秋のお彼岸を迎えると
思い出す出来事があります。
20年間、家族として共に過ごした
白猫のキャロが
最期の挨拶に来てくれた日の出来事。
キャロちゃんが
わたしたち家族の一員になったのは
今から30年ほど前、私がまだ高校生の頃。
野良猫だったキャロは、
夜の路上で必死に泣いていたそう。
母が友人の車に乗って出掛けていた時の事
信号待ちで停車していたところ
運転していた友人が突然、
「猫の鳴き声がする!」
と車を飛び出していった。
運転免許を持っていない母は
信号が変わっても発信しない車に
一人取り残され、
発進を促す後続車からのクラクションに
ただオロオロするばかりだったという。
やがて友人が戻ってくると、
その腕の中には小さな小さな白猫が。
その体に似合わぬ大きな鳴き声で懸命に鳴いていたそうだ。
こうして、キャロはその日から我が家の一員となった。よちよち歩きで鳴きながらすり寄って来る彼女の姿に、私はメロメロになってしまった。
それから20年後、キャロは老衰で虹の橋を渡って行ったのですが…
彼女が旅立った日のこと。
その日の夜、私は夜中にふっと目を覚ました。
無意識に枕元の携帯電話に手を伸ばすと
ちょうど午前2時を表示していた。
その瞬間、携帯電話がピリリと鳴り出す。
一瞬アラームかと思ったが、着信だった。
ーーー母だ。
その瞬間、わたしは直感で悟った。
(ああ、キャロちゃん、逝ったんだ…)
老衰で、キャロはどんどん衰弱していた。
実家に帰るたび、日に日に骨と皮だけになっていく彼女を見るのは本当に辛かった。
お別れはそう遠くない…
いつどうなってもおかしくないと、
家族ともども覚悟はしていたのだが。
電話の向こうで、母が号泣していた。
「キャロが、キャロちゃんが、今旅立ったよ。」
最期は、母の腕の中で息を引き取ったそうだ。
私は懸命に涙をこらえ、努めて冷静に
「わかった、頑張ったね。
朝になったら実家に帰るから、お母さんも少しは寝てね。」
それだけ言って、電話を切った。
放心状態で布団に横たわると、
それまで抑えていた涙が一斉に溢れてきた。
(最期に、一目会いたかった…
今まで家族を守ってくれてありがとうね…)
そう思いを馳せていると、
突然小窓から風が吹き抜けてきた。
あれ?私、窓を開けたまま寝たっけ?
虫が入ってくるのが嫌だから、
夜は必ず窓を閉めて寝てるのに…
そうこうしてるうちに風がどんどん強くなる。
しかも、何故かとてつもなく冷たい。
クーラーの冷風のようなレベルではなく、
身体の芯が凍てつくような、そんな冷たさ。
(台風の予報なんて無かったよね…)
窓枠に下げていた風鈴が吹き飛びそうな勢いだったので、窓を閉めるため体を起こそうとしたその瞬間、
(ーーーあ!)
身体が、動かない。
金縛りだ。
私は学生の頃から金縛りにあうことが多かった。
身体の疲労が原因のときもあれば、
説明のできないような出来事もあったり…
だから、今回もいつものことと思い
金縛りが解けるまでじっと目をつむっていようとぎゅっと目を閉じた、その時。
左足の小指に、何かが触れた。
虫かと思い一瞬怯んだが、違う。
(柔らかい…)
その時、私の脳裏にある記憶が蘇る。
実家にいるころ、私とキャロは
毎晩同じ布団で一緒に眠っていた。
私が先に布団に入っていると、
キャロは足元から布団に潜り込み、
必ず私の足指に耳のあたりをこすりつけてくる。
その少しくすぐったいような心地いい感触。
まさに、それだったのだ。
ーーーキャロちゃんだ!
そう思った矢先、今度は
お腹の上に置いていた、私の手の下をくぐるように這い上がってきた。ちょうど掌の中にキャロの頭がすっぽりと収まるような、そんな状態だったと思う。
(ああ、来てくれたんだね、ありがとう…)
たまらなくなって彼女の頭を撫でようとした時…すっと、体が軽くなった。
金縛りが解けたのだ。
……?
横たわったまま、
私は頭の中が整理できずにいた。
ふと小窓を見ると、窓はしっかりと閉まっている。
先ほどの強風も、今は音もない。
虫の音だけが微かに聞こえている。
静まり返る薄暗い部屋の中で、私は声を上げて泣いた。
来てくれたのね、最期のお別れに。
向こうの世界に行く前に…
側に、居てやれなくてごめんなさい
また会おうね、ありがとう…
とめどなく涙が溢れ、私は夜明けまで泣き続けていた。
この不思議な出来事から8年が経ちますが
未だに鮮明な記憶として残っています。
夢だと言われれば、そうだったのかもしれません。
だけど、彼女の健気で純粋な、
直接私の魂に寄り添うような愛情
それは、確かに感じとることができました。
今も、きっと私たちを見守ってくれているんだろう。
キャロと出会えて良かった。
虹の向こうで、また彼女に会えたらいいな。
