悪性メラノーマが引き起こす腫瘍随伴網膜症のメカニズム
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]日医会誌
2011年9月1日発行 第140巻・第6号
悪性メラノーマが引き起こす
腫瘍随伴網膜症のメカニズム
眼の結膜や脈絡膜に悪性メラノーマができる
ことはよく知られているが，皮膚や他臓器の悪
性メラノーマが原因で夜盲や視力障害を引き起
こす，いわゆる腫瘍随伴網膜症があることはあ
まり知られていない．原因は，悪性メラノーマ
に 伴 い 産 生 さ れる 自 己 抗 体 が，網 膜 の 2 次
ニューロンである双極細胞を誤認することによ
り，網膜機能障害が生じるためである．患者は
急激な夜盲を主訴にすることが多いが，眼底所
見に異常を認めないため診断が難しく，網膜電
図にて特徴的な陰性型の波形を記録することが
診断のポイントとなる．今までこの疾患では，
網膜双極細胞に対する自己抗体の存在は知られ
ていたが，抗原までは特定されていなかった．
最近，米国とわれわれのグループがこれらの
患者の血清中に，TRPM1（transient receptor
potential cation channel，subfamily M，member 1）という双極細胞に特異的に発現している
カルシウムチャンネルに対する自己抗体がある
ことを報告した．TRPM1 はメラノサイトに存
在する蛋白として初めて同定されていたが，そ
の機能は不明であった．最近になって，TRPM1
が網膜双極細胞に局在するカルシウムチャンネ
ルであり，双極細胞の興奮に重要な役割を果た
していることが分かってきた．
また，この TRPM1 の遺伝子異常は先天性の
夜盲症を引き起こすことも報告されている．
TRPM1 という蛋白からメラノサイトと双極細
胞がつながり，悪性メラノーマと夜盲の関係が
証明された．今後さらなる腫瘍随伴網膜症の研
究が進むことが待たれる．
［Kondo M, Sanuki R, Ueno S, et al : Identification of autoantibodies against TRPM1 in patients with paraneoplastic retinopathy associated with ON bipolar cell dysfunction. PLoS One
2011 ; 6（5）: e19911. Epub 2011 May 17］
（寺崎浩子）
１２８０ 日医雑誌 第１４０巻・第 ６ 号/平成２３（２０１１）年 ９
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