『ブブブブブ…ブブブブブ…』仕事から帰ろうとすると机の上の携帯が鳴っていた。
『誰からだ?あと5分もすれば会社を出るのに…。なんてタイミングが悪いんだ。』なんて事を考えながら携帯の画面を覗くと、そこには『自宅』と表示されていた。
私が仕事中であることを知っている家族からの電話だ。
そのなんとなく感じた違和感が妙に『自宅』という文字を無機質で冷淡なものに見せた。
そして部屋を出る数秒の間に、なぜかその時私はこれから起こりうる事をまずは受け止める覚悟をした。

『はい…どうしたの?』
『お姉ちゃん、大変!お母さんが倒れちゃった。もう救急車に乗ってるの!意識がないの!泡も吹いているの!もう駄目、お母さん死んじゃう!嫌だ…お願い死なないで!』
普段私より冷静沈着な3つ下の妹が取り乱している。
その瞬間心臓をナイフで刺されたような衝撃とともに、今母を目の前にしているであろう妹を案じた。私は『落ちついて、大丈夫だから…絶対に大丈夫だから。すぐに帰るから、いつでも連絡して。』と伝えると急いで会社をあとにした。
決めたはずの覚悟であったが、想像以上の状況に気付けば私の手は震えが止まらなかった。
『お願い、神様!私の寿命を削ってもいいからお母さんを連れていかないで!』帰りの電車で心底願った。

病院では13時間の手術になると告げられ、そのまま待合室で朝まで過ごした。
13時間と言われた手術は15時間以上かかり、終始生きた心地がしなかったが、まずは手術を耐え抜いたことにほっとしたのも束の間、直後に執刀医の先生に呼ばれた。