【今日の仕事コーデ】
ピアスがポイント。
バレエカンパニーによってバレエレッスンもいろいろですが、
ここのカンパニーではゲストティーチャー制度を取っていて、
1週間ごと、長くて2週間のスパンでゲストティーチャーが代わります。
ダンサーは新鮮な気持でレッスンに挑めるけれど、
バレエピアニスト、特に新米ピアニストさんだったらさぞかし大変だろうなぁと思います。
13年目の私でさえ、どうか親切な人が来ますようにって思うのですから。(優しいとか怖くない…じゃなくて、『親切な人』っていうのが私には重要。)
先週来たゲストティーチャーは私より若いイタリア人女性。
最初に挨拶した時から、「わー♡ 私この人好きー。」
と一瞬で思いましたが、
レッスンが始まってからも「あぁ! 分かる分かる! そうだよねー!」と以心伝心・相思相愛っていうかんじでした。
お互い気も合って、
毎日レッスン終わった時にはどちらからともなくハグしたし、
プライベートの連絡先の交換までしました。
今週はどんな人かなぁと思いながら月曜日にスタジオに入ると、
いかにもキツそうなロシア人女性。
私より年上であることはきっと間違いないのだけれど、
今すぐにでも舞台立てますけどナニか?という現役バリバリっぽい体型と格好。
あの・・・、
私のダメな部分ではあるんですが、
私は人に初めて会った時に直感で「この人好き」「この人苦手」っていうどちらかにカテゴライズしてしまう癖があるのです。
特に「この人苦手」に分類される人に会った時には私の中にある細胞みたいなのが過剰反応してしまい、
いわゆる『自己防衛機能』が働いてしまうのです。
そしてその私の直感は大体正しくて、
「この人苦手」に入った人は、
その後そこから出ることはほぼないのです。
彼女は私の「この人苦手」カテゴリーに即座に分類されました。
それでも仕事は仕事。
苦手カテゴリーの人ともそれなりにうまく付き合う術は身に着けてはいます。
それも『自己防衛機能』の働きによるもの。
彼女はピアノのすぐ傍でストレッチをしていたので、
「ハロー」と声を掛け「Ayaです。」と握手の手を差し出しました。
彼女は握手をせず不審者を見るような目で、
「あなた新しいピアニストなの?」と言いました。
「そうです。今シーズンから働いています。」
「あっそう・・・。新しいピアニストなのね。」
私はiPadを取り出しながら、
「どんなジャンルの音楽でバレエレッスンをするのが好きですか? クラシック音楽ですか? ポップスですか? 映画音楽ですか?」
と聞くと、
彼女はさらに怪訝な顔をしたかと思うと、
私の質問には答えず、
「私が示すテンポや振付を見てちょうだい。」
と言いました。
ほらね、やっぱり「この人苦手」カテゴリーの人だった。
そりゃそうじゃん、あなたの示すテンポや振付見るのは当たり前じゃん。
こっちはコミュニケーション取ろうとしてるんでしょ。
好きなバレエレッスン音楽のジャンルには答えてくれなかったけど、
大体このような雰囲気の人はクラシック音楽がお好みであることは予想がつく。
しかもバレエ音楽。
やってやろうじゃん。
こうして彼女のレッスンは始まりました。
クールで淡々と、鋭い目つきで彼女は振りの説明をします。
(あぁ、ほんま苦手やなぁ、この人。。。)と思いつつその説明を聞く私。
そして「Thank you!」も「and!」のなんの合図ももらえないまま、
それどころかアイコンタクトを送ってくれることも一切ないままで、
私はドンピシャなクラシック音楽を弾き始めます。
バレエ音楽もこれでもかっちゅーほどに盛り込みました。
白鳥に眠りにジゼルにドンキにロミジュリにシンデレラにバヤデールにパキータにエスメラルダにコッペリアに。
くるみはみんなリハやってるから自粛。
私が弾き終わるたびに、
彼女は冷たい表情のままでピアノの傍にやってきて小さな声で、
「エクセレント!」「ベリービューティホー!」と短く呟いては戻って行きました。
嬉しいけどね、無表情でも褒めてくれるのは。
でもね、
そういうのは
普通、笑顔で大きな声で言うもんだよ。
彼女との初日のレッスンを終えた後、
彼女は無表情で私に聞きました。
「あなた、どこかでバレエピアニストやってたの?」
「はい、前の劇場で13年やってました。」
「あぁ、だからなのね。
じゃあ、そのiPadはなんなの?」
「バレエレッスンで使える曲の楽譜を保存しています。」
「そうだったの…。
あなたがiPadを取り出しながら何の曲でレッスンしたいかとか私に聞くから、
私はてっきりあなたがそのiPadを使ってspotifyとかiTunesからバレエレッスン音楽を選んで流すのかと思ったわ。」
うん、違うよね。
全然違うよね。
iPadには楽譜のような書類の保存機能もあるし、
私は新しいバレエピアニストではあるけど新米バレエピアニストではない。
ここで笑わないならどこで笑う?
