【書評】35歳からのリアル | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

【書評】35歳からのリアル

35歳という年齢を間近に控えた僕にとって、本書のタイトルは直球で刺さってくる。

一般的には、35歳というのは気力の充実した「脂の乗った」年齢と言われることが多い一方で、転職マーケットでは35歳を越えると極端に求人が減ると言われており、一つの転換点であることも確かである。


本書では、35歳という時機を人生でもっとも不安定な時期と捉えている。

仕事においてもプライベートにおいても、大きな方向転換を迎えること、大きな決断を迫られることが多い時期であり、つねに動き続けているという意味において不安定であるとしている。

ただし、不安定は自由の裏返しでもあり、だからこそ35歳は人生でもっともおもしろい時期でもあるという。


そんな35歳というときに、今後の人生について、さまざまなデータを用いながら考察していこうというものであるが、データが描き出す未来は、そのままいけば決して明るくない未来になっている……。



特に、本書で描きだされている未来を明るくないものにする要因は、経済的なものに起因する。

たとえば、「家庭」という視点で考えた場合、本書で描き出されているのは次のような未来。


10年後

親が老いるという問題が出てきます。

70歳くらいになると、人並みに働いたり、自分だけの力でなにかをすることがむずかしくなり、自意識的にも社会意識的にも老人らしい老人になるということ。10年後のみなさんは、彼ら老人の世話をするという責任を果たす立場になります。

10年以内には、自分達夫婦のことはふたりでやるという自己責任のレベルから、夫婦以外の人を世話する余力を持つというレベルに達していなければならないということです。


25年後

親世代は80歳を越え、いよいよ介護が現実的な問題となります。

親に収入がなく、資産もなければ、介護にかかる経済的な負担がまるまる60歳のみなさん夫婦にのしかかってきます。金額的な負担は、在宅介護の場合で、月平均4~5万円。介護施設を利用する場合は食費などを含めて月平均10~20万円くらいです。

一方には、やがて確実にやってくる自分と妻の老後問題があります。それはつまり、老後の生活費を温存しておくだけでなく、病気をした際の治療費や、老人ホームに入る場合の入居費などを準備しておく必要性に迫られるということです。

(以上、p.61~p.64より抜粋して引用)


35歳ともなれば、こうしたことを考えるきっかけは、日常生活の中にも様々な場面で顔を出す。

上記の引用も、当該箇所だけで見れば、かなり一般的で当たり前のことであり、何を今更という内容ではあるけれど、これを「今後年齢と共に年収が増えていくということはない」という前提の中で考えなければいけないとなると、暗い気持ちになる人が多いのではないだろうか。

この「年収」というポイントについては、本書では折に触れてシミュレートも行い、様々に論じているので、是非直接ご覧頂きたい。



「家庭」という視点で言えば、僕は長男なので、まさに上記のような問題にいずれ直面する場面がくるわけだけれど、どうしても現時点で具体的に考えることからは逃げてしまう。

親元を離れて15年以上経ち、今も離れてそれぞれが持ち家で、基盤となる地域から動こうという意思をあまり持たずに暮らしていたりすると、現実感を持って考えにくいということもあるだろう。

また、そもそも僕の家系は長生きの家系なのか、生きている祖母は90目前でも元気だし、離れているということもあるけれど、僕が「介護」というものをリアルに感じたことがないという、人生経験の乏しさも一つの要因だろう。


ただ、やっぱり心では逃げてしまいたいという思いがあることは否定できず、それなのに、本書はこうした「目を背け逃げてしまいたくなる現実」を否応なく突きつけ考えさせる。

僕と同じように逃げてしまいがちな人は、本書と向き合うのが辛いと思う箇所もあるかもしれない(笑)



しかし、多くの統計データを用いて非常に説得力があるように見える一方で、統計データを使っているが故に、個人的には「リアル」を感じられないという面もある。


たとえば統計データを用いるということは、平均的な35歳像をベースにしてシミュレートしていくわけだが、先に挙げた例でも、「俺は三男だから家継がないし…」という人にとっては、(長男や次男に不幸があれば別だが)現実問題として捉えることはできないかもしれない。

また、30代で世帯年収が547万円という統計データも、地域差なども当然あるし、個人的には現実感のない数字だったりする。


したがって、本書の読み方としては、一般的な統計データから語られる未来というものを知りつつも、それを自らの身に引き直して考えることが重要である。

共通しているのは、楽観的すぎる未来予測の上に立ってはいられないということである。

ただ、今更、そんなことを言われるまで分かっていない人は、当ブログの読者の中にはいないと思われるが。



個人的には「リアル」というほどに「リアル」を感じることはできなかったのだが、考えるきっかけや視点を得られるという意味で有用な一冊。

僕と同じく30代前半の男性サラリーマンには一読をお薦めする。


なお、基本的には男性目線で語られており、「みなさん」と語りかけている対象も男性読者のみであると思われるため、女性で手にとろうと思われる方は、その点に十分留意されたい。



【基礎データ】

著者: 人生戦略会議

出版社: WAVE出版 2009年10月

ページ数: 208頁

紹介文:

ハンパなところで人生終わりにすんな!

上を向いて歩き続けるためにいま、できる「選択」とは!

仕事、家庭、お金、子育て、住まい、健康、老後……。年収ダウンの時代に知っておくべきこと!

なにをあきらめ、捨てるのか。なにをめざし、手に入れるのか。35歳からの人生を選択しなおすために、知っておくべき基本のすべて!


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