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(・・・・・・お世話になります、って意気込んだはいいものの。大変なことになっちゃったな)
信長様に世話役を任じられた後、広間ではすぐに宴が開かれた。豪勢な食事は次々と運ばれて来たけれど、正直楽しむどころじゃなかった。


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信長「良いだろう。では貴様に、織田軍の世話役の務めも与えてやる。よく仕え、俺の役に立て、ゆう」

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(織田信長率いる武将たちの世話役、なんて・・・・・っ」・現実味がなさすぎるよ)
呆然としている内に宴も終わり、おもむろに光秀さんが立ち上がる。

光秀「俺はそろそろお暇します」

家康「・・・・・・信長様、俺も失礼します」

(私は、どうすればいいんだろう?さっそくお仕事があるのかな?)

秀吉「何をきょろきょろしてるんだ、ゆう」

「あっ、秀吉さん・・・・・・その、世話役のお仕事のことって、どなたに聞いたらいいんでしょうか?」

秀吉「早速信長様のお役に立とうとするのはいい心がけだが・・・・・・まずはもっと基本的なことを覚えろ。俺が三成と一緒に城内を案内してやる。ついて来い」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします!」

秀吉「少しでも信長様に敵意があるとみなしたら、即刻、捕らえるからな」

「はっ、はい」

(信用されてないなあ・・・・・・これから頑張らなきゃ。ん・・・・・・?)
ふと、誰かの強い視線を感じて、私はそちらへ顔を向けた。

政宗「・・・・・・」

(政宗さん・・・?何か、睨まれてるような・・・・・・)

三成「参りましょう、ゆうさま」

「あっ、うん、今行く」

じっとこちらを見据える視線を気にしつつ、私は広間を後にした。

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ゆう達が襖の向こうに消えるのを見届けると、政宗は静かに口を開いた。

政宗「・・・・・・信長様、明日以降のゆうの任務、何を頼むつもりなんです」

信長「さあな。ゆうが騒がなければ、何をさせる必要もない」

政宗「間違いなく騒ぎますよ。特にないなら、俺にいい案が」

信長「・・・・・・あまり度が過ぎたことはするなよ」

政宗は肯定も否定もせずに、ただ肩をすくめた。

政宗「ちなみに、信長様はあいつがどこから来たか、ご存知で?」

信長「ああ。五百年後だ、などと突拍子もないことを言っていたな」

政宗「へえ・・・・・・五百年後ねえ。ますます面白い」

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「広い・・・・・・意味がわからない」

夜も更けた頃、私はようやく自室へと戻ると、疲労でそのまま座り込んでしまった。
(秀吉さんたちに何十と部屋を案内してもらったけど、把握するまでかなり時間がかかりそう・・・・・・知れば知るほど、戦国時代に来たんだって実感が湧いてくる。やっていけるのかな、私・・・)

視線を巡らせると、部屋の隅にぽつんと置かれた自分の鞄が目に留まる。

「やっとデザイナーになれるって思ったのが、ずっと昔見たい・・・」

クリップで留めたデザイン画集を引っ張り出し
、燭台のそばで開いた、その時だった。

???「入るぞ、ゆう」

「えっ?」


襖が突然開き、目の前に立っていたのは------政宗さんだった。

「政宗さん?突然、どうし・・・・・・っ⁉︎」

しゅん、と耳慣れない音が聞こえた瞬間、尋ねようとした言葉が、呼吸と共に喉の奥に引っ込んだ。

(か・・・・・・、刀が・・・・・・)
一瞬のうちに、刀の切っ先が私の喉元につきつけられていた。

政宗「お前に、聞きたいことがある」

蝋燭(ろうそく)の炎に、好戦的な政宗さんの瞳がギラリと光る。
(なにこれ、どういう状況なの・・・⁉︎)

