『夜行』を初めて読んだときに、この作品は『百物語』にどことなく似ているように感じた。それは物語が京都で学生生活を過ごした6人の仲間が1人ずつ語り部となり、背筋がぞくっとするような怖い話を語っていくという構成になっているからであると思う。しかし、『夜行』はただ怖いだけではなく、物語が10年前に英会話スクールに通っていた仲間で「鞍馬の火祭り」を見に行った際に行方不明になった長谷川という人物と岸田道生という画家の『夜行』という銅版画作品を軸に話が進んでいくという、一見怖いだけのような作品に思えるが、実はもっと深い視点で書かれているという作品の持つ奥深さのようなものに私は強く惹かれた。私もよくテレビのニュースやポスター等で人が突然行方不明になったという話を聞く。私はそのような話を聞いたとき何とも言えない不安感に襲われる。その人は一体どこへ行ってしまったのか、数年経った後もその人はまだどこかで生きているのではないか、そのどこかとはどこなのかと考える。まさに『夜行』は私のそのような気持ちを反映させているように思える作品であった。私が『夜行』のなかで特に印象に残っているのは、第3夜「津軽」での、寝台列車の個室の窓から燃えている一軒家を見つける場面である。『夜行』を読んでいると物語の情景がリアルに映し出されるのだが、特にこの燃えている一軒家は非常に鮮明に頭の中に映し出され、とても怖かった。また、その燃えている一軒家を見た後、次第に何かに憑かれたようにおかしくなっていく「児島」という人物の描写は気味が悪く、さらに不安感を植え付けられた。『夜行』はいくつもの話が短編集のようになっているのだが、全ての話が謎を残したまま進んでいくため、さらに不安な気持ちが高まっていく。最終的に、10年前に「鞍馬の火祭り」にて失踪していたはずの長谷川という人物は失踪しておらず、実は物語の最初の語り手であった大橋と言う人物が10年前に失踪していたという事実が明らかになり、衝撃を受けた。またその事実を理解した瞬間、今まで断片的に見えていた物語像がよりはっきり見えるようになった。謎は謎のまま進んでいくが、その疑問を吹き飛ばすほどの底知れない怖さと切なさを感じられる魅力的な作品であった。