フロンティアスピリッツとは。

『開拓』というコトバに理想とロマンを感じてしまうのは、人類にデフォルトとして組み込まれたDNAの性ゆえか、はたまた変態的一定層の単なる妄想に過ぎないのか。

現実的には、「山を買って開拓してます」と紹介すれば、知り合いを含めてたいていのヒトは曖昧な笑みを浮かべて「いいですねー」「すごいですねー」「あこがれるなー」などと差し障りのない反応を示す。

先般のコロナ禍の影響により、レジャーとしてすっかり定着した感のあるキャンプやグランピングなどのアウトドアアクティビティにしても、都会暮らしを抜け出して束の間大自然と触れ合うから新鮮で楽しいのであって、それが日常、ましてや日々開拓作業に明け暮れるとなると、やはりこれはかなり特異な人物の奇行と映っても致し方ないことである。

しかしながら、当主の場合、決して『開拓』そのものがしたかったわけでなく、『移住』という目的を達するために必然的に『開拓』せざるを得なかっただけで、実のところ、造成済みの土地があればそれに越したことはなかったし、さらには建物付きの物件を漁った時期もあったのだが、これらはいずれも超高額だったり、予算内であってもロケーション的に好みでなかったりと、自分が思い描く物件にはなかなか巡り合えないものだと実感したものだ。

過日の記事でも述べたように、入植した土地は近隣の農家さんの畑だったもので、とある事情から20年以上前に放棄され、地目も原野山林に変更されていた。夏場に訪れた際は、ヒトの背丈を優に超える雑草に阻まれ、断固として進入を拒絶する圧倒的なオーラを放っていた。

かつて開墾され、作物がたわわに実った畑であっても、いざヒトの手が入らなくなると、たった20年ほどでうっそうとした山林に還ってしまうのだ。

…というわけで、知識も経験もゼロからの開拓スタートとあいなったわけだが、結論からいえば、本業の休業日のみの通いの作業を経て、およそ14ヶ月で約3ha（１万坪）の土地の2/3ほどを制圧することができた。

もちろん現在も作業は続いているが、制圧済みのエリアについては定期的な草刈りや剪定といった庭仕事の延長みたいなものだ。やはり、いちどはヒトの手が入った土地だけあって、当初こそ凶暴ではあったが、いったん受け入れられた後は意外なほどの素直さに救われた。

ここ北海道の歴史は、開拓の歴史である。

もっとも、現世、多くの人々が暮らす全国の都会だってかつては未開の原野や山林だったわけで、太古よりヒトは生きてゆくために自然と闘い、開拓に精を出してきたのだ。

やはり、いまの自分が開拓に挑んでいるのは、先達のDNAが呼び醒まされるがゆえなのか…。

…まあ、当主に限って、そんな崇高なフロンティアスピリッツを内包するはずもあるまいが。

開拓の実際 その１

開拓の実際　その１