桜の木の下で君と出会った。
桜の花がようやく咲き始めた頃。
君は眼鏡を外しながら、私にふんわりと笑いかけた。
その目がすごくやさしくて、その瞬間、私は恋に落ちた。
それから、桜の木の下で君と初めて手をつないだ。
緑が青々としていた頃。
でも2人ともあまりにも幼くて、
手をつなぐだけでせいいっぱいだった。
そして、桜の木の下で星降る夜に君と初めてのキスをした。
静かなやさしいキスをした。なんどもなんども。
それからも2人で桜の木の下を歩いた。
短かった私の髪がすっかり肩をおおうまで。
これからもずっとずっと、
そうやって2人で桜の下を歩けると思ってた。
そうなるものだと信じて疑わなかった。
君が私のとなりからいなくなるなんて、考えてもみなかった。
いま、私はひとりで同じ桜を見上げてる。
桜の花びらが舞い散るたびに、私の目から涙があふれ出す。
出会ってからの事を思い出しては、ひとつ また ひとつ。
君が私にくれた言葉を思い出しては、ひとつ また ひとつ。
君の名前を心の中で呼ぶたびに、ひとつ また ひとつ。
そうして涙が出なくなるまで、ずっと桜を見上げてた。
すっかりからっぽになった私は、桜の木の下にしゃがみこんで、
目を閉じると、最後の花びらと一緒に静かに呼吸を止めた。
次の春が来たら、私はきれいな桜の花をたくさん咲かせるよ。
そして、誰かの涙のかわりにたくさんの花びらを空に飛ばそう。
風に乗せてはるか遠くまで。
次の春も、その次の春も、そのまた次の春も。
春が来るたびに。
その人が笑顔になれるまで。