1. 大人しくする

2. 何するんですか      ♡

3. やめてください

「な、何するんですか、突然・・・っ!」

政宗「何って、見ればわかるだろ?」

「・・・・・・っ」

(わ・・・・・・わかりますけど・・・・・・っ)
じり、と距離を詰められて、身体が震えあがる。

政宗「お前、五百年後の日ノ本から来たらしいが・・・・・・本当か?」

「はい、そうですけど・・・・・・?」

政宗「・・・・・・」

震える声で答えると、政宗さんは数秒、探るように私を見つめたあと、その唇に、冴え冴えとした三日月のような笑みを浮かべた。

政宗「そうか。歓迎するぞ、ゆう」

「え・・・・・・?」

政宗「しばらくは、俺も退屈しなくて済みそうだ」

政宗さんは尊大に告げると、あっさりと刀を鞘に納めてくれた。
(・・・・・・・・・・・・えっ?何で?助かったの?)

「・・・・・・あの、どうして私は刀をを向けられたんでしょうか?」

政宗「ん?ああ、お前が五百年後から来たってのが本当かどうか、確認したかったんでな。出会い頭に刀をつきつけられて、嘘がつける人間は中々いないだろ?」

(そんな理由だったの・・・・・・⁉︎)

あ然として、怒る気力もそがれてしまう。
(なんて・・・・・・とんでもない人なの)

政宗「俺のことは、政宗でいい。五百年後の話、今度ゆっくり聞かせろよ」

返事も出来ずに呆然としていると、政宗さんが私の手元に視線を落とした。

政宗「・・・・・・ん?それ、何だ?」

(それ・・・・・・?あ、このデザイン画集のこと?)
「これは、デザイン画・・・・・・ええと、着物を作るための絵、です」

政宗「絵?お前が描いたのか」

「はい・・・・・・そうですけど」

政宗「貸してみろ」

手渡すと、政宗さんは険しい表情でパラパラとページをめくっていく。

(また刀つきつけられたらどうしよう・・・・・・)
先ほど感じた恐怖が蘇ってきて、嫌な汗が額ににじむ。はらはらしながら、政宗さんを見つめていると・・・

政宗「すごいな、お前」

「・・・・・・えっ?」

(すごい、って言った?今)

政宗「どれも妙な形だが、味がある。色使いも斬新で面白い。どんな職人に考えさせても、こんな意匠は出てきた試しがない」

「あ、ありがとうございます」

(褒め・・・・・・られた?)
喜んでいる様子の政宗さんを、信じられない気持ちで見つめる。

政宗「・・・・・・気に入った。ゆう、こいつ、もらってくぞ」

政宗さんは画集の一枚をピっと抜き取ると、有無をいわさぬ笑みを浮かべた。

「えっ?持って行っちゃうんですか?」

政宗「いいだろ、減るもんじゃないし」

(いやいや、減ってます・・・・・・っ)

政宗「それじゃ、邪魔したな。ゆっくり休めよ」

突っ込む暇も与えずに、政宗さんは部屋を去ってしまった。
(なん・・・・・・だったの、本当に。刀で脅したかと思えば、笑顔でデザイン褒めてくれるし・・・・・・一枚、持って行かれちゃったし。伊達政宗って、あんな・・・・・・とんでもない人だったんだ)

こちらの都合など歯牙にもかけない政宗さんの行動に、唖然とする。
(でも・・・・・・)


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政宗「すごいな、お前・・・・・・気に入った。ゆう、こいつはもらっていくぞ」

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政宗さんの言葉を思い出して、無意識に頬が緩む。

「・・・・・・褒めてもらえて、ちょっと、嬉しかったな」

(我ながら、単純だけど・・・・・・)
戦国時代に来て初めて、自分を認めてもらえた嬉しさで、少しだけ、不安が薄れたような気がした。

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翌朝、朝食を済ませてすぐに、私は信長様の元を訪れた。
(今日から、正式に信長様に仕える身だ。何を命じられるかわからないけど、頑張ろう)

「信長様、おはようございます。お仕事をいただきに参りました!」

信長「・・・・・・案の定、か。政宗の言うとおりだったようだな」

「はい?」

信長「貴様は、本当にじっとしていられん性分らしい」

(案の定って、どういうことだろう?)

