入院最後の夜

看護師さんに
いつものことを聞かれる

「お痛みないですか」

看護師さんとは、ほとんど一期一会
「本日担当します」と挨拶されて
毎日昼と夜で変わる

「ないです
不思議なくらい痛くないんです
もっとこう...
すごく痛いのを想像してたんですけど
術後、痛み止めも全く必要ないくらい」

私もいつもこう応える

「それはね
普通ですよ
普通
筋肉切ってる訳じゃないんだから
痛くないの、普通です」

普通、

普通か

普通なのか

普通

普通

普通



看護師さんの職業的知識と経験から
そう言われたのは理解してる

気分を害したわけじゃない
そんなんじゃない

入院前の説明で
別の看護師さんに言われた

「身体から出っ張ってる所切るだけですもん」

と、たぶん同じようなニュアンス


なのに、
あれからずっと「普通」が頭からはなれない



家族や友人たちが言うように
私は元気なふりをしているんだろうか
実はナーバスなんだろうか

普通

もっとやさしく
ただただやさしく
「よかったですね」とでも言われたかったのか

普通

至れり尽くせり甘やかされ過ぎて
わがままになったんだろうか

普通

やさしさに慣れすぎて
傲慢になってしまったんだろうか

普通

ふたつあったものを
ひとつ切除した自分は
特別になったとでも勘違いしているんだろうか

普通

どんなにリハビリを頑張っても
元通りにはなれない

普通

普通ではなくなった自分を
「普通」という言葉で否定された

そんなふうに受け取った捻くれ者なんだろうか


普通

普通

普通



いったい何だろう
この気持ち

面倒くさい人に
なってしまったんだろうか

いったいどうしたというんだろう


普通がぐるぐるぐるぐるまわってる