仏ル・モンド紙が指摘した東京五輪「変異株の祭典」、「鉄の癒着三角形」とは | 渾沌から湧きあがるもの

 

 

 

仏ル・モンド紙が指摘した東京五輪

「変異株の祭典」、「鉄の癒着三角形」とは

 

 

 

 

 

5月10日国会で、共産党の山添拓議員が、オリンピックとコロナ禍に関する質問をした。

 

「アメリカのワシントン・ポスト紙は、コラムで五輪の中止を促しました。フランスのル・モンド紙も、変異株の祭典となり感染を加速させる危険性があると。開催ありきで突き進むのですか」

 

菅首相の答弁は、相変わらず言っても言わなくても同じようなことしか答えていなかったが、気になるのは「変異株の祭典」のほうである。

 

一体、世界的に有名なフランスの「ル・モンド」紙は、何を書いていたのだろうか。

 

 

 

「聖火リレーの沿道の音を消そうとするNHK」

 

該当の記事は、4月下旬に緊急事態宣言が出た際に発表された「ウィルスの脅威にさらされた東京オリンピック」という記事にちがいない。

 

リードでは「日本では金曜日(4月23日)東京、京都、大阪、兵庫の各県で新たに緊急事態宣言を発令した。オリンピックを開催するという公約を守る政府の決意にも、ひびが入っているようだ」とある。

 

記事の前半では、まずはオリンピックに懐疑的になってきた日本の様子が描かれている。

 

最初に引用されているのは、4月下旬の政治家たちの発言の数々だ。

 

山梨県の長崎幸太郎知事の発言(健康状態に極めて大きな深刻な影響を及ぼすような感染状況であれば、オリンピックなんかやっているところではない)や、自民党の二階俊博幹事長が4月15日にテレビ番組で発したセリフ(これ以上無理だということだったら、すぱっとやめないといけない)などである。

 

さらに、東京都の小池百合子知事は、選択肢の一つであってそれ以上ではないと述べ、自民党は大会開催の立場に変わりはないと繰り返したと書いている。

 

ル・モンドは「二階氏の発言は、多数派の中で生まれつつある疑念を反映している」とする。

 

全国で起こっていることとして、「7月23日の開会式に向けて、イベントのスケジュールがどんどん変更されている」、「厳重な予防措置にもかかわらず、聖火リレーの参加者1名が陽性反応が出た」と報告。

 

さらに「熱狂は疑念に変わり、日本の大多数の人々がこのイベントに反対している。政府は反対意見を聞きたくないので、公共放送NHKは、オリンピックに対する抗議の声が響いてくるやいなや、47都道府県をめぐるオリンピックの聖火リレーの背景音(訳注:沿道の人の声)をカットするのが良いと考えるほどである」と書いている。

 

そして、いよいよ問題の箇所である。そのまま引用しよう。

 

 

3月末の緊急事態解除前から新たな伝染の波が始まるまで、日本は平均してパンデミックを封じ込めてきたようで、2020年には死亡率の低下を記録するほどだった。

 

しかし、まだ確定していない防止策にもかかわらず、世界中から8万人近い外国人が列島の複数の場所に集まることは、オリンピックを「変異株の祭典」にしてしまい、感染を加速させる危険性がある。

 

そして、何千人もの医療関係者を大会関係者のために配置する対策が計画されているが、この施策は、医療スタッフが不足している状況では、国民に納得させるのは難しいと予想される。

 

 

 

中国が日本をあざ笑う?

 

さて、なかなか面白いのは、「なぜこうなっているのか」という同紙の分析である。

 

なぜこのような健康上、政治上のリスクを取るのだろうか。

 

「約束を守るために」と政府は主張している。 立派であり、国の誇りの問題も背景にある懸念がある。

それは、オリンピックの開催を断念することは、1940年の東京オリンピック(戦争のため中止)を不愉快にも(残念にも)思い起こさせることであり、中国に対しては面目を失うことになりかねない。

 

中国は2022年初頭に冬季オリンピックを開催し、隣国の失敗をあざ笑わないことはないだろう。

 

 

 

1940年の東京オリンピック中止は、引き合いには出されるだろうが、それほど「不愉快」とか「残念」などと、日本人が考えるとはあまり思えない。逆に「外国ではこういう見方をする人々がいるのか」と、参考になるところである。

 

それより「なるほど」と思わせるのは、中国のほうである。あの国の政治なら、自国の成功を際立たせるために、日本を引き合いに出すことはしそうである。

 