誤解してたなら笑おうよ、苦笑いしようよ。
そんなこんなで「この人苦手」カテゴリーの人と一緒にこの1週間仕事をしてきました。
厳しい表情は崩さないけれど、
彼女の要求にはそれなりに応えられているみたいで、
私が彼女に何か言われたり注意されるようなことも特になし。
とにかく今の私が新米ピアニストでなくてよかった…とそれだけは胸を撫で下ろしていました。
じゃなきゃ泣いてるな、私。
ちょこっと私も彼女のことが分かってきたと思っていた今日この金曜日。
モヤモヤあやさんが久々に出ました…。
最後の大きいジャンプで、
完全にテンポの違う男女が一緒に跳んだんです。
男子と女子とでは体の大きさも筋肉の付き方も違うから、
ジャンプが大きくなればなるほど男女でテンポが変わってくるのです。
女の子は早いし、男の子は高く跳べる分遅くなる。
男女が一緒に跳ぶ時も少々の差なら間のテンポを取って弾くこともできるけど、
その時は全くテンポの違う二人だったのです。
間を摂ることも難しく、
私は女の子のほうに合わせることにしました。
するとゲストティーチャーが、
今週一度も聞いたことのない大きな声で、
「スローーーーーーーーー!!」と私に叫んだのです。
いやいやいやいや、
ちょっとどうしろちゅーねん。
ってか、大きい声出るやん、あなた。
その次の組も男女ペア。
おいおい勘弁してよ・・・、と思いながら弾いてると、
またデッカイ声で、
「スローーーーーーーーー!!」と叫んだのです。
なに? 女の子のほうじゃなくて男の子に合わせろってこと?
私はダンサーの動きをちゃんと見てる分、
二人ともが跳びやすいテンポで弾けないことも私には分かっていました。
モヤモヤのまま最後のコーダを弾き、
そして終わったとたん彼女のところにツカツカと歩いていく私。
「テンポの違う男女二人のペアに音楽を合わせるのは難しいです。私はダンサーを見ています。あなたが女子が順番が先とか、男子は後とか、ちゃんと指示してください。」
彼女は気を悪くしたのか、私の剣幕に驚いたのか、
私に挨拶もせずに彼女帰っちゃった。
実は来週のゲストティーチャーも彼女だけど。。。。
まだぷんすかしてる私に、
「Ayaがずっとダンサーを見ながら弾いてくれてることは分かってるよ。ありがとう。きっと彼女は、女の子もたまにはゆっくりのジャンプで負荷を与えたほうがいいと思って、敢えて男にテンポを合わせての『スロー』だったんじゃないかな。」
と1人のダンサー君がフォローしてくれました。
そっか、それならわかる。
ちょっとだけぷんすかも治まる。
その後の監督作品リハでは、
私は音源の音だし担当。
ダンサーの動きを見ながら曲の頭出しをするのは大変だけど、
今日やった初めての通し練習では全て完璧に音出しできました。
最後のシーンが終わった後すぐに、
監督が「みんな! まずAyaに拍手だよ。完璧な音出しのタイミングだ。彼女は作品も音楽も我々のことも全部理解しくてれている。Ayaに拍手!!」
と言ってくれました。
ぷんすかゼロになりました。
さぁ、今夜はガラコンサートのゲネプロ。
バレエシーンの音楽はピアノからオケに引き渡しです。
椅子にふんぞり返って見てきます。
いぇい!