信長様は不可解そうに私を見つめた後、面白そうに口端を上げた。

信長「いいだろう。貴様に任務をやる」

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(------・・・どういうことだろう)
安土城を出てから数時間後。私は首を捻りつつ、光秀さんの御殿の廊下を歩いていた。
信長様に頼まれたのは、織田軍の面々の御殿を回ることだった。

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信長「秀吉達には、城下のそれぞれの御殿(ごてん)にしばらく滞在させる。不備がないか確認して来い」

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(そう言われて、それなら私もできそう、って思ったところまではよかったんだけど・・・・・・)


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最初に向かったのは秀吉さんの御殿だった。

「遅れて到着する部隊の宿場の用意が急務、と・・・・・・よし。それじゃ、失礼しますね」

秀吉「待て、ゆう」

申し付けをメモして退出しようと腰を浮かせた時、秀吉さんに呼び止められた。

秀吉「三成、さっきのあれ、こいつに渡してやってくれ」

( ”さっきのあれ” ・・・・・・?)

三成「はい。ゆう様、こちらをどうぞ。政宗様が先ほど、ゆう様が来たらお出しするようにと」

差し出された漆器には、黄緑色の餡がかかったお餅が載っていた。

「政宗さんが?なんで、秀吉さんのところに」

秀吉「俺が知るか。今朝方顔を出して、それだけ置いて行った」

(差し入れ・・・?よくわからないけど、頂いてもいいんだよね・・・?)
少し戸惑いつつも、お団子を口に運んでみる。

「っ、・・・・・・美味しい」

優しい甘みがじんわりと広がっていって、思わず口元がほころんだ。

秀吉「良かったな。政宗のことだから、毒でも入ってるかと思ったが」

「っ、毒⁉︎ そう思ってたのに出したんですか・・・っ?」

秀吉「まあおかげで、お前が不用心極まりないことがわかった。そんな間抜けな人間が、信長様の寝首をかけるはずもないな」

「心配しなくてもそんなことしませんよ・・・・・・」

三成「ですがゆう様、毒味もなしにものを口にすることが危険なのは確かです。見知らぬ人から食べ物をもらった時は、気をつけてくださいね」

「うん。ありがとう三成くん」


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(それから、家康さんの御殿でも・・・・・)


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家康「・・・・・・本当に来たの?物好きだね」

「物好き?何の話、・・・・・・っ⁉︎」

訪ねるなり、家康さんは、木刀を私に向けてきた。

家康「あんたが、俺と勝負したがってる、って聞いたんだけど」

「勝負⁉︎ いえ、全然・・・っ。どうしてそう思ったんですか?」

家康「・・・・・・?今朝、政宗さんからそう聞いた。本当なら叩きのめしてやろうと思ったんだけど・・・・・・違うの?」

(また政宗さん⁉︎ しかもなんて嘘ついてるの・・・・・・!?)


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「私、政宗さんに何か言ったっけ?」

不可解な政宗さんの行動に戸惑いを隠せない。

(・・・・・・あ、ここが光秀さんの部屋だったかな)
頭を切り替え、姿勢を正して部屋の襖に手を掛ける。

「光秀さん、失礼しま・・・わぁっ⁉︎」

襖を開けた途端、目の前に子どもくらいの影が飛び出した。
(今度は、何・・・・・・っ⁉︎)

よろめくのを堪え、胸元に飛び込んできたそれをなんとか受け止める。ふかふかした毛並みの中から、まんまるの目がこちらを見つめていた。

???「みゃー!」

「・・・・・・・・・・・・猫?」

(・・・じゃない気がする。サイズ的に)

