ユウが退院した

 私は大忙しだ

ユウの身体は元に戻らなかった

 脳梗塞の後遺症が残ってしまった

 会社からは「今月は休んでくれ。」と言われた

 給料は何割かカットされた

 「いざとなったら会社なんて冷たいモンだって。」

以前から言っていた私の言葉を今 ユウは実感している

 ユウが失ったものは 身体の機能ばかりではなかった

 「血管による痴呆はある。」主治医の言葉は

 ユウにとっても私にとってもショックだった

 ユウの頭ン中は

 元のユウの頭ン中とは明らかに違っていた

 ランはランで相変わらず私の手を煩わせ続けているというのに…

 ああ…神様

これ以上私を苦しめないでください

 ユウは主治医に車の運転も禁止された

加害者にならないためだ

 ユウの発する言葉はよく聞き取れない

何度も聞き返す私

 40代なのに…

まるで“老人”

 わたしは励まし続ける

大らかな気持ちでユウのしぼんだ心を包んでやるんだ

 デンと構えて動じない“母ちゃん”を演じ続けるんだ

でも

ガラじゃない…

 

 ぐっすり眠っているラン

パジャマに着替えてやらなきゃ

“お姫さま抱っこ”で

ソファーから 敷いた布団の上にそっと寝かす

お、重い…もう “そっと”も何もない

寝かせられればいいのだ

私の腰痛が治らないのは体が成長していくランを

抱き上げなければならないことがあるから。

目を覚ます様子もない

 おねしょはないけど…

おしっこがしたくて目が覚めた時

私も直ぐに起きてランをトイレに連れて行かないと

“失敗”してしまうことが多い

先日もー

「なんでヒトの布団ですんのよぅ!」と

嘆いてしまった

寝ている私の上に乗っかって来て“する”時もある

一応パンツにパッドを当てて寝るのだけれど

身体が大きくなった分おしっこの量も多いね

「あ、濡れた!」

私のパジャマにランのおしっこが滲みて来た 

 さ、パッド付きパンツに着替えなきゃ

眠っているランのズボンとパンツをスーッと下げ

パッド付きパンツとパジャマのズボンを履かせる

 長い足…

脱がすのは簡単だけど

履かせるのはちょっとタイヘン

なにしろもう赤ちゃんのようなちっちゃなお尻じゃないし

いや、大人に近いお尻だ

重い…

  上もパジャマに着替えて

漸くランの就寝タイム

 さて、私はこれからシャワーを浴びよう

 

今日は長かった夏休み明けの学校だったから

疲れちゃったんだね、ラン

お昼前の下校だったけど

疲れちゃったんだね

夕飯を食べたら 

眠くなってしまったね

ソファーに寝そべっているラン

「目をこすっちゃダメ!」

何度言っても強くこすってしまう

   お医者さんに言われたでしょう「水晶体に傷が付くからこすってはいけない。」って

加減というものを知らない

眠いから仕方ないかぁ…

“食べこぼし”がひどいから掃除しないとお布団も敷けない

掃除機をガーガー掛けていても

ランはもう深い眠りについいる

今日から新学期が始まった。

白いセーラー服のラン。

よく 似合うよ。

紺のチェックのスカートはちょっと長めだけど…

パンツの上に履いた黒のスパッツでもやたらと見えちゃマズイものね。

「さぁ、靴下はくよ。」

そう言って 玄関に座らせる。

体を抱いて座らせるように押してやらないとなかなか座らないこともあるけど

今日は ちょっと触れただけで自分から座ったね。

「ズック履くよ。」

そう言って 座っているランの左足をズックに入れてやる

ベルクロをしっかり止めてやり

次は右足。

自分から立ったね。

すっかり“お出掛けモード”だね。

セーラー服を着たから 学校に行く、てわかっているのかなー

「鍵を掛けるから 待っててね。」

“待つ”のが苦手なランだけど

玄関の鍵を掛ける時だけは なぜか ちゃんと待っていてくれる

今日は 同じ学校に通うスズキくんのお母さんの車に乗せてもらう

私の車は修理に出てるから… 

 

「大通りまで歩こう。」

ランの手を繋ぐ。

歩き出す。

内心は ちゃんと付いて来てくれるか不安だったけど

「おお!」

歩いて来てくれるではないか!

スズキくんのお母さんの車で

スクールバスのバス停に向かう

「ランちゃん、美少女!」

年下のスズキくんは “美少女”なんて言うステキな言葉を知っている

スズキくんのお母さんが スズキくんに聞く

「美少女、ってどう言う意味?」

「美しい少女!」

(ランは私にとっては“美しい少女”だった)

初めて乗る車に固まっているラン。

ちらっと笑顔が見えた時には

「ほら、バス停に着いたよ。」

今日から新学期。

「行ってらっしゃい、ラン。」

 

このランキングというのは グラフになって現れるんだぁ!

