裁判所HPのリニューアル
これまで新しい判例を引用してきた裁判所HP がリニューアルされました。
見かけはきれいになったものの,「最近の最高裁判例」のページがなくなり,「最高裁判例集」に一本化されてしまいました。
このため,これまでよりHPへの掲載が遅くなる可能性が高いです。
このブログの読者(といっても,数名程度のようですが)には,今後の更新が遅れることをあらかじめお断りしておきます。
最(2小)判平18.3.17 貸金等請求事件
判決文はこちら 。
債務者の貸金業者に対する貸金の弁済について貸金業法43条1項又は3項の適用を認めた高等裁判所の上告審としての判決が,特別上告審において,法令の違反があるとして職権により破棄された事例である。
実体面における判断枠組自体は,最(2小)判平18.1.13 貸金請求事件 と同一であり,大蔵省令(貸金業法施行規則)に従った記載がある書面について,貸金業法18条所定の記載を欠く以上,同条の書面の要件を満たさず,同法43条のみなし弁済規定の適用は否定されるというものである。この点については何ら新しい判断はない。
本件の特色は,本来憲法問題しか扱わない特別上告審において,法令違反を理由に職権破棄した点にある。民訴法327条2項は,特別上告について,その性質に反しない限り上告の規定を準用する旨規定しており,同法325条2項の職権破棄の規定も準用可能と考えれば,このような処理も許されることになる。かかる処理をした例はきわめて珍しく(最高裁判例集の限りでは見あたらない),一事例として参考に値するものと思われる。
最(2小)決平18.3.14 危険運転致傷,道路交通法違反,傷害被告事件
判決文はこちら 。
本件は,赤色信号を殊更に無視し,対向車線に進出して時速約20㎞の速度で普通乗用自動車を運転して交差点に進入しようとしたため,右方道路から左折進行してきた自動車と衝突事故を起こし,同車運転者らを負傷させた行為が,刑法208条の2第2項後段の危険運転致傷罪に当たるとされた事例である。
被告人は,普通乗用自動車を運転し,信号機のある交差点手前で,赤信号に従い停止していた先行車両の後ろに一旦停止したが,青信号を待たずに,同交差点を右折しようと,対向車線に入り込み,時速約20㎞の速度で交差点に進入しようとした。そのため,折から交差道路に右側から青信号に従い交差点を左折してきた被害者運転の普通貨物自動車と衝突し,被害者及び同乗者を負傷させた。
この事実関係の下で,弁護人は,被告人が自車を対向車線上に進出させたことこそが事故原因であり,赤信号無視と被害者らの傷害との間には因果関係がないと主張した。これに対し,最高裁は,被告人が赤信号を無視して,対向車線に進出して本件交差点に進入しようとしたことが「危険運転行為」にほかならず,これと結果との間の条件関係がある以上,被告人に他の違反があっても因果関係は否定されないと判断した。
この判断自体は,ごく当たり前であって,何の異論もないであろう。被告人の行為しか介在していない以上,因果関係の断絶や中断を検討するまでもない。
むしろ,実務上注目すべきは,状況次第では時速約20kmでも「重大な交通の危険を生じさせる速度」である判断した点であろう。赤信号無視自体,重大な交通の危険を生じさせることが多いことに照らすと,今後は速度の如何を問わず,事実上「赤信号無視=危険運転」とされるのではなかろうか。その意味で本件は実務への影響が少なくない判例と思われる。
最(2小)判平18.3.13 損害賠償請求事件
判決文はこちら 。
本件は,Y(学校法人)の設置するA高校に在籍し,サッカー部に所属していたX1が,サッカー競技大会に同校の課外クラブ活動の一環として参加していた際に落雷を受け,視力障害・両下肢機能の全廃等の傷害を負った事故に関し,同校サッカー部の引率者兼監督には落雷を予見して回避すべき安全配慮義務を怠った過失があるなどとして,X1及びその両親・兄弟ら(X2以下)が,Yに対し,債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を請求した事案である。
原審は,Yに対する請求については,平均的なスポーツ指導者がA高校の第2試合の開始直前ころに落雷事故発生の具体的危険性を認識することが可能であったとはいえないとしてこれを棄却した。
これに対して,最高裁は,課外クラブ活動においては,生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから,担当教諭は,できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り,クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うとの一般論を提示した。その上で,①落雷による死傷事故が全国で毎年5~11件発生し,毎年3~6人が死亡していること,②落雷事故を予防するための注意に関しては,平成8年までに,様々な文献でその注意を喚起する記載がなされていたこと(具体例は判決理由中の第1の2(9)を参照),③A高校の第2試合の開始直前ころには,本件運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていた,との事実を前提に,同校サッカー部の引率者兼監督としては,上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり,また,予見すべき注意義務を怠ったものというべきである,このことは,たとえ平均的なスポーツ指導者において,落雷事故発生の危険性の認識が薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない,と判断したものである。
