<青墓の化け椿のお話> 

 村の貧しい若者の太吾作の家に、ある晩、美しい娘の雪が訪ねてきて共に暮らすようになりました。二人は仲睦まじく幸せに過ごしましたが、一年後、雪は自分が村の大椿の精であると明かして姿を消しました。翌年、太吾作が椿の花の下で名を呼ぶと、雪は一度だけ現れて礼を述べましたが、それきり会うことはありませんでした。その後も村では娘の姿を見たという噂が立ち、人々はその椿を「化け椿」と呼ぶようになりました。


青墓の化け椿






↑藤露 撮影




↑藤露 撮影(今は大椿の姿は無く、小さな椿の木のみがあります)


<青墓の化け椿の話から>


青墓の化け椿の話は、ただの昔話ではなく日本の文化や人々の自然観がよく表れた深い伝承に思います。物語の形式としては「異類婚姻譚(いるいこんいんたん)」と呼ばれるもので、人と人ならざる存在(ここでは椿の精である娘の雪)が太吾作と結ばれ、一時は幸せに暮らしながらも、正体が明かされると別れが訪れるという典型的な流れになっています。こうした話は「鶴の恩返し」や「羽衣伝説」にも見られ、日本の昔話にとても多いタイプです。椿は常緑樹で生命力の強い樹木ですが、花が丸ごと落ちるため死や不吉の象徴ともされてきました。その二面性が、物語の中で「美しいけれど儚い女性」として姿をとったのだと考えられます。また、この伝承が語られる場所は昼飯大塚古墳に関わる地域(町名も「青墓町」)であり、古墳は、生きている者と死者の境目とされる特別な場所でした。そこに生えた椿が、人と異界をつなぐ境界の木として信仰され、やがては、村の人々の暮らしと結びついて伝説になったのでしょうか。この話は、人と自然が近しく交流するという日本の文化的特徴をよく示し、また「一時の出会いが美しいからこそ大切に記憶される」という日本人の美意識とも重なっています(一期一会)。今では石碑や看板で残され、地域の歴史やアイデンティティを支える存在にもなっています。つまり「化け椿」の物語は、異類婚姻譚の一例であると同時に、自然信仰、祖霊信仰、村の記憶がひとつに重なって生き続けている日本らしい民話なのだと思います。