確かに、中国の全体主義体制は、コロナ禍を抑えるに一役買ったのは間違いない。しかし、それを日本と比較しながら世界中に宣伝されるのは、中国の非民主主義体制のプロパガンダに日本が貢献するようで、嫌な気持ちがしないというとウソになる。

 

 

鉄の癒着三角形とは

 

同紙は、菅義偉政権の頑固さは、主に金銭的な利益が問題になっているからだという。

 

「オリンピックの費用は1兆6440億円(154億ドル・128億ユーロ)に跳ね上がった。スポンサーは約4000億円(33億ドル)を投資している」、「強力な広告代理店『電通』は、自民党と密接な関係にあり、大会の独占的な宣伝権を持っており、国際オリンピック委員会(IOC)と契約を結んでいるが、財政難から脱却するための利益を期待している。IOCの収入の73%は、オリンピックの放送権に依存している」と詳細に説明している。

 

さらに加えて、「ところが、様々な特典はなくなるし、(外国人の観客がいないため)チケットの払い戻しや、世界中のチャンネルに販売された驚異的な放映権の払い戻しが加わることになる。中止はIOCにとって、健康被害のリスクよりもコストがかかるだろう」とする。

 

ここで出てくるのが、利害関係者の共謀と癒着「鉄の三角形」である。

 

 

大会維持への執着は、自民党、高級官僚、および経済界が「鉄の三角形」と呼ばれる利害関係の絡み合いが反映されている。これは、日本の世界における発展が印象的だった当時(1960-1990)は、「日本株式会社」と呼ばれていた。

 

 

鉄の癒着三角形とは「日本の体制そのもの」であるようだ。

 

 

上智大学の政治学者である中野晃一氏は、「スポーツ村、医療村、原子力村といった、『村』と呼ばれる強力な団体(ロビー)の利害の一致というシステムが問題なのです」と主張する。

「この構成員たちは、他の権利を認めず、遅鈍(惰性)、無責任にすぐになるのです。大会に集中していた彼らは、パンデミックという現実を直視することができないのです」

この三角形の中で、元上級公務員が大企業の役員になり、その企業の幹部が自民党の看板のもとに政治家になるのである。

 

 

その他にも、このような癒着は、公共の契約の締結における透明性の欠如の一因にもなっており、危機管理の過ちと無関係ではないーーと嘆く、東京大学の政治学者鈴木氏の発言も登場する。「日本の危機管理の欠点は、長期的な対策よりも短期的な対策が優先されていることにあります。問題は構造的なものです」という。

 

 

 

アメリカで奮闘する日本人教授

 

以上、いかがだっただろうか。

 

フランスの「ル・モンド」の考察は鋭いが、やや「パリ・オリンピックは2024年。運の良い人たちは何とでも言える」と、いじけた感想をもたないでもない。

 

ただ彼らは、もし自国の開催が2020年だったとしても、この程度の批判は書くに違いない。

 

問題は、批判を目立って表に出さない、日本のメディアのあり方だと思う。大声で批判「的」なことを言っているとしたら、カネ勘定くらいのものだ。まるで原発だ。

 

実は、上述の中野教授は、2020年にニューヨーク・タイムズ紙に、日本政府の無能を指摘する記事を寄稿しているという。

 

2月26日付で「日本はコロナウイルスに対処できない。五輪が開催できるのか?」と題して寄稿。「日本政府の新型コロナウイルスへの対応は驚くほど無能だ」と指摘。「厚生労働省は、感染が疑われる場合に、公的医療機関に連絡する時期や方法について、2月17日になるまで国民に知らせなかった」などと論じたという

 

これに対し、外務省の大鷹正人外務報道官が、3月に入ってから、同紙に反論を掲載した。「日本政府の新型コロナウイルスとの戦いについての描写はアンフェアだ」と主張。「日本政府は、日本で最初の感染症例が確認された1月15日より前から、国民に注意を呼びかけ、水際対策のための積極的措置を講じた」と述べているという。

 

さらに今年2021年の3月25日付で、中野教授は再び「ニューヨーク・タイムズ」紙に寄稿している。題して「オリンピックは開催させる。でもなぜ?(The Olympics Are On! But Why?)」。

 

これがまた淡々とメッタ切りなのだが、ここでは「鉄の三角形」は、「菅首相は、自民党、総務省、メディア業界という、日本政治の鉄の三角形の中で支配的な人物である」と描写されている。つまり、経済界が、メディア業界に置き換わっているバージョンとなっている。

 

ここで紹介するつもりだったが、長くなりすぎるので、次の稿に「つづく」としたい。

 

 

 

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日本人教授がNYタイムズで糾弾した、菅政権とメディアの癒着。

何が書かれていたか。読者の反応は。

 

 

 

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