【書評】チーズはどこへ消えた?
今更の一冊ではあるけれど、これまで読んだことがなかったので、自己啓発書の基本書の一つとして読んでみた。
これだけのベストセラーであるから、内容の概略くらいは掴んでおきたいということもあったし、Audio Bookで英語の教材として使うことを想定しているからということもあるのだが。
本書は2つのパートから成っている。
一つは、同窓会で集まった同級生達がお互いに話すパートであり、これが現実の僕らに当たる。
その中で同級生の一人が語る物語が、本論に当たる「チーズはどこへ消えた?」となっていて、語り終えた後に、再度同級生達が、今聞いた物語から得られた気付きなどをお互いに話し合うという構成。
シンプルな自己啓発書を題材にした読書会の様子って、これに近いような形になるのだろうか…などと思ったり。
本論自体は、きわめてシンプルな物語。
登場人物は二匹のネズミと二人の小人のみ。
ネズミは、単純で非効率的な方法で、試行錯誤をしながら、とにかくひたすら迷路の中のチーズを探し回る。
僅かながら、「スニッフ」はよく利く鼻を使ってチーズのある場所をかぎつけようとする一方で、「スカリー」のほうはひたすら突き進むという違いはあったけれど。
小人は、過去の経験から得た教訓と思考による方法で、複雑な頭脳にたより、もっと高度な方法をつくりあげていた。
ただし、強力な人間の信念と感情がものの見方を鈍らせてしまうこともあり、迷路の中で生きるのがいっそう複雑で難しいものになっていた。
※以下、ビジネス小説仕立てになっているとはいえ、ストーリーを楽しむというのとは少し趣の違う本なので、ネタバレ御免で紹介させていただく。
小人である二人は、チーズを見つけた後に、日課が変わってしまった。
紹介文にもあるとおり、「チーズ」とは、私たちが人生で求めるもの、つまり、仕事、家庭、財産、健康、精神的な安定……等々の象徴である。
チーズをみつけるのは簡単ではなかったし、二人にとっては毎日食べるチーズがあるということ以上の意味があった。
チーズをみつけることは、幸せになるのに必要なものを手に入れることだった。彼らなりにチーズに対する考え方があった。
チーズをみつけることは、物質的に豊かになることだという人もいた。健康を享受することだという人もいれば、精神的な充実感を得ることだという人もいた。
ホーにとっては、安心していられることであり、いつか愛する家族をもつことであり、チェダー通りの居心地のいい家に住むことだった。
ヘムにとっては、人の上に立つ有力者になることであり、カマンベール丘の上に邸宅をかまえることだった。(p.28)
苦労の末に一旦手に入れてしまったあと、それがある生活を当然のものとして考えて、行動様式が変わってしまう…。
思い当たる節がないだろうか?
年収が上がると、その年収に合わせて生活水準を上げてしまうということに似ていないだろうか?
もちろん、そのために年収が上がるよう努力を続けているわけだから、生活水準を上げること自体はまったく構わないと思うけれど、そのために苦労していた時代のことを忘れてしまってはいないだろうか?
……ちょっと例えが悪かったかもしれない(汗)
当ブログが対象とするようなビジネスパーソンは、さらに上を狙って貪欲に知的体力を鍛えようとしている人が多いと思うので、今得ている地位や報酬に胡坐を書いて安穏としているような人はいないか。
物語は、ある日、「当然そこにあるもの」と思っていた「チーズ」が突然消えてしまったところから展開する。
単純で非効率な方法しか取れないネズミは、事態をくわしく分析したりすることはしなかった。
彼らにとっては、問題も答えもはっきりしていた。
状況が変わったのだから、自分たちも変わることにして、新しいチーズ探しに出かけた。
二人の小人、複雑な頭脳により高度な方法を取ることのできる、ヘムとホーはどうしたか。
まず最初は、名前の由来でもあるのだけれど、うろうろし(hem and haw)、途方に暮れるばかりだった。
事態をくわしく分析したけれど、結果として何一つ解決するわけでもなく、ただ現状に不満を募らせるばかり。
ここまではネズミと小人との比較。
事態の変化に対応して即座に自分たちの行動を変えたネズミと、事態の分析に明け暮れて何一つ行動に移せていないがために、事態は悪くなるばかりという小人。
僕らの現実の組織・生活の中でも、小人と同じようなことをしてしまっていることがあるのではないか…と振り返ってみると、薄ら寒い気持ちになる。
やがて小人の中でも、二手に分かれる。
事態が変化したことを受けいれ、その変化に自らが対応し変わっていくことを決めたホーと、それができないヘム。
一度手に入れた「チーズ」にしがみつき、その居心地の良さ、成功体験が忘れられず、新しい境地に踏み出すことを恐れる気持ち… 分からないでもないし、多くの組織やビジネスパーソンが実はその罠に陥りがち。
現実世界でも、例えばリーマン・ショック以前と以後では、様々な業界にその影響が及び、特に金融周辺のルールが変わってきている。
企業の資金調達にしたって今までと同じというわけにはいかないし、ビジネスパーソンの働き方や処遇だってそう。
環境や、ルールが変わってしまったのだから、「変わらなければ破滅することになる(p.40)」のだ。
変化を受けいれ、自ら変わることに動き出したホーが書き付けた言葉を最後に書き連ねることで、変化の時代に生きる自分への戒めとしたい。
これらの「教訓」を、ホーはどのような想い、考えで書き付けていったのか、については是非本書に当たっていただきたい。
変化の時代に生きるビジネスパーソンに、自らの行動を振り返る一冊としてお薦め。
個人的には、英語を勉強するために何度もAudio Bookを聴いてもいい話だとも思った。
■ もし恐怖がなかったら何をするだろう?
■ つねにチーズの匂いをかいでみること。そうすれば古くなったのに気がつく
■ 新しい方向に進めば新しいチーズがみつかる
■ 恐怖を乗り越えれば楽な気持ちになる
■ まだ新しいチーズがみつかっていなくても、そのチーズを楽しんでいる自分を想像すれば、それが実現する
■ 古いチーズに早く見切りをつければ、それだけ早く新しいチーズがみつかる
■ チーズがないままでいるより、迷路に出て探したほうが安全だ
■ 従来どおりの考え方をしていては、新しいチーズはみつからない
■ 新しいチーズをみつけることができ、それを楽しむことができるとわかれば人は進路を変える
■ 早い時期に小さな変化に気づけば、やがて訪れる大きな変化にうまく適応できる
【基礎データ】
著者: スペンサー・ジョンソン
訳者: 門田美鈴
出版社: 扶桑社 2000年11月
ページ数: 96頁
紹介文:
この物語に登場するのは――
ネズミのスニッフとスカリー、小人のヘムとホー。
2匹と2人は「迷路」の中に住み、「チーズ」を探します。
「チーズ」とは、私たちが人生で求めるもの、つまり、仕事、家族、財産、健康、精神的な安定……等々の象徴。
「迷路」とは、チーズを追い求める場所、つまり、会社、地域社会、家庭……等々の象徴です。
この一見シンプルな物語には、状況の急激な変化にいかに対応すべきかを説く、深い内容がこめられているのです。