何度も何度も言ってきたかもしれないけど、
自分は中1の時に吹奏楽部に入って、(楽器・パートは違う)一つ上の先輩を好きになった。
中学に入って、当時は部活動への加入が必須だった為、
吹奏楽部に入った。
入った理由は、もともとピアノを習っており、自分の知識を活かせるのではないかと思った。
極めて単純な理由だった。
しかし、吹奏楽部は、弱小部活のくせに上下関係が厳しく派閥争いが激しかった。
たかが30人程度の部員しかいない分際でこのザマかと冷笑的に見ていた。
正直言うと、入部したばかりの頃、同級生とは仲が悪く、先輩からかわいがってはもらえなかった。
当時、かなり憂鬱だったし、女性社会の嫌な面をよく知った。
そんなこんなで夏が始まろうとしていた頃、近所の海に一人で遊びに行ったら、
一つ上の女子の先輩がいた。
まさかその後、人生を変えられるとは思いもせず、形だけのあいさつを行った。
すると、「少し話そう」と言われ、テトラポッドの上で一対一で話をした。
「部活が面白くないんじゃない。人生が面白くない」
先輩が本音を吐露した。
全くの同感だった。
そこから会話が弾み、好きな音楽の話で盛り上がった。
自分の目に狂いが無ければ、先輩は確かに美女だったと思う。
そして、理知的だった。
その日以降、先輩と毎日のように話す間柄となっていた。
ただ、彼女も自分と違うベクトルで変わった性格だった為、友人が多いわけではなかった。
しかし、あの先輩が一目置くとはと皆が自分を見る目が変わり、部内で段々と人間関係を築き始めた。
ある日、友人に尋ねられた。
「みんな噂してるぞ。お前はあの先輩のことが好きなのか?」
その質問には答えることはなかった。
しかし、心の中の回答はイエスだった。
だが、同時に先輩が自分のことを恋愛対象として見ていないことも悟っていた。
そんなある時、三年生が引退して部長選が起こった。
派閥争いが激化していた中で、その先輩が立候補すると決めた。
最初に相談したのは他ならぬ自分だった。
勿論、応援することにした。
しかし、もし負けてしまえばお互いに冷や飯食いになると思った。
結果、覚悟を決めて挑んだ部長選は苛烈であり、先輩は敗退してしまった。
しかし、互いに痛みを補い合うという目的は一致しており、
ますます込み入った話をするようになった。
先輩は部内で、他の中学校との連絡役という役職を経て、
人脈を拡大していった。
その人脈は自分にも受け継がれた。
二年生になった再び夏が来た。
どうせ、金賞を取れないことを承知で出た大会はボロボロだった。
部長と顧問がヒステリックに喚いているのを見て、頭に血が上り、
反省会を途中で退席して家に帰った。
というのは表向きで、クーラーのきいた自室から花火が見れるので、一刻も早く帰りたかっただけである。
家に帰って数分後、来客が来た。
先輩だった。
急いで部屋中のエロ雑誌をタンスに隠して、招き入れた。
花火を二人で見ながら思った。
人を好きになるってのは、互いの瞳を見つめ合うことではない。
互いに同じ気持ちで同じ方向を眺めることだと。
花火が終わり、先輩が帰り際、
「もしかして襲われちゃうかなって思ったけど、大丈夫だったね」
と笑っていた。
笑いごとではないが、そういう気がないとは言い切れなかった。
先輩への恋愛感情は先輩が卒業する頃まで一貫して続いていた。
神でも悪魔でもいい。自分と先輩を付き合わせて突き合わせてくれと毎日のように祈っていた。
自分は先輩のことを恋愛対象としては見ていたが、性欲の対象としては見ていなかった。
お世辞にも胸が大きいとは言えなかった。
でも、それが理由で好きになったわけでもない。
卒業式の日に二人で会った。
「さよなら」
「いや、また会いましょう」
「そうだね。また会いたいね」
その時、今まで貯めていた感情を出すことにした。
「これから毎日でも二人で会いたいですよ」
事実上の告白だった。
どんな返答をするか。
人生で一番長い一秒が過ぎた後、
「私は今から好きな人を見つける。君も頑張って」
フラれた。
愛の対義語は愛を返さないことではなく、愛を受け取らないことであると知った。
それから、先輩と会うことは少なくなった。
たまに街中で見かけても挨拶くらいしかしなかった。
そして、高校の時、町を歩いていると自分とは違って背の高い男子と先輩が仲良く歩いているのを見た。
その時、自分は気付いた。
「ようやく先輩も好きな人を見つけられたんだなって」
何故か喜んでいる自分がいた。
長いこと、話をしていなかったが、お祝いの一言でも送ろうとLINEに「最近元気ですか?」と送った。
その瞬間、電話が鳴りすぐに出た。
「元気だよ」
先輩は即答だった。
逆に元気かと問われ、正直元気ではないと返した。
「また好きな人作ったらいいじゃん。星は無限にあるんだから、その中から月を見つけてアポロみたいに辿り着くんだよ」
「ムリですよ。僕なんかには」
すると、
「そう。私が君のことを好きになれなかったのと同じようだね」
どういう意味だと返した。その返答は、
「こんなに何年も好きでい続けられるような人はムリだって」
半分、笑いながら言ったそのセリフは、好きになった時点で振り向かせることが不可能であったことを自分に痛感させた。
それからテキトーな会話をして電話を切った。
幻滅した。もう恋愛感情など残っていなかった。
でも、その先輩に教えてもらった組織での処世術や人脈形成、音楽の知識はその後の人生(特に大学生になってから)に活かされることになった。
今でも感謝してるし、好きだったことを何も恥じていない。
ルソーは教育学の古典『エミール』で初恋を第二の誕生と呼んだ。
まさに自分の初恋は、大人になる為の通過儀礼であり、主体性を確立し得た。
大学生になってまた好きな人ができたり、恋人ができたりしたが、
この先輩のことは一生忘れないと思っている。
もし死ぬ時、最後に思い浮かぶ人は、先輩だとすら思う。
自分がなれないような人に、誰しも憧れを抱くとよく言う。
まさにそうだった。