「リラに降る雨」
水木かおる作詞、藤原修行作曲、斎藤恒夫編曲。レコード・アルバム「東京セレナーデ」(1982年発売)に収録。
「リラの花 雨にけむれば 想い出もむらさき・・・」で始まるこの歌は、北の都、札幌にいるかつての恋人を偲ぶ歌である。リラ(ライラック)は初夏に淡い紫色の小花を多数咲かせる。それがたくさん咲くと、沈丁花ほど強くはないが、甘酸っぱい香りを放つ。この曲はそのようなリラの花の特徴を活かして恋しい男への思慕を綴る歌詞で、それに映し出される女の心情を、都はるみは低音から高音そして低音と繰り返す波のようなメロディーにのせて歌う。
1番の歌詞では、歌の出だしに続く「口づけの熱さは今もくちびるが覚えています・・・」で、リラの花の咲いている北の都のけむるような夜雨のなかで恋人を待ち、楽しかった時を偲ぶ女の姿を映し出す。2番では「ほろほろと涙こぼして、散り急ぐ花びら」と、こぼれる涙ように散っていくリラの紫の小花に自分の心情を重ね合わせ、長くは続かなかった逢引の日々を振り返り、もう一度雨の街角を二人で彷徨いたいと願う女の姿を歌う。そして、「リラの花 むせる香りに むせび泣く 面影」がある。それは「リラの花のむせる香り」を想い出して、別れた恋人を偲んでむせび泣く女の姿であろう。遠い北の都にいるかつての恋人に、「いちどだけでも、胸深く抱いてください」と叶わぬ願いをする女は、むせび泣きつつ、二人で歩いたあのリラの花の散る道を想い出している。
私は特に都はるみが低音で歌う「北の都の 遠いあなた」とそれに続く女の願望、「私が死ぬときは逢ってください」、「夢で逢えたら、痩せたねと言ってください、「いちどだけでも 胸深く 抱いてください」の箇所の歌唱が特に好きである。
「東京24時」
吉岡治作詞、市川昭介作曲、斎藤恒夫編曲。レコード・アルバム「東京セレナーデ」に収録。
去っていく男にすがりついても、彼が自分に戻ってくることはない。それを知る女の心情を歌うこの曲の出だしは「噛んでください この指を 傷つくほどに・・これが最後のわがままだから」。しかし、彼はそうすることもなく、ただ冷たく遠ざかるだけである。かつてはキャンドルの灯りのもとで、蒼いカクテルを口にしながら何も言わずに見つめ合った二人だったけど、それも今となっては蜃気楼のよう。そして、もう「これっきりねと泣き笑い」、ヘッドライトの光だけがまばゆい都会の24時に、ヒールを脱いでおどける女。まるでピエロみたいに。
都はるみはこの女の心情を静かに、愛情を込めて歌って、女の悲しさ、やりきれなさを映しだす。
「お富さん」
山崎正作詞、渡久地政信作曲。レコード・アルバム「はるみのお富さん」(1971年発売)に収録。この歌は春日八郎が歌って大ヒットした歌のカバー曲で、歌詞の内容はいくつかのwebサイトで解説されているので、そちらを参照されたい。
都はるみはこの歌を陽気に軽妙に、伸びのある高い声で歌っている。私は彼女の「お富さん」という切られの与さがお富に呼びかけるときの歌声がとても気に入っている。この部分を聴くだけでも、この曲を聴く価値があると思う。