な----」

「え?あっ------」

制止の声がした瞬間、ぬかるみに足を取られ、身体のバランスが傾いた。
(嘘、ここ、崖だったの・・・・・・⁉︎)

背後に広がる急斜面に、反射的に何かを掴もうと手を伸ばす。

政宗「ゆう!」

(っ、・・・・・・!)

政宗が手を伸ばし、とっさそれを掴んだけれど、遅かった。
(お、落ちる・・・・・・っ!)




「へえ。お前の感謝の気持ちは、そんなもんか」
なんか言いそう、言いそう〜 

「俺は、態度で示して欲しいんだが」
これも言いそう、言いそう〜


「さあ、どういう態度だと思う」
ああ、言いそう、言いそう 

政宗のこういうからかい気味の口調楽しいよね〜❣️