日が落ちるまでまだ少し時間はあった。吹雪は止む気配がなかった。森も村も白くかき消えていていた。名前を呼ぶ声も風に飛ばされていく。
愛する娘を、愛しい孫を探しに出て行こうとする父親と祖父を引き留めるのは容易ではなかった。神父がなんとか説き伏せた。老練な狩人でもこんな日は家に留まるだろう。神父はできれば2人を家まで送っていきたかったが、嵐が止むまではここに留めおくしかなかった。
ユーリとヴァーシャは互いの位置がわかる範囲を保ちながら少しずつ捜索範囲を広げていった。かろうじて残っていた明るさが薄れていく。雪が降り積り、スキー板が埋もれそうになる。
「リュボーフィ!」
すぐそばにいるはずのユーリの叫び声が遠くに聞こえる。小さな雪の塊があるたびに、埋もれた子供ではないかとストックで探ってみる。そんなに遠くに行くはずはない。すぐ近くにいるに違いない。
村外れの広い雪原にさしかかった時、日が落ちた。互いのヘッドランプの灯りしか見えなくなった。
「目印にここにいてくれ」
頷くユーリに背を向けると、ヴァーシャは森に向かってスキーを滑らせて行った。振り返ると辛うじて灯りが見えた。
「ヴァーシャ、それ以上は危険だ」
辛うじて言葉が聞き取れる。了解の印にライトを点滅させる。
立ち止まる。何か聞こえた気がする。人の声ではない。
