春木漁港にて
先日泉州春木港へ足を延ばす。漁港である。一角に船のメンテナンスのドックがある。あんまりそこに船が入渠している姿をみないのだが、この日は入っていた。真近で見ると漁船というのも相当デカい。海に浮かんで群れている姿ばかり見てるけど、水面下の船体まで目の当たりにしてちょっとビビった。相当アナログ感を残したビジュアルがかっこいいんだけど、その姿で思い出すことがあって。あれは平成20年(2008年)のこと、東京に用事があって一泊か二泊して、古い友人と会った。帰りに横浜トリエンナーレに行った。大きなアートイベントで会場もいくつかあり、一つの会場を見たぼくは小雨模様の中、別会場へ歩いていた。するとアートとは関係なく海上保安庁の建物があった。「拿捕した北朝鮮の工作船を展示中」と出ていた。心はアート一色だったのだが、見てみようと思い、中に入った。それね…すごいもんだった。錆びた老朽化した鉄の塊の船。居住区などまるでなく、いったいどこで寝たり食ったりしていたのか。武器や通信機器もそうとう古いものに見えた。こんな装備でこんなものに乗って命令のままに大海原に。安全も命もまさしく木の葉のようだ。ぼくはよく思い出す海のシーンがいくつかある。古くは遣唐使船、風まかせ潮まかせの古代の船旅は遠い昔の分、ロマンを帯びるが、いや相当な命がけだろう。幕末の吉田松陰が熱情のあまり下田から小舟でポーハタン号に漕ぎ寄せ、強引に乗船した事件。明治の川上音二郎が明治人の蛮勇で妻の貞奴とともに築地からボートでの神戸行。しかしそれらは何か人間の行為であり、熱意や救いがある。工作船にはそんなものは微塵もなかった。その後、海上保安庁を後にして、ぼくは横浜トリエンナーレを楽しみ、帰途についた。ずいぶん重い展示を見た東京行きだった。