過失の判断基準として平均的なスポーツ指導者を基準とした原審に対し,最高裁はより高度の注意義務を課したものであるが,この判断自体は特異なものではない(医療過誤に関して,平均的な医師を基準とするのではなく,「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」という,やや高度な基準を用いていることを想起されたい)。ただ,その程度については,一般的にあてはめ可能な基準があるわけではなく,本件は判例に一事例を加えるものといえよう。
(なお,本件では,上記大会の主催者であった財団法人Y2に対しても,その担当者の過失を主張して損害賠償を請求している。この点,原審は,Y2はその加盟団体であり権利能力なき社団であるC連盟が本件大会を実施するに当たり,名目的に本件大会に関与したものにすぎないから,C連盟が本件大会の主催者であり,Y2は本件大会の主催者ではないとの理由で棄却した。最高裁は,この点についても破棄差戻しているが,この部分については論評を省略する。)
最(2小)判平18.3.10 個人情報非訂正決定処分取消請求事件
判決文はこちら
本件は、歯科医の診療を受けたXが、その診療にかかるレセプト(国民健康保険診療報酬明細書)について実際に受けた診療とは異なる記載がされていることを理由として、それを保管する京都市(以下「市」という。)に対して、レセプトの訂正を求めた事案である。
レセプトは、国民健康保険の診療報酬請求書に添付される、診療機関がかかる診療行為をした旨記載する文書であるが、診療機関が診療報酬請求のために作成し、市がその支払の証拠として保管しているにすぎない文書であるから、その支払の証拠としての文書の性格上、市条例による訂正には適さない。また、レセプトは、診療機関が記載された通りの診療を行ったことを直接明らかにする目的で作成・保管しているものではない。このような理由で、訂正請求を棄却したものである。
レセプトが診療行為の証明ではなく、請求書の添付書類に過ぎないとの判断を前提とすれば、この結論は当然であろう。判示は正当である。
なお、滝井補足意見は、レセプトの事実上の機能(診療行為の証明)を重視して、訂正申し出があった場合はその旨注記する運用を提案するが、レセプトにこのような機能を期待するならば、さらに進んでレセプト作成過程に患者を関与させる制度設計まで必要となろう。そこまで進める必要があるのか、筆者としては消極的である。
最(大)判平18.3.1 国民健康保険料賦課処分取消等請求事件
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新聞報道されたのでご存じの方もあろう。本人訴訟で最高裁大法廷の口頭弁論を開かせた事件である。
北海道旭川市の条例では、国民健康保険料の料率が条例に明示されず、その委任を受けた市長の告示で定められている。これが、法律や条例に基づかない課税・徴収を禁止する憲法84条(租税法律主義)に違反するかどうかなどが争われた事案である。
大法廷は、保険料に憲法84条の規定の趣旨は及ぶとしたものの、直接適用は否定し、保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めた上で、市長に対し保険料率を同基準に基づいて決定して告示の方式により公示することを委任したことは、国民健康保険法81条に違反せず、憲法84条の趣旨にも反しないと判断した(ほかにも判示事項があるが省略)。
旭川市国民健康保険条例はこちら (かなり重いので注意)。ここで見られるのは現行条例であるが、8条の3から12条の11にかけて詳細な規定が置かれている。これで一義的に保険料が算定できるならば全く問題はないが、裁量の余地が含まれている。これを、最高裁判決にあるように「基準として算定した額」が不足見込額を盛り込む趣旨であると善解できるのか、疑問が残る。一義的に規定することは難しいとしても、基準の一層の明確化は必要であり、この条例のままでは違憲の疑いが濃いのではないか。
ご挨拶
最近流行のblogをしようと思ったが、日記の公開は恥ずかしいのでこういうネタを選ぶことにしました。
最高裁HPの「最近の主な最高裁判決 」から、面白そうな判決を選んでコメントします。
週末しか更新できないと思いますので、たまに見に来て下さい。
