ふらふらと歩きだすその足取りに、確かなものはなく。

好奇心がひかれるままのように、右へ行ったり左へ行ったり。

決して定まることなく、風に吹かれたら飛ばされてしまいそうなほどに儚く。



曖昧な線引で、歩き出した所で彷徨いが生じているだけだった。


「今、ここ、どこ?」


いつでもその時点で立ち止まっていて。

いつでも、その場所で立ち止まっていて。


定まらない自分の足元に辟易している。

けれど、それをかつては良いとして。

それがかつては、全てだと信じて。


何かにつかまりたくても、捕まる何かを残さなかったのが大きな原因で。


ふらふらと歩いている。

自分の目指す所がどこであるのかを知らないまま。


ただ、ふらりふらりと歩くだけ。

その先に何があるのか。

何を目指すのかがわからないまま、ただ、ふらりふらりと。

【貴方もそうなの?】
頭の中に浮かんできた言葉はコレだった。
まさか…そんなことはないと、頭を振ってひたすらその言葉を振るって落とそうとする。
されどこの言葉は落ちてくれない。
頭の中にこびりついていた。

嫌だ。

そう思う。まさか此処まで来てまた繰り返しなのか。
そう思うと心が痛かった。
痛かったのは心だけじゃない。頭も、身体もこの、私を形成している全てのものが、
痛い。と悲鳴を上げた。

5年前、かなり年上の人と付き合ってた。
年なんて関係なく、その人が好きだった。
考え方も、声も、あの人であるのなら、何だって好きだった。
だけど、同時に怖かった。
殆ど考えもせずに、後先も無くさらりと言ってしまえるその相手の言葉が。
五年前、あの時の彼は何で言ったのだろう。
何で、あんな言葉を言ったのだろう。

今となってはそれを確かめる術は無いのだけれど…

あれから、5年の月日が経った。
当時のこと、もう昔だと。
思い出さなくちゃいけないほど昔になってしまったことなのに。

好きだといってくれたときには凄く嬉しくて、
私は、恥ずかしくて好きだとは言えずに…でも、特別だといったのに。
伝わってなかったことに愕然とした。

5年前、相手が言った言葉と重なる。
<嫌いになれよ>
<好意を寄せるな>

おんなじことの繰り返し。それが、凄く心が痛い。
此処で泣き出してしまったら、再び歩き出せるのかどうかすら危うい。
今の私では、歩き出すまでに時間がかかってしまいそうで。
でも、それほどまでに悠長な時間は残されていないから。
心に蓋をして今は、聞かなかったことにするしかない。
本当に心が壊れてしまうそのときまで、相手が何度同じことを言おうと、
それが、本当に望んでいることだと深く知る日まで、私は心に嘘をつく。

【まだ、大丈夫。私は強いんだから】
今も見続けている。
ずっと前のこと。

建前を剥いだ人間が、どんなに醜くなるのかを。
私は知っている。いや、見たことがある。


心についた傷は消えない。
身体ついた傷は消えるけれど、
傷を受けたことを心は覚えている。
たとえ傷は癒えたとしても、傷を受けたことを覚えているのなら、
それは、傷となって残り、そして、トラウマとなる。

精神的外傷。通称トラウマ。
コレが心に強く根付いている限り、私はコレに囚われる。


始まりは唐突にやってくる
  何も望んではいないのに。
意思を無視して始められる

いつも、始まりを意識した頃には巻き込まれている。


抜け出せないほど、深く――


静まり返った夜に、電話の呼び出し音が鳴り響く。
今は懐かしいダイヤル式の黒電話が、ずっとなり続けている。

少女は電話を見つめるものの取りに行こうという気配すら見せなかった。
ただ、部屋の隅で床に座ったまま。

フローリングの床に座って、両脚を抱え込み、身体と膝の間に顔を埋めた。
いつもは朱と翠の結い紐で結んでいた髪を下ろして。
ゆるいウェーブのかかった髪が広がっていく。
まるで、身体を包み込むように。電話の音から、彼女を守るように。


部屋は暗い。
雨戸を閉めた上でカーテンを閉めて明かりを点けなければそこは真っ暗な闇。
そこにあるのは膝を抱えた少女と鳴り続ける電話。

静寂を壊す音は鳴り止まない。

もはや、意地の張り合いになっていた。

彼女と、電話との