青野栞、高一。
「男子」に憧れる十六歳。
橙色に染まる教室に、開け放った窓から金木犀の香りが漂ってくる。
グラウンドから聞こえてくる運動部のかけ声。
窓の近くまで寄って声のした方を覗いてみると、サッカー部の男子たちが互いに声をかけ合いながらボールを追いかけている姿が見えた。
あぁ。やっぱり眩しいな。
男子ってどうしてあんなに輝いているんだろう。
笛が鳴り、部員たちが校舎の方へ戻ってくる。どうやら今のは練習終了の合図だったようだ。
栞は天井を見上げながら嘆息した。
思えば、もうずっと幼い頃から男女の違いは出ていたんだと思う。
あの頃から、女子の間にはすでに「壁」があり、グループという狭い世界ができていた。
面白くもないのに周りに合わせて無理矢理笑う自分の姿は、まるで仮面をつけた道化のようで吐き気がした。
言葉のナイフが飛び交っていても誰も何も気づかないふりをする。
私がいるのは、人を集めて強がっている臆病者たちの世界。
栞は再度外に目を向けた。
サッカー部だけでなく他の運動部も練習が終わったようで、グラウンドには誰もいなかった。
そこのさっきまでのはじけるような勢いは無く、さびしげな二つのゴールがただ佇んでいるだけだった。
と、不意に教室の扉が勢いよく開いた。
「青野!まだ残ってたのか?」
少し驚いた様子で声をかけてきたのは、サッカー部で幼なじみの井野だった。
「うん。日直の仕事が残ってて」
「大変だなー。手伝おうか?」
「ありがとう。でももう終わったから」
井野はペットボトルに入っているスポーツ飲料を飲みながらイスに座った。
栞もなんとなく正面のイスに座り、井野を見た。
やっぱり男子とは気軽に話すことが出来る。
それは井野が幼なじみだからかもしれないが、少なくとも女子と話している時よりはずっと自然体だ。
多分、男子側が「壁」をつくっていないからだろう。
男子は自己主張をはっきりするから、言葉に嘘がない。
活発で、革新的で、恐怖を知らない。
偉大な科学者に男性が多く、男子スポーツのほうが盛り上がるのも、失敗を恐れず挑戦し続けているからではないだろうか。
そういう「強さ」が男子にはある。
だから私は、どうしようもなく「男子」という存在に憧れてしまうのだ。
栞は顔を上げて、タオルで汗を拭いている井野に話しかけた。
「井野、あのさ」
「んー?」
「何で女子ってグループができちゃうのかな」
井野は動揺した顔で、栞を見た。
「そりゃあれだよ。気の合わないやつと一緒にいたくないんだろ」
「んー・・・そうだよね」
栞は井野に聞こえるか聞こえないか程度の声で言った。
「でも・・・やっぱり全員がお互い本音を言い合えるくらい仲良くなればいいのにな」
沈黙が二人を包んだ。
最初に口を開いたのは井野だった。
「俺はさ、仲良くなれないっていうのは、相手のことをよく知らないだけだと思ってるんだ。みんな気の会わないやつを直感的に決め付けて距離を置いちゃってるんだよ。だから、もっと深くまで相手のことを知ったら、意外なところも、尊敬できるところも、それこそ嫌なところも、はっきり分かると思うよ。そしたら、この世に仲良くなれない人なんていないんじゃないのかな。それは、本当に難しいことだけど」
これ、俺的持論と言いながら井野が笑う。
栞は呆然とした顔で井野を見た。
知れば変わることもある。
伊野はその事を言っているのだ。
そう思ったら、自分の悩みがいかに小さなことで、愚かだったのか。
栞は急激に恥ずかしさがこみ上げてきたのと同時に、井野に対する感謝の気持ちで心がいっぱいになった。
栞は顔を上げた。
「井野はすごいね。こんな私の悩み聞いてくれるし。ほんと憧れるよ。どうもありがとう」
栞は席を立ってかばんを持った。
「じゃあ、もう外真っ暗だし帰ろっか」
心なしかさっきよりも軽い気持ちで教室の扉まで歩いていく。
井野はそんな栞の後ろ姿を見ながら思った。
・・・なんて、もっともらしいことを言って。
青野は俺のことをすごいなんて言ったけど、ただ格好をつけているだけだ。
男子なんていつまで経っても不器用でみっともない。
好きな子に告白1つ出来ないんだから。
青野が相談してくれるのが嬉しくて、いつまでもこのままでいいや、なんて思ってしまう。
悩んでいるお前がほっとけないなんて適当な理由をつけて、本当は俺のエゴで、これからも俺は青野の側にいるんだろう。
いつか、お前の俺に対する感情が「憧れ」から「恋」に変わるその日まで。
***
はい!突然なんじゃこりゃという感じですが、いわゆる自作小説です。はい。
お題は「男女」でした。
携帯の方、長々すみません。さぞかし読みづらかったことと思います。
それでは、こんなところまで読んでくださってありがとうございました!!