「おはよー」

「おはようございます、エミさん元気ね~」

「月曜日だもんっ、週のはじめは元気にいかなきゃっ」

ウヨンと話しながらカウンターに入る

「なにかありましたか?」

「ん?なんで?」

「いや…」

空元気に見えたんだろうか

「なにもないよ?」

「それならいいです…」

「気になることがあるなら言ってよ~」

「えっと…エミさん…服が…」

「え?服?」

よくみると後ろ前のセーター

カァー

「うわぁ~恥ずかし~」

「エミさんも、そういうのありますね」

「そりゃ、人間だもん、慌ててた訳じゃないんだけどな~」

そういいながら服を反転させる

「ウヨナいなかったら山下様に言われてたなぁ…」

「ボクがなにか?」

あたしが入ってきたまま開けっぱなしだったドアのところには山下様が立っていた

「あれ?あたし、ドア開けてました?」

「はい、開いてましたよ、空気の入れ換えでもしてたんじゃないんですか?」

「テンチョーあつかったの~?」

あたしの奇行の連続にウヨンはクスクス笑っている

「あーもうっどうしちゃったんだろ~」

あたしが思いを声に出すとウヨンは大きな声で笑いだした

「他にもなにか…あったんですか?」

「ウヨンおしえてー」

「あぁ~エミさん洋服が…」

「ウヨナ!言わなくていいからっコーヒーとジュース用意してっ」

笑いながら話すウヨンを止めるとウヨンは笑いながら「はーい」と言ってカウンターに入った

「もー、忘れてくださいね~今、準備しますからっ」

厨房にはいって気持ちを落ち着ける
いる間は愛してあげると誓ったけど、いなくなっても大丈夫なようにという想いは本物なのに…
どうかしてるよ…

朝食メニューを作って店内に戻ると美優ちゃんから一言が

「テンチョー、せなかがおなか、ナイショね~」

「ちょっ…ウヨナ~!」

「店長、ホントに、大丈夫ですか?」

山下様まで含み笑いをしている

「も~口が軽いんだからっ」

口を大きく開けて、ぶりっこをしておどけるウヨンに呆れながら

「ニックンとかジュノなら言われなかったのに…」と呟くと

「ニックンさんは言わないけど、ジュノはメンバーには言いますよ~」と反論された

でも、山下様が食いついたのはウヨンの発した中の一言だった

「メンバー?」

確かに、メンバーというのは、グループがあるからできる言葉だ

「ほら、他のバイトメンバーですよっ」

隠し続けるのも、結構ストレスだ
「帰られたんじゃなかったんですか?」

「いやぁ…家の鍵忘れちゃって…」

「ずっと待ってたンですか?」

「え?あぁ、うん」

テギョンに「ずっと」と言われて時計を見る

「あぁ、一時間くらいたってたんだね」

「なにか暖かいものしますよっ」

そういってカウンターに駆け込んでいく

「大丈夫だよ、すぐ帰るから」

テギョンの後を追ってカウンターに鍵を探しに入る

「櫻井さん、6人のことお願いしますね」

「え?もう帰るんですか?」

カウンター越しに田中さんと会話をする

「明日の朝一の便で帰るので、今日はホテルに泊まります」

「はぁ…そうですか…」

オーナーが田中さんに話しかける

「櫻井さん」

「はいっ」

「できるだけ早く6人を迎えに来ますので、申し訳ないですが、もう少し、この子たちをよろしくお願いしますだそうです」

できるだけ…早く…

そう、6人だって、それを望んでるはず

「わかりました…」

ステージをつくったって、いつか6人は帰ってしまうんだ
わかっていたつもりだけど、やっぱり寂しい

テギョンに戸締まりを頼んで、鍵を持って店を出る

歩きながら、改めて、自分は一人なんだと心に刻む

浩太と別れて、彼らがいることになれればなれるほど、忘れてしまいそうで

この間テギョンが寝坊したときに生まれた「一人の時はこうだったんだ」という思い

きっと彼らがいなくなっても、変わらず一人で店をやっていくだけなんだろう

元に戻る

ただそれだけのこと

あまり、みんなに頼らない方がいいのかもしれない

帰ってしまった後の寂しさを考えるなら、依存しなければ、大丈夫なはず

帰っちゃったら、また大変になるのかな…

元々、アルバイトを雇う事を考えてなかった訳じゃない

でも、時給をそんなに出せないから、ぜんぜん決まらないだろう

「あの子たちでうまくいったら、違うグループ貸してくれないかな…」

今回2PMがこうしてあたしの元にやって来た経緯も忘れて、浮かぶ甘い考え

「そもそも、いつまでか明確にしてほしかったな…」

そうすれば、バイトを雇うことも
彼らと離れる準備もできるのに

考え事をしてるうちに家に着いた

「考えたってしょうがないっ、シャワーして寝ようっ」

いつまで彼らがいるかわからないけど、うちの店にいる間
本当の弟のように愛してあげよう

それが、あたしが彼らにしてあげられる事だから
閉店時間が近づき、チャンソンもニックンも片付けをはじめる

オーナーと田中さんはまだ奥の席で話している

「どうでしたか?2人の仕事ぶり」

オーナーに聞いてみる

片付けをしている2人は耳を傾けて手をゆっくり動かしている

「エミさん」

「はい?」

「ありがとうごじゃいます」

「え?」

一言だけ日本語で話したオーナーは韓国語で続けた

田中さんはオーナーの言葉を笑いながら聞いている

片付けをしている2人はうつむいた

「この2人は成長したように見えるそうです、ただ、まだまだ接客がなってないそうです」

それで2人がうつむいたのか

「アイドルも、結局は接客みたいなものだから、うちに預けたんですよね?」

最近わかってきたなぜうちに預けたのか

アイドルだなんて知らなければ、本当に不思議だっただろうけど、日本で活動する以上、日本の接客をどこまで模倣できるかが重要になってくる

「ただ、歌う、踊るじゃなく、ファンじゃない人にも愛してもらうには、やはり日本語による丁寧な受け答えは必須ですからね」

「チャンソニ、クンヤ」

オーナーは2人を呼ぶとチャンソンは何かを言われて二階に上がっていき、みんなを連れて降りてきた

なにが始まるんだろう

「櫻井さん、もうお帰りになって結構ですよ」

「え?いいんですか?」

「閉店は彼らでもできるんですよね?」

「はい、大丈夫です」

「多分、6人とも、見られたくないと思うので…」

「え?」

なに?体罰?ってそんなわけないか…

「では、すいませんが、失礼します」

カウンターに入りバッグを持つ

店を出てポケットに手を入れる
ふと気付く

「家の鍵、忘れたかも…」

バッグをあさってみても、案の定…

「ない…」

入りづらい…

あたしに見られたくない状況なのよね…

ドアの隙間から中を覗く

真剣な表情でオーナーの話を聞く6人が見えた

「うわぁ…説教っぽいな…」

とはいえ、鍵がなきゃ家に帰れない

っていうか、韓国語でしょ?なに言ってるかわかんないじゃんっ

ただ…

言葉はわからなくても、雰囲気ってのはわかるんだよなぁ…

どうしようか店の前に座っていると背後で音がした

カランカラン

振り返るとそこにはテギョンが立っていた

「エミさん?」

「あぁ、話、終わった?」

テギョンの肩ごしに中を見ると、驚いた表情のオーナーと田中さんがいた