◇「加害者になり逃げ出せず」
ドラム缶事件の公判では、家族同士が標的を変えながら暴行を繰り返したことが明らかにされた。遺体で見つかった仲島茉莉子(まりこ)さん(29)と、美代子被告の息子と結婚した角田瑠衣(るい)被告(27)の姉妹も、家族を殴る場面が目撃されている。
新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「家族の誰かを悪者にし、家族を分断するのはカルト宗教に典型的な手法。家族愛が働くので警察には通報せず、お金も集めてしまう。それが結果的に家族の崩壊を招く」と分析する。一方で美代子被告は、養子縁組などで自分の周りに「疑似家族」を作った。碓井教授は「一度そこに入れば他に帰る場所はなく、仲間とともに罪を犯せば一層抜け出せない。結婚した瑠衣被告も本当の家族だと言い聞かせ、必死にしがみついたのでは」と内面を読み解いた。http://mainichi.jp/area/news/20121026ddf041040004000c.html
長谷川博一・東海学院大教授(臨床心理学)は、穏やかに振る舞って相手が心を許した後に、暴力を背景に脅すという順番が鍵だとみる。「最初は相談に乗り、相手に依存の構えを作らせながら財産や家族構成を聞き出す。その後にすごむことで、弱みや情報を握られた相手は『ヘビににらまれたカエル』のように身動きが取れなくなってしまう」と分析する。
支配欲から言動を解釈する専門家もいる。刑事裁判で数多くの心理鑑定を手掛ける「六甲カウンセリング研究所」の井上敏明所長(犯罪心理学)は「美代子被告は、常にリーダーになりたい男性的な欲求があり、相手を服従させること自体が目的だったのではないか。繰り返すうちにエスカレートし、罪悪感もなくなったのだろう」と推測する。
ジャーナリストの大谷昭宏さんは、類似する事件として、メンバー間で凄惨(せいさん)なリンチが繰り返された連合赤軍事件や、7人が死亡した北九州・連続監禁殺人事件を挙げ、「被害者は一度は加害者になっていて逃げられない。もちろん逃げようとすれば被害者になり、組織内で暴力が増殖していく」と集団心理が働く構造を指摘。その上で「今回は、家族関係を新たに作り、アメーバのように広げていった点が従来の事件と異なる」とみている。