全国各地には、さまざまな神楽が伝えられており、
九州にも数多くの神楽が今なお伝承されています。
九州の神楽というと、宮崎県の高千穂神楽、福岡県内には筑後地方の筑後神楽もあります。
そして、熊本県には肥後神楽、長崎県には平戸神楽などがあります。
大分県は、県北部には豊前神楽、国東半島には国東神楽、大野郡には豊後神楽、
県南部の海岸部には佐伯神楽・臼杵神楽など、多様な神楽が伝えられています。

福岡県と大分県北部は旧豊前国に当たる企救・田川・京都・仲津・築上・上毛・
下毛郡に伝えられている神楽を豊前神楽、あるいは豊前岩戸神楽といいます。
中津市の神楽は旧豊前国であり豊前神楽の系統にあたります。
この豊前神楽は大きく見れば、出雲流神楽の系統の中に含まれますが、
湯立て神楽や曲技的な演目に伊勢流神楽の影響を見いだすこともできます。
それと同時に、この地域独特の山岳信仰の影響も見られます。
豊前は八幡文化とともに英彦山や求菩提山、桧原山などの豊前修験が栄えた地でした。

豊前神楽のそもそもの始まりはいつか？　
この問題に答えられるだけの史料は残念ながらありません。
神を祀るという行為は古くからあるにしても、宮中の御神楽の制定が平安時代ですから、
里神楽の発祥と展開はこれより遅れるはずです。民俗芸能学会の柏木實氏は、
豊前神楽の成立は「15世紀から16世紀にかけてではないだろうか」と述べて、
「成立期の神楽は、祓いの要素の強い神事的な採物舞や湯立のみであり、
演劇的な面神楽の採用は江戸時代になってからではないかと推測される」と、
豊前神楽の展開についても触れておられます。
しかし、仮面を用いた演劇性の高い神楽が豊前神楽に取り入れられるのは、
江戸時代も中頃以降ではなかったかと思われます。
豊前市山田、大富神社の社司をしていた長谷川家（現在・中津大神宮宮司）の
江戸時代の史料の中に「午　七月」に記された史料があります。
これは宝暦12年（1762）に書かれたものと推定されているもので、
神楽の舞い手と囃子方として、19名の神職がいたことが分かります。
この人たちは、山田大富神社の長谷川家と同社の清原家、
久路土の石清水八幡神社の矢幡家、角田八幡神社の矢幡家、
山内の嘯吹八幡神社の初山家、三毛門・高瀬村の高橋家などで、
いずれも各神社の社家の人たちです。

豊前神楽の話はさらにつづきます(;^_^A
画像は初期の出雲神楽の影響をうけ、江戸期の社家神楽の形を残す
面をつけない「直面神楽」です。

豊前神楽 Ⅰ

豊前神楽　Ⅰ　