目の前には舞台があり、自分は観客席にいる。そして、舞台の上では、今まさに、自分達が演じていたはずの芝居が、他の者によって演じられていた。
≪お前の願い、私が叶えよう≫
そう言った“根源司りし王”が“闇集いし者”から、魔力を吸い取るシーン。それを、自分は、舞台の袖で見ていたはずなのに。
「お前が一人で舞台を見るなど、珍しいな」
「サイス…」
先程声を掛けてきたのは、やはり、舞台の上にいたはずのサイスだった。そこで、ようやく、ライトははっきりと覚醒する。
「そうか、少し、眠っていたみたいだ」
「おいおい、酷いな。俺の舞台だぞ?」
「ってか、王帝陛下が、一人でよく来られたな。大臣が泣くぞ」
サイスの言葉は無視してライトが問えば、サイスは、あの時から変わらない笑顔で答える。
「ライトが一緒だと言ったら、二つ返事で出してくれた」
「…どうかしてるな、この国も、お前も」
思わず乾いた笑みを浮かべたライトに、サイスは軽く笑ってみせ、空いていた隣の席に座る。
「しかし、お前達兄弟が舞台に立たなくなって、すっかり客足が遠のいてしまったぞ」
「それは、お前が王帝陛下になって、舞台に上がれなくなったせいもあるんじゃないのか?」
「それも一理ある」
冗談で言ったつもりだったのだが、あっさり肯定され、ライトはだんだん返すのがバカらしくなって、言葉を続けるのをやめる。
このまま舞台に集中するのも悪くないか、そう思った時、
「何だか、急に見たくなったんだ。少しの間だけ、昔に戻れそうな気がしてな」
「……」
サイスに言葉に、今度は別の意味で、ライトは言葉を続けることが出来なかった。
サイス主催の舞台を演じて数ヵ月後、まるで、この芝居をなぞるかのように、ライトは、内戦の鎮圧に赴いた先で命を落とした。そして、リンが唱えた“再臨”によって復活し、今、ここにこうしている。
「皮肉なものだ。俺の書いた話が、現実になるとはな」
「それでも…」
言いかけて、ライトはそこで一度言葉を切る。
確かに、自分が今歩んでいる道は、サイスの描いた物語にそっくりだ。だが、まだ果たせていない部分がある。
「最後に“闇集いし者”と“光まといし者”は、国王の為に尽くし、国の英雄になる。だからこその、英雄の叙情詩(バタル・マルハマ)なんだろ?」
「…あぁ」
そこまで言ってみれば、ようやく、サイスも笑ってみせた。
「お前達になら、出来るさ」
「えぇ、尽くしますとも、王帝陛下。この命、続く限り」
「やめろ、どこまで本気かわからん」
「お前に言われる筋合いはないぞ、バカ王子」
「王子じゃない、王帝陛下様だ」
冗談めかしたやり取りに、今度は、二人して笑うことが出来た。
“再臨”の前例などないのだから、自分がこの先どうなるかはわからない。それでも、リンとサイスの為にできることがあるなら、と、思わずにはいられないのは、自分の性分か、それとも、この身に宿る魔術の影響か。
「そろそろ終幕だな。久し振りに、うちに来るか? サイス」
「あぁ、そうだな」
頷いてみせるサイスに、ライトは、どこか安心感を覚える。
それぞれの、立場は変わってしまった。
リンは宮廷魔道士をとうに止め、何でも屋を始めていて、今は、ライトを復活させた罪として、うちうちに処罰を与えられた。
サイスは、ライトが“再臨”で復活したのと時を同じくして、王帝陛下に着任している。
そして、ライトも、いまだ宮廷魔道士として席は置いているものの、日中、外を出歩けない体になって。
それでも、確かに変わらない関係は、ここにある。
「さすがは俺の片腕だな。頼もしいことを言ってくれる」
「それ、リンが聞いたら怒るぞ」
笑い合いながら席を立って、昔と変わらない言葉を交わしながら、会場を後にする。
英雄、なんて、立派なものじゃない。何一つ守れず、大事な弟に責を負わせた自分には。
だが、いや、だからこそ、出来ることがあると信じて、前に進むだけだ。
二人で一つの双子だから。
支え合って、乗り越えていける。
英雄になる、とまではいかなくても。
ただ、真っ直ぐに自分達の道を進んでいこう。
お互いの存在を信じて、笑い合って生きていけるように。