「悪者扱いされる帝政」 スターウォーズ エピソードⅢ シスの復讐 に想う。
記念すべき一筆目はスターウォーズエピソード3です。
公開当初に劇場で観た時に記したものです。
SWエピソード3はスターウォーズシリーズ待望の完結編である。
一番の見所は主人公アナキンがなぜダークサイドに堕ちたのか。
なぜ正義のジェダイ、アナキンが悪の権化ダースベイダーになったのか。
これだろう。
映画の観客みんながオチを知っているだけに
それに至るまでの演出、ストーリー運びが腕の見せ所だ。
とはいえ、話の軸である共和国と反共和国との政治闘争、
アミダラとの恋の顛末、親友オビ=ワンとの別離など
エピソード1,2を受けての展開とアミダラの出産、
共和国から帝国への移行など旧3部作へ橋渡しとなる物語があり
やはりシリーズを観て予備知識を持っていたほうがより理解しやすい。
SWの作品世界は非常に緻密である。
他シリーズを受けての思わせぶりな発言、複雑な背景世界、
ファンを喜ばせる遊びがふんだんにあり
リピーターがつく理由もよくわかる。
宇宙規模の政治闘争や戦争という壮大な世界観の中で人間の精神世界を
エグるというガンダム、エヴァンゲリオンなどに見られるオタクのハートを
射止める要素を持っている。
アニメじゃないだけオタク要素を持つ人間がもっと炙り出されるのでは
ないだろうか。
実際に、うるさく語られてホントウザイ・・
という女性の被害報告が数多く寄せられている。
根本的にSWはシリーズのファンに向けて作っている作品なので、
興味のない人、ファンでない人には、たぶん全くわからないだろう。
よく言えば観客に媚びていない映画なのだが、
こんなに強気で興行収入があれだけあるのだから
ファンの裾野の広さを感じさせる。
SWという作品は最も単純、明快な善悪二言論を用いている。
すなわちライトサイドのジェダイとダークサイドのシスである。
ジェダイもシスも「フォース」と呼ばれる力で闘う(ドラゴンボールでは
「気」、聖闘士聖矢では「コスモ」)のだが
その力の使用目的を異にする。
ジェダイは集団で行動し内部規律を厳格にして、その力は
ジェダイマスターが許した場合にのみ使用し、政治とは一線を画する
という信念を持つ。ジェダイのちょっと薄汚い布をかぶっている
服装を見ても清廉な宗教者というイメージを沸かせる。
対してシスは
良心に屈せず自身の欲望を貫徹する精神的な解放、
あからさまな権力欲、防御よりも攻撃的な性向という特徴を持つ。
つまるところジェダイはフォースを人のため正義のために使い、
シスは自分の欲望を満たすため、他人を屈服させるために使う。
この善と悪の対立こそがSWの軸だ。
そして善から悪へ転化する主人公の悲劇が描かれる。
そして一度シス側に取り込まれると
ジャンプの漫画を思わせるほど、とことん悪い奴に描写するあたりが
ハリウッドらしくてとても良い。
SW世界の
共和政下の銀河というのは
各星の代表者が集まり、その中からさらに元老院議員を選出し
議会を運営している。
共和国に軍隊はなく
警察権を掌握しているのはジェダイ評議会という
ジェダイの集団である。
実は共和国の元老院の議長というのが
アナキンをダークサイドに引きずり込んだ
まさしく悪の親玉、シスマスターのパルパティーンであるわけだが
このパルパティーンの政治手腕が素晴らしく
共和国の中で巧みに立ち回り最終的にジェダイ評議会を
共和国の敵に仕立て上げてしまう。
後期SW3部作での
パルパティーン最大の目的とは
ジェダイ評議会を潰すこと、これに尽きる。
ジェダイは評議会を通して常に集団で組織されているため
いかにシスマスターといえども安々と倒せる相手ではない。
だから政治的手法でジワジワと締め上げていった。
しかし一旦潰してしまえば、シスの力の前ではもう誰も逆らえない。
そしてジェダイを全員抹殺した後に
帝政を敷くことになる。
主人公アナキンがダースベイダーに堕ちてから
続編である旧3部作は共和政から帝政へ移行している。
(時間のある方はエピソード2を見てもらえばわかるが
帝政へと移行する布石と思われるアナキンの言動が
いたるところに散りばめられている)
ここで疑問がないでもない。
あえて帝政にする必要があったのだろうかということだ。
圧倒的武力を背景として問答無用に周囲を黙らせているわけだから
帝政だろうと共和制だろうとどのような形でも関係がない。
帝政を維持するのは実際の政治では相当難しい。
何でも我がままし放題と思われがちだが
勿論そんなことはない。
一身に責任を負うわけだから一度失政をやったら
すぐに引きずり下ろされる。
何かと暴政をやっているイメージだが
例えばヒトラーのユダヤ人迫害にしても
彼一人とナチスがやったと思われがちだが
ユダヤ人以外の白人の支持があったからこそできたもので
ヒトラーの理念ではあったろうが彼一人の責任とは必ずしも言えない。
SW旧シリーズの帝政ではそんな支持もへったくれもない。
シスの暗黒面のパワーとそれに洗脳された
クローン兵の圧倒的武力で周囲を威圧しているだけだ。
ならばなおさら帝政だろうが共和制だろうがジェダイのいない
宇宙では関係はない。
むしろ
共和制を維持して骨抜きの議会にしておいたほうが
体裁上も、反乱防止のためにもメリットが多い。
あえて共和制を帝政にする必要はどこにもない。
では何のためにしたのか。
それは
善=民主主義
悪=帝国主義
という思い込みではなかろうか。脚本を書く人間はもちろん
観る側も大前提としている。
シスというとてつもなく悪い奴は必ず帝国を作る、という思い込みが
作り手にも観客にも確実にある。
普通に考えればわかるが
善人が民主政治をして、悪人が帝政に走るというのはおかしくはないか。
悪人が民主政治に参加することだってあるし、
善人が帝政を敷くことだってある。
そもそも善悪などでもない。
帝政や民主主義というのは政治の一形態にすぎないからだ。
パックスロマーナと呼ばれるローマの平和を築いたカエサルは
独裁者だったし、
世界史上、奇跡的な300年の長期平和を作り上げた徳川幕府だって
徳川大帝国だ。
加えて言えばファシズムという独裁は民主主義という土壌からしか
発生しない。
政治史では常識だそうだが。
ナポレオンもヒトラーもスターリンも国民の熱烈な支持で、
合法的に独裁者になっている。
帝政という政治形態が常に悪人と共にあるというのは
捻じ曲げられた偏見だと思う。
ルネサンス期の人間がゴシック期を暗黒の時代と揶揄したように
明治政府が江戸時代の封建制を全否定したように
戦後アメリカ文化が日本文化をぶっ壊したように
民主主義が帝政の悪のイメージを作り上げている。
了