光秀「どこの童(わっぱ)かと思ったら、お前か」

「あっ、光秀さん。この子、もしかしなくても、猫じゃない・・・・・・ですよね?」

光秀「ああ、政宗のところの子虎だ」

「え、虎・・・っ⁉︎」

光秀「そろそろゆうが来る頃だからと、俺の部屋にこいつを仕掛けていったんだ」

「また、政宗さん?」

光秀「また、とは?」

「いえ、こっちの話です」

(いくら子供とは言え、虎をこんな風に放し飼いにするなんて危険だよ・・・・・・これはさすがに、注意した方がいいよね)

「そういえば光秀さん、安土の生活で、困ってることってありますか?皆さんにそれを伺うよう、信長様から言われて」

光秀「特にはないな。俺は領地が近いから、何かと融通が効く」

「わかりました。そのように伝えておきますね」

(あとは政宗さんだけだし、早くことの事情を聞きに行こう・・・っ)
少し急ぎ足で、光秀さんとの話を切り上げる。

「では、失礼します・・・!」

かけ出した背中に、光秀さんのどこか愉快そうな声が聞こえた。

光秀「・・・・・・これはまた、面白いことになりそうだな」

「もうちょっとだから、じっとしててね」

子虎「みゃー!」

腕の中でじゃれつく子虎に悪戦苦闘しながら、私は政宗さんの御殿を訪れた。

「失礼します。信長様の遣いで参りました、ゆうです」

玄関に立って声をかけると、男性が現れてうやうやしく頭を下げられる。

武士「ゆう姫様、御館様がお待ちかねです。どうぞこちらへ」

「はい、ありがとうございま・・・、え?」

案内され足を踏み入れると、廊下の左右に、ずらりと武士たちが列を成していた。
一歩進むごとに左右の武士たちが律儀に頭を垂れ、気まずさが押し寄せる。
(この、大げさな歓迎も、間違いなく、政宗さんの仕業だよね・・・・・・今朝からずっと、ドッキリ仕掛けられてるみたい)

なんとか奥の部屋までたどり着くと、目の前の襖がゆっくりと開かれる。

政宗「よく来たな、ゆう」

不敵な笑みを唇に浮かべた政宗さんが、そこに悠然と座していた。

政宗「へえ、照月(しょうげつ)がなついたか。滅多に人に抱かれるのを許さないのに、珍しいこともあるもんだ」

(この子、照月って言うんだ・・・って、そうじゃなくて)

「なついたか、じゃないですよ!」

政宗「は?」

「小さいとはいえ、虎を放すなんて危ないです。子供が噛まれたりして、怪我でもしたらどうするんですか?」

座っている政宗さんに詰め寄って、その膝に照月を降ろす。

政宗「・・・・・・・・・」

政宗さんは呆気にとられたように目を丸くして、黙り込んでしまった。

(・・・あ、いけない、言い過ぎたかも)
昨晩、喉元に刀をつきつけられたことを思い出して、急に焦りを覚える。

「あの・・・・・・だから、ちゃんと捕まえておいてくださいね・・・・・・っ」

慌てて身体を引こうとする私の手首を、政宗さんが掴んだ。

政宗「・・・ほーお、そうか」

(っ、まずい、怒らせた・・・?)

政宗さんは、息を詰めて身を硬くする私をじいっと見下ろして・・・ふっと愉快そうに微笑んだ。

政宗「面白い。ますますお前に興味がわいた」

「はっ?」

政宗「まさかこの俺が、開口一番で叱られるとはな。いい度胸してるな、お前」

「・・・っ、あ」

捕まえられた手首を、ぐいっと強く引かれる。政宗さんの方へ倒れ込みそうになるのを、片手を畳について耐える。怖々と顔を上げると、予想以上に至近距離で、政宗さんと視線が絡んだ。ギラリと見下ろす眼光に、どくんと心臓が音を立てる。

政宗「お前の言うとおり・・・・・・捕まえておいてやるよ、ゆう」




最初から、政宗個性出てるね〜 

政宗「いいだろ、減るもんじゃないし」

(いやいや、減ってます・・・・・・っ)

↑このやり取り笑いました