すごい!

今更 驚いてるのは 私だけ?

 だって 今 初めて知ったんだから!

 この自分のブログのランキングのトコに UP だの DOWN だののマークを見るたびに

なんか、こう ちっちゃい動揺があるんだけど‥

 それなら、ランク付けに参加しなけりゃいいものを…

 気になるんだな

 で、30000位とかのレベルでも ちっちゃい一喜一憂があるわけで

 

 それより、このブログにはまると 他の仕事に支障が出るのは

私だけ?

 普段から要領が悪いから これを書いてると 他の「やりたい事」 「やらなければならない事」

ができなくなって来る

 私だけ?

 

 ボディを擦って傷つけた新車を修理に出すため、工場に入れた。

自分で運転して行ったため、帰りの足がない…。

 歩いた。

 工場前のバス停を横目に歩いて行った。

昨日からのひどい腰痛。

腰にコルセットをビシッと巻いてあるから、大丈夫、だろう…

 大通りは何台もの車が行き交う。

30度を超えるこんな暑い日にてくてく歩く独りの女。

いや、おばさん。

 すれ違いざま このおばさんを視野に入れた人は なんて思うのだろう…

と、考えるのは 自分が意識過剰という事か。

 

 途中 いつも通っている皮膚科に寄った。

アトピー性皮膚炎を患って43年。

(あ、言っちゃったぁ。)

ん?42年かな?

(もう このくらいになったら、どうでもいいでしょ。)

 内服薬、塗布薬、一日たりとも欠かせない。

 医院の待合室で休憩を兼ねて雑誌を手にする。

今日は 診察を受けず、薬だけをもらうのだ。

私と共に年を重ねたアノ先生に会わずに帰ろう。

(べつにドクハラされる訳でもされた訳でもないけど。)

 皮膚科を出て また歩き出す。

目的地まで半分くらいまで来たようだ。

 喉が渇いて来た。

どこか喫茶店に入ろうか。(独りで入れないくせに。)

もう少し行けば、アイスクリーム屋さんがある。

 カップで頼もうか、コーンにしようか。(独りで入れないくせに。)

自販機でスポーツドリンク、がいいんじゃない?

でも どうしてか、自販機が現れても現れても

通り過ぎてしまう。

 結局 目的地近くのスーパーに入って、重い荷物にならない程度の買い物をして

飲み物も買った。

 スーパー内でカップにストローを刺して

歩きながらストローを口に持って行った。

(初めてかもしれない、大人になって飲みながら外を歩くなんて。)

 歩道を前方から高校生の自転車軍団が押し寄せてくる。

もちろん道をあけるのはおばさんだ。

彼らが私を避けて通るとは思えなかった。

男臭い汗の臭いとともに自転車軍団は私の横をすり抜けて行った。

 次に押し寄せるは 女子高生の自転車軍団

近頃は…

女の子と言えど、一人のおばさんに道を譲るなんて思わないらしい。

身の危険を感じるまで、直進したが、

やはり横にそれたのは私だった。

 あぁ、やっと病院の門が見えて来た。

目的地だ。

ここに夫の車が止めてある。

病室の夫には会わずに帰ろう。

(今朝 洗濯物を取りに行ったから)

 きゅるるるる…

エンジンが掛からない

きゅるるるる…

あれ~?

どきどきする

ここまで来て 夫の車で帰れないなんてことあるだろうか。

代車を借りるべきだったのか。

もう一度

お願い!

お、おおぉー

やった、掛かった

く、く、く、く、すとん

あらら 切れた

 どきどき

どうなるんだぁ?

あ、急に腰に激痛が…!

居間でランが私とすれ違う。

  と 、私の右手の中にあったガラスの器がストンと落ちた。

  スローモーションで見たんだ。

落ちていく器。

床で砕け散るガラス。

ガラスの破片は飛び散った。

細かく砕けて散乱した。

  ランは静止していられない。  

  だから 私はランの手を握ったまま掃除機を取りに行った。

  ランの手を握ったまま掃除する。  

  米粒の十分の一くらいの欠片だって見逃せない。

  ランの足の裏はまだ柔らかいから。

  刺さっても 自分で取り去れない。  

  「刺さったから、取って。」とすら私に伝えられない。

  だから 血眼になって掃除したんだ。

明日も何かが起こるのか…

40代で脳梗塞を患い、入院したユウ。

 入院2週目に入ろうという時、もう一週間延びると知らされ 動揺する私。

ブロック塀に新車をガリガリと擦ってしまった。

 動揺と自己嫌悪が同居した瞬間。

なんか 頭がフラフラしていたんだ。

 

 

居間でパンツの中に大きい方を排泄して 知らんふりのラン。

 ランは中学生の娘。  

 愛しい娘。

 美しい目をした